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36 告白

 戦争が終わって、いったんグノームに戻っていたシンと葵は、麻衣の即位記念式典のため再びシルフィード王国の首都グレート=ゾディアックを訪れていた。式典の前にパレードがあるということで、王宮のテラスに置かれたテーブルでシンはがんばって段取りを覚えようとする。


 海にほど近い丘に建てられた王宮のテラスからは港が一望できる。整然と並ぶ少し古びたレンガ造りの建物。埠頭に泊まる大小様々な帆船。空にはカモメが舞い、潮の香りが鼻腔をくすぐる。


 城壁のおかげで市内に大きな戦乱のなかったグレート=ゾディアックは異国情緒溢れる町並みが残っていて、南欧の観光地に来ているような感覚だった。内陸で郊外に雑然とした町並みが広がるアストレアとは全然違う。


「なるほど、俺と麻衣が先頭で馬車に乗って……あれ? 葵は二列目になるのか?」


 麻衣が書いた図を見てシンは首を傾げる。シンではなく葵と麻衣が先頭で並ぶべきではないだろうか。葵はシンが見ている図を覗き込んで、目を細める。


「ふうん……? どっちが上か教えてあげなきゃいけないのかな?」


「おいおい、こんなところまで来て問題起こすのはやめてくれよ……」


 もしも葵が先頭で麻衣が後ろなんてことになったら、どっちが主役かわからない。確実にシルフィードの民から反感を買うだろう。一応ここは外国で、シンも葵も侵略者ととられかねない位置にいるのだ。国際問題待ったなしである。


「そろそろ正式に結婚式を挙げようと思ってたんだけど、早めた方がいいのかな……?」


 葵はなにやらブツブツとつぶやくが、そこにレオンとクイントゥスがやってきた。


「こ、これは葵様、ご機嫌麗しゅう」


「あちらに資料を用意してあります。どうぞ」


 レオンとクイントゥスは不機嫌そうな葵を屋内に案内しようとする。二人の顔を見るのも久しぶりだ。シンも葵も、グレート=ゾディアックを占領した次の日には物資の手配のため、アストレアに戻っていたのである。


 その後何度かグノームとシルフィードを往復したが、こちらには短期の滞在しかできていない。麻衣とも、ほとんど話をすることができていないくらいだ。


「いいよ、シンのを一緒に見せてもらうから」


 葵はすげなく断るが、どういうわけか二人は必死だ。


「へ、陛下、そう仰らずに!」


「せ、専用の資料があるのです!」


「ならそれをここまで持ってきなよ」


 あくまで動く気のない葵は、頬杖をついて冷たくあしらう。深刻な表情でレオンとクイントゥスは顔を見合わせる。


「こ、こうなれば……」


「う、うむ、実力行使しかあるまい……」


 資料くらい、葵の言うとおり持ってくればいいだろうに。シンはそう思ったが、二人は示し合わせてむんずと葵の肩を掴む。


「ちょ、何するんだよ!」


「さ、陛下、こちらです」


「どうか、抵抗なさらずに」


 葵は抗議するが、レオンとクイントゥスは完全無視して葵を持ち上げ、グレイを引きずる黒服のように葵を連れ去ってしまった。全く意味がわからない。


 シンが首を傾げていると、入れ替わりに麻衣がやってきた。


「よ、シンちゃん、久しぶりやな。元気か?」


「おう、そっちこそ元気にしてたか?」


 麻衣とちゃんと話すのは三ヶ月ぶりだ。ここのところはこっちに来たとき、麻衣は王座に鎮座して多くの臣下を従えていて、世間話をできる雰囲気ではなかった。麻衣は葵が座っていた椅子に腰掛ける。


「ウチは元気やで。みんな、ウチのためにがんばってくれるしな。……全部シンちゃんのおかげや!」


 麻衣の後ろで黒い尻尾が嬉しそうにゆらゆら動く。麻衣が魔族であるということは知れ渡っており、尻尾も特に隠す必要がない。外に出している方が開放的で気持ちいいからそうしているということだった。


「いや、俺は何もしてない。全部麻衣の力だよ」


 照れも入っているが、本音だ。グレート=ゾディアックの攻略法もラファエルの倒し方も、シンは全く思いつかなかった。全て麻衣が自分で考え、力を振るった結果である。その意味で、シンは何もしてない。


「いや、それでもシンちゃんのおかげなんや。ウチ一人やと逃げることしか考えてなかったから……。せやからシンちゃん、好きやで。ウチと、結婚してください!」


 麻衣はガシッとシンの手を握る。小さな麻衣の手は暖かくて、熱い。勢いに押され、思わずシンはうなずいてしまった。


「え、あ、おう」


「ありがとう、シンちゃん! さっそく式を挙げよう!」


「え、おい、ちょっと待て!」


「ええから、ええから!」


 たまらずシンは待ったを掛けるが、麻衣は聞いてくれない。シンは麻衣に手を引かれて、王宮内に連れて行かれた。

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