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35 ウルトラC

 終戦から息つく間もなくシンたちは食料の手配に追われた。麻衣がハエを使って消してしまった食料が戻ってくることはない。そのためシンたちは至急グレート=ゾディアック市民の食料を調達する必要に迫られたのである。


 「市民など放っておいてシルフィードの統一を急いでは」という意見もあったが、麻衣が却下した。麻衣曰く、「食い物の恨みは恐ろしいんや」。市民に餓死者が出るような状況になれば、麻衣は民衆にそっぽを向かれると同時に、政権交代待望論が出てくるだろう。女王麻衣の地位を盤石とするために、戦うより先に足下を固めなければならなかった。


 シンたちは近隣から食料をかき集めて当座を凌ぐと同時にグノーム本国から非常用の備蓄食料を運ばせる。一ヶ月にわたる懸命の輸送作業の結果、どうにかグレート=ゾディアックの食料事情は小康状態となり、シンは胸をなで下ろした。



 そうしてようやくグレート=ゾディアック開城から三ヶ月後、麻衣の即位記念式典が開かれることとなった。麻衣は前日にグレート=ゾディアック内の王宮で円卓を囲み、臣下たちと最後の打ち合わせをする。


「……なるほどな。パレードはウチが先頭で、葵が二番目か。……で、シンちゃんが三番目? これはおかしいやろ。なんでウチの婚約者のシンちゃんが二番目とちゃうんや?」


 左手にはめた風の指輪をもてあそびながら、麻衣は尋ねる。段取りをするのはシルフィード王国なので、この場にはシンも葵もいない。内務大臣を任せたレオンがあらかたの作業は終わらせている。麻衣が投げかけた疑問に、意を決したような顔をしてレオンは答えた。


「シン様にはすでに正室たる葵様がいらっしゃいます。……おそれながら、麻衣様が側室としてシン様と結婚することは認められません。麻衣様のお気持ちはわかっておりますが、国内統一のためにも、東南部の大貴族との婚姻を……!」


 シルフィード王国女王として即位する麻衣だが、まだ国内の貴族全てに認められているわけではない。日和見している者も含めて、国内のおよそ半分は女王の統治を受け付けていなかった。


 特に、豊かな東南部の港湾を有する大貴族たちは反抗の姿勢を見せ続けている。彼らの中から麻衣の結婚相手を定めて、取り込んでしまうというのは確かに妥当な案だろう。そもそも麻衣が側室のままシンと結婚すれば、明確にシルフィード王国はグノーム王国より下だということになってしまう。だが、麻衣は受け入れなかった。


「却下や。ウチは絶対シンちゃんと結婚する」


「しかし、女王が側室では……!」


 レオンは食い下がるが、あっさりと麻衣は告げた。


「何言うてんねん。ウチも正室になるわ」


「は……? いつの間にそのような話が……?」


「ウチが言うたら葵は聞くやろ。それで終わりや」


 麻衣はさも当然のように言い放ち、レオンは呆けたように口をあんぐりと開ける。無駄に真面目な葵であれば、麻衣が同じ立場に立ちたいといって拒絶することはないだろう。


「いや、しかし……」


「形式上そうしたところで、意味があるのか……」


 レオンは困惑顔を浮かべる。エルフ族長で衛生医療大臣のクイントゥスも首を傾げ、円卓はざわつく。クイントゥスの言うとおりどう形式を取り繕っても、独力での国内統一が難しいシルフィード王国はグノームの下風に立たざるをえない。


 だが、変な男と結婚するのは絶対に嫌である。麻衣は言ってやった。


「ウチが国内の誰かと結婚してもーたら、そいつが実質王様みたいなもんや。ここまで苦労してこの国を手に入れたのに、そんなんアカンやろ」


 結局、この場にいるのは内陸部の貧しい貴族ばかりである。三顧の礼で海側の富豪貴族を迎えたりしたら、国を乗っ取られるのは火を見るよりも明らかだ。それでもグノームの属国化するよりはマシとレオンは海側貴族との婚姻を提案していたのだが、ベストの策ではない。


「逆の発想をするんや。シンちゃんを皇帝に仕立て上げた上で、ウチがシンちゃんを籠絡して向こうの実権を握る! ウチらにはそれしか道はない!」


 いつぞやに誰かが冗談交じりに言っていたグノーム=シルフィード二重帝国を実現するのだ。グノームの実権を握っているロビンソンはやっかいだが、皇帝となったシンには逆らえまい。


 葵に至っては、脅威であるとさえ麻衣は思っていなかった。基本的にアドリブが効かない女なので、ロビンソンがいないところで攻めれば楽勝だろう。ちなみにグノーム国内を仕切るのに忙しいため、次の式典にロビンソンは来ない。


「そ、そんなことが本当に可能なのか……?」


「陛下がシン殿と結婚したいだけなのでは……?」


 レオン、クイントゥスをはじめとする臣下たちはまだ懐疑的だったが、麻衣は押し切る。


「大丈夫や、ウチに任せろ! 羽流乃ちゃんが記憶喪失で冬那ちゃんがおらんのやから、ウチに負ける要素はない! せやからみんな、ウチに協力するんやで~!」

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