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それでも俺には関係ない!  作者: ほとまる
プロローグ
3/23

何が何だか分からなかったが俺には関係ない。

「ではこちらにおかけください」


 少女の後をついていき、通されたある一室。


 その部屋も見慣れないものばかり。


 と、言うにはいささか物は少ないように思えるが。


 そもそも。


 かけるって……どこに?


 おそらく少女は椅子に座るように促しているのだろうけれど。


 どれが椅子なのか、正直まったくわからない。


 立ち尽くしていると、少女に声をかけられる。


「……あ、あー、はい、椅子はこれです! わかりにくくてすみません」


「あ、ああ、いや、その、手を煩わせて悪いな」


 しどろもどろな返答をしてしまった。


 やはり、慣れない環境というものは落ち着かない。


 おまけに、ここがどこなのか、どういう経緯で俺はここに来てしまったのか。


 それすらもわからない。


「喉乾いてません? 何か飲みますか?」


 少女は覗き込むように座っている俺に話しかける。


「いや、いらない」


「あ……そうですか……」


 え、なんでそんな落ち込むの?


 女の子泣かせちゃった、ってやつ?


「あ、ああ、なんというか、知らない土地のものを口にするってのは少し心配で……その、も、もちろん君を信頼していないわけではないんだ」


 できる限り精一杯取り繕ってみた。


「……ああ、いえ、別に落ち込んでしまったわけではないんですよ? まあ、よくわからないってのは怖いですからね。わかりますよ」


 他人に対して『わかる』と言うのは、陳腐で無責任な言葉だと思う。


 しかし本当に相手を理解したいと思って口にする言葉は、同じ言葉にせよ、陳腐だと嫌うのもまた違うのだろう。


「あなたの喉が渇かないうちに説明してしまいたいんですけど……」


 ようやく本題に入れるのかと思いきや、準備が整ってないような素振りだ。


 少女はしきりにきょろきょろとあたりを見回している。


「何かあるのか?」


「ああ、いや、何があるってわけでもないんですけど。私一人じゃいろいろ心配なので、もう一人来るまで待ってるんです」


 ああ、なるほど。


「ミヴェル遅いなぁ……」


 これから来るもう一人はミヴェルという名の人物なのだろう。


 聞いた感じ女性名だがはたしてどうだろう……


 コンコン


 ドアをノックする音。


「あ、来た」


 ガチャ


 ドアから入ってきたのは、やはり女性。


 青みがかった髪がはらりとなびく。


 少女とは違って、こちらの女性は背が高い。


 平均がよくわからないが、俺の知っている中では背が高い女性の部類に入るだろう。


「おじゃましまーす……あ、あなたが例の……」


 そう言い、女性は俺をまじまじと見るが、同時に顔を少し顰めた。


「って、何この目のやり場に困るような恰好は」


「いやー、これは私が男物の服を用意してなかったからで……」


「……まあ、普通成功するなんて考えられないものね」


 成功……何のことだ?


「いやいやいや。成功するって言ったじゃん! 私は天才だー」


「成功する自信があるなら、なおさら服くらい用意しなさいよ……」


 女性は呆れたように、一つ、息をつく。


「……っと、紹介が遅れて申し訳ない。私は、この研究所の副所長、ミヴェル・スニーア=カリヴァルだ」


 女性が自己紹介をすると、少女は、はっとした表情をした。


「そ、そういえば私、自己紹介してませんでした! 面目ない」


 はぁ、とため息が聞こえた。無論、隣の女性だ。


「私は、メイア・オリフィナ! この研究所では最年少だけどそれなりに頑張ってます!」


 それなりに。便利な言葉だ。


「言動が子供っぽいところがアレだけど、年の割にはとっても優秀なのよ」


「アレってなんだよ!」


「それで、あなたのお名前は?」


 その質問。


 その瞬間。


 名を名乗ろうとした時、不意にある予感が頭をよぎる。


『名を名乗ってはいけない』


 何の根拠もない、ただの予感ではある。


 が、自分自身、この予感がただの予感だと流すことは出来ない。


 予知、というには大げさすぎるが。


 そのくらい、自分の予感は当たる。


 これまで生きて来てこの予感に助けられたことは何度もあった。


「……どうしたんだ?」


 ミヴェルが訝しげに問う。


 まあ、ここは名乗らないでおこう。


 俺には、カーネディア・マルフィランという立派な名前があるが、未来予知の思し召しとあらば、言うことを聞かないわけにもいかない。


「……ああ、すまん。なんか名前が思い出せないんだ。不思議なこともあるもんだな」


 即興で一生懸命ごまかしてみる。


「……結構な大事だというのに、存外平然としていられるんですね……」


 あれ、これってちょっと怪しまれてる?


 嘘をつくことが苦手な自覚はないが……俺って嘘つくの下手だったのか?


「……まあ、こんなところで嘘をつく理由もないでしょうし」


 そうそう。そうですそうです。そうなんです。


「前例のない実験だったし、そのせいで記憶が飛んだ可能性もありそうだよ?」


「ん……ああ、そういうこともあるわね」


 まあ、なにがなんだかよくわからないが。


 無事乗り切ったか?



 名を名乗ってはいけない。


 その意味が分かるのは、もう少し後のこと。

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