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ましろディスティニー  作者: 鳴海
第3章
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白色の団欒

 今晩の芹沢家の夕ご飯は、シチューだった。それにサラダとトーストである。どうやら芹沢家ではシチューのときはパンを食べるようだ。ましろの家では白米と食べるけれど、しかし考えてみればパンと食べる方が正しいのかもしれない。


「そういや、ましろって市販のパンをあまり食べないんだよね」みずきがトーストを千切りながら言った。意外である。ただし、四枚目だ。シチューにいたっては、おかわりを三回している。家でも気持ちのいい食べっぷりだった。


「そうなの?」美雪が驚く。「じゃあ、料理上手なお父さんが作ってくれるのね。なんでもできちゃうのね」


 父親が褒められると、自分のことのように嬉しかった。嬉し過ぎて、顔が赤くなってしまい、美雪を直視できない。俯いてしまう。


「あらあら」美雪は優しく微笑んだ。


「ね、ね、ましろ」


「なに?」みずきは直視できた。


「私のシチューと詩郎さんのシチュー、どっちが美味しい?」


「そんなのずるいよ!」


 答えられるはずがなかった。


 そもそも比べることではない。みずきのシチューと詩郎のシチューの美味しさは別物である。どちらも本当に美味しいし、優劣をつけるものじゃない。


 ただ総合的に考えれば詩郎だと、ひっそりと頭の片隅で考えているましろだった。長年親しんできた味に勝てるものは、なかなかない。


「ふむ、その様子だと詩郎さんか」


「なんで!?」


「『なんで』って、どうしてわかったかってこと? そんなのましろを見れば一目瞭然だよ。ねえ、母さん」


「そうね」美雪は楽しそうに言う。「ましろちゃんは正直だから」


「顔に書いてありましたか……?」美雪に訊ねる。


「似たようなものね」


「まあ答えられないのが答だよね、ぶっちゃけ」


「ごめん……」


「いやいや、私だって詩郎さんに勝てるなんて思ってないよ」みずきは呆気らかんに笑った。「あの人の域に達するには中学生じゃ無理無理。私の見解では、ましろと舞子さんの存在が大きいね」


「どういうこと?」


 みずきの言っていることがわからなくて、美雪に助けを求めようと視線を送ったが、美雪は微笑んだままでなにも言ってはくれなかった。どうやら芹沢親子にはわかっているようだ。


 自分と舞子の存在が大きい?


 家族。


 しかしみずきにだって家族がいる。そう言った意味では同列だ。家族のことを思って料理をしているのは、みずきだって同じ。差はないはずだ。それこそ比較することはできないが、家族を思う気持ちは、みずきの方が大きいだろうと、ましろは思った。


 言ってしまえば、みずきには美雪しかいない。


 父親がいない分、美雪に対する気持ちは大きいだろうし、父親がいないからこそ、母親に抱く感情も増幅する。


 だからこそ、ましろはその思考に至ったわけだ。


「家族を思う気持ちに優劣はないけど、まああえて優劣をつけるのなら、自分の子供に思う気持ちは別格だと私は思うよ」


「そうなの?」


「そうなんだよ。だからね、私が詩郎さんに負けているのはそれだけなんだ。うん、きっとそう」


「ただの負け惜しみってことね」と美雪が結論づけた。


「母さーん……」みずきが口を尖らせた。


 ましろは思わず笑ってしまう。みずきには悪いと思ったけれど、どうしても堪え切れなかったのだ。


 それだけ楽しく、


 充実した時間だ。


 友達の家というのは、妙に遠慮がちになってしまい委縮してしまうが、今のましろは自然体そのものだった。芹沢親子の温かな空気に包まれ、緊張感がいつの間にか消えていた。まるで自分がこの家族の一員であるかのような心地よさ。


 その心地よさからなのか、ましろは二人の会話に耳を傾けることに集中してしまう。二人の空気とは、そのようなものだ。見ているだけで充分なのだ。それだけで、自分も楽しめる。共感できてしまう。


 そういえば、とましろは思い出していた。みずきが以前に同じようなことを言っていた。ましろの家に遊びに来て、一緒に夕飯を食べたあとのことだ。


 羨ましいとも言っていた。


 けれど、みずきが気付いていないだけで、彼女もまた同じものを、同じ充実感をたしかに持ち合わせているのだ。当たり前すぎて、見えていない。


 家族として欠けているものはあるけれど、


 それでも家族は家族。


 優劣はつけられない。


 優劣など必要ない。


「どうしたんだよ、ましろ。黙りこくっちゃって」


「え? あ、うん。いいなって思って」


「なにが?」


「みずきちゃんの家」


「ほぉ!」みずきが立ちあがった。「いいよ、いつでもうちの子になっちゃいなよ。私の娘にしてあげる」


「娘なの!?」


 居候でもなく、姉妹ではなく、娘と言うのが、実に彼女らしかった。もしかしたら身の危険を感じなければいけないのかもしれないし、今後の身の振り方にも気をつけなければならないのかもしれない。


「あら、私の娘にしたいわ」美雪が言った。「双子って少し憧れてるのよね。同い年の姉妹なんて素敵じゃない」


「いくら母さんでもましろの親権は譲れないな」


「おかしいよ、みずきちゃん!」


「芹沢ましろ。うん、いい名前じゃない。ましろって名前が良いわね。なんにでも合いそうな名前だもの」


「可愛い名前だけど、なんにでも合うとは思えないね」みずきが反論した。「白田とかだったら、『しろ』が重複しちゃうし」


「でも、やっぱり香坂の名前が一番よね。もしましろちゃんが私の子供だったら、きっと今みたいに育ってないだろうし。こうしてみずきの友達にもなれなかった。だから今の関係が一番だわ。ありがとう、ましろちゃん」


「え、あ、いえ、こちらこそありがとうございます」ましろはたどたどしく返事をした。


「なんだ、この堅苦しい挨拶」みずきが笑う。


「あら、みずきも感謝しなさい。ましろちゃんにありがとうって」


「え、あ、いや、それは……」みずきの顔がたちまち赤くなっていく。「は、恥ずかしいよ。私の柄じゃないっていうかさ、キャラじゃないじゃん? だから勘弁して!」

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