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6 それは二度目の笛の音

「おいおい、マジかよ」


 夜が明けてすぐに移動を開始し、目的地であるコロニーグループのある場所に移動してきたわけだが。


「……ヤバいな。完璧に壊滅状態って感じだな」


 つぶやいた健太の声に、重々しい雄一郎の声が重なる。

 以前、この場所には「アキカンイヒロイ」より少し大きな規模のコロニーグループ「オレンジ」の拠点があった。

 古い崩れかけた雑居ビルが二棟あり、その前の開けたスペースに居住空間を確保したタイプのコロニー。

 廃棄された元道路がそこにつながり、物資の流通のポイント、五街道の旅籠宿のような形で細々とではあるがやっていたはずの場所である。

 幾つかの零細コロニーにとっては物々交換で物資調達をするためのポイントとして人がいた。

 道路と直結していることから防衛面での意識も高く、隠れ住む「アキカンヒロイ」よりも高レベルのプレイヤーによる守備部隊も作っていたはずのその拠点。

 そこが、まだうっすらと焦げ臭いにおいをさせながら、崩れ落ちていた。


「襲撃されて直後、っていうよりかは数日程度は経ってる感じか……。火とかも消えてるみたいだしな」


 道をひた走り、近くまで接近したところで、何かコロニーの様子がおかしいということを確認できた。

 その段階で、『ドライバー』のジェットを少し離れた岩陰に残し、健太と雄一郎の二人だけで「オレンジ」の状況を見に来たわけだ。

 一人残されるジェットが幾分不満そうだったが、そこはどうにか“雄一郎が”説得した。

 健太が言うことを聞かないジェットと喧嘩しそうになるのを仲裁するという一幕もあったが、どうにか納得して待っていてもらえることにはなった。


「周辺にモンスターどもは見えないっすね。ただ、ビルの中に隠れてるって可能性もありそうですけど」

「そりゃあな。……やっぱモンスターだと思うか? これ?」

「でしょうね。ジェットのやつは置いてきて正解っす。下手すりゃどこかに死体でも転がってるかもしんないし」


 戦闘が不向きというだけではなく、ジェットにあまりひどい損壊の遺体を見せたくないという判断もある。

 ジェットのポンコツトラックが逃げの一手の場合では一番の手段である以上、彼女が冷静な判断を失う可能性を排除するのは当然だ。

 広場はぐちゃぐちゃに物が散乱し、踏みつけられたような跡を残し、コロニーの目印であったはずの廃ビル二棟のうち、片方は完全に焼け落ちて崩れてしまっていた。


「じゃあ、一体どうなってるのかを探ろう。あと、物資回収も併せて」

「うす、火事場泥棒っすね」

「もちろんだが“いのちだいじに”だぞ。一番は俺とお前、その次に可能性は少なそうだけど生き残りがいるんなら、その人も」

「……死体も何も残ってないんです。モンスターに持ってかれたのか、生き残った奴がいて埋葬したのか……。やっぱそこは難しいんじゃないかと」

「だから、その次にって言ったじゃん。無理はしない。自分の命が最優先」

「ですね」


 コクンと頷いた健太に拳を差し出して、彼もまた拳を突き出す。

 軽くそれをぶつけて、覚悟を決める。


「じゃあ、ビルの中。慎重に捜索するぞ」

「ういっす」





 じゃり、と砕けた砂利を踏んで音が鳴る。

 コロニー「オレンジ」の居住用の廃ビルの中に侵入してすぐに、焦げ臭いにおいが鼻に突く。


「鼻がバカになりそう」


 健太が言うのももっともで焦げた匂いでまったく鼻がきかなくなっていた。

 恐らくバリケードの跡であろう燃え尽きたロッカーやらデスクやらを迂回して進むと、ロビーに出る。

 まずはビルの横にある警備室へと進む。

 半分外れたドアを乗り越えると、幾つかの「ロッカー」がある。「ロッカー」はアイテム収納用の基本設備の一つである。他にも「デスク」「キャビネット」「つづら」「タンス」「和箪笥」など、ゲームの数に比例して種類は多い。

 そこにアクセスすると、雄一郎の一個目の中身は空っぽ。


「……必要なものは持ち出されちゃったってことっすよね」


 健太は別の「ロッカー」を探るが、そちらも空だった。

 二つ目の「ロッカー」から、雄一郎は「防刃ベスト:WE3ロゴ」を発見する。

 言うまでもなく装備アイテムで守備力を上げることのできるものだ。

 ただし雄一郎の記憶が確かなら、これは初回生産に同封されたのコードで交換できる、本来の「防刃ベスト」よりは性能の劣った所謂記念用のコレクターアイテムである。だからこそ、そのまま残されていたのだろう。

 とはいえ、雄一郎たちにとっては役立つものであるのは間違いない。


「お、良いモノありましたね。俺の方はこんなのです」


 健太が出してきたのは「ウイスキー720ミリ」であった。

 嗜好品のアイテムとしては中々良いモノであるが、この警備をするという人間がそれを「ロッカー」に突っ込んでいるというのはいかがなものかということは思わざるを得ない。


「酒……。なんというか、意識低いんじゃねえの?」

「多少の油断はあった、ってことでしょ。でも、それでもここまで更地になるってのは……」


 この状況になった時期を推測するに、ちょうどあのモンスターの分布が少し変になって以降のことだと思われる。

 もしかすれば、何かしらのモンスター側の意識変化が影響している可能性はあるのではないか。


(……早めに戻って注意喚起。コレに関してはマストだな)


 取り敢えず「防刃ベスト:WE3ロゴ」を装備して、警備室の奥の宿直部屋に押し入る。

 そこを警戒しつつ覗き込んだ時、何かがあるのに気づく。


「……ああ、ナンマイダナンマイダ」


 後ろからのぞき込んだ健太が思わず手を合わせる。

 黒焦げになった恐らく人間だった遺体が一つ。

 この拠点に来てから初の人が戦闘をしたと思われる痕跡だった。

 とはいえ時間もない。

 そしてあまりうれしくないことに、雄一郎も健太もこういった亡くなり方をするご遺体には何度か遭遇していた。


(すんません。埋葬とか、そういうのは出来ないんで)


 健太と同じく手を合わせる。

 そして健太に手を出すと、彼も何も言わず先ほどの「ウイスキー720ミリ」を取り出して渡してくる。

 そのままその遺体の前に封を切ってその「ウイスキー720ミリ」を置いて、中を捜索する。

 遺体の持ち物は黒焦げでおそらくは回収できないだろう。

 軽く探すが、食料に関してのアイテムは何一つ残っていない。持ち出された、と考えるのが自然だろう。


「お、雄一郎さん。これ、どうっすか?」


 健太が宿直室に置かれたソファの下を覗き込むと、隠しておいただろうアイテムが出てくる。


「おお、『サバイバルナイフ』! そうだな……。サブでお前持っておけよ。俺はコレ見つけたし」


 こんこん、と「防刃ベスト:WE3ロゴ」を叩く。


「いや、俺は『パイプ槍』のほかにサブで『手斧』持ってるんで。雄一郎さんは『金属バット』だけでしょ? 持っておいてくださいよ」

「そうか……悪いな。じゃあ、もらっとく」


 丁度「防刃ベスト:WE3ロゴ」の横にナイフなどをつけられるポインターがある。そこに「サバイバルナイフ」を備え付けた。


「だけど、ビルの中にまで入ってきて多分、モンスターの奴らがプレイヤーと戦闘してる。気を付けていくぞ」

「はい」


 警備室を出るときに、宿直室のベッドのシーツをはぎ取ると黒焦げの遺体を覆うように被せ、そして手を合わせる。

 やるべきことを全て終わらせ、少し良くなった装備を確かめつつ、さらに上の階に向かうのだった。




「結局特別な物は見つからなかったですね……。みんなどこに行ったんでしょう」


 裏手の水源に足を伸ばし、そこで完全に壊されている「水採取ポンプⅠ」の残骸が目に入る。壊れたポンプから流れ出た廃液で水源の池には分厚い油膜が浮かんでぎらぎらと太陽の光を反射していた。ポンプについては「アキカンヒロイ」にもある初期配置ユニットだが、ここまで壊れていては専用のスキルが無い限り、復旧させることは難しいだろう。

 つまり、このコロニー「オレンジ」を再建するとかどうかということになるが。


(「オレンジ」の連中はこの拠点をあきらめて何から何まで持ち出せるものは持ち出してる。それで設備とかの持ち出せない物に関しては放棄して、どこか別のコロニーグループに流れた、ってとこだな。ウチに来てないのは泥船だってのを理解してるからだ。助かる可能性を考えるなら、もう少し先のあるコロニーを頼るだろ。恐らくもうここを再建する気はないってことだろうな……)


 情報収集に出て正解ではあったが、知りたくない喫緊の課題を突き付けられることになったわけだ。

 零細コロニーをどうにか回していけるかなめを潰されたのであれば、この先「アキカンヒロイ」の現状維持のための方針も大きな決断を迫られることは必至。

 その方針に「アキカンヒロイ」のメンバーが耐えられるか、という状況になった。


(一刻も早く帰るべきだな、これは。ヤバイ何てもんじゃない。下手すりゃこの時点で詰んでる可能性すら出てきたぞ)


 一番質の悪いのが現状維持を続けているつもりで、徐々に衰退しているのに気づかないという場合だ。

 地方の市町村によくある、何も悪いことはしていないのにどんどん街並みが廃れていく、というパターンで、実際は何もやらないから廃れていくのだということを“認めようとしない”のが理由なのだ。

 そしてもうどうにもならないくらいでやっと一手がでて、それが有効であるかどうかを検証するだけの時間的余裕すらなくなり、トドメを刺されるわけだ。

 最終的には住民総てが衰退していく街を仕方ないと諦めて終わっていく。

 いまの「アキカンヒロイ」はその第一段階に踏み込んでいる。


(今、どうにかしてもがかないと一気に沈む! 沈んで乗れる船があるならどうにでもなれという話だけど、そんな状況じゃない!)


 足元のがれきを腹立たし気に水源だった池の成れの果てに蹴り込む。

 どぷん、と音を立ててがれきが沈むと、代わりに魚の死骸が浮かんできた。

 明らかに汚染されたそこは、すでに生命の水をたたえていない。


「うわ、ここ水源としても死んだのか……」


 健太がげんなりとした声を出す。それも仕方ないことだろう。

 ここで間違いなく一つの営みの灯が消えたのだ。

 それは「アキカンヒロイ」の辿る未来かもしれないのだから。

 そしてそんな絶望の果てに呆然とする彼らの耳に音が聞こえる。


 ビーーーーー!!


「クラクションの音!? ジェットの奴か!?」

「なんで、そんな騒音をっ! モンスターがいたらどうすんだっ!!」


 二人して舌打ちすると音のする方に一気に駆け出す。

 用事は済んでいるし、この場を離れるなら何一つ問題は無い。

 ただし、ケツをモンスターに追いかけられながら、なんていうのは望んではいない。


「あそこです!」


 先に通りに出た健太がポンコツトラックを見つけて、そちらへと駆け出す。

 雄一郎はいったん立ち止まり、周りからモンスターが現れないかをすばやく確認。

 ぐるりと見渡した限りでは、見当たらない。


「くそっ! なんでだよ!」


 とはいえ、隠れて襲おうという狡猾なモンスターもいるかもしれない。

 健太と同じようにトラックに駆け寄ると、すでにジェットのタンクトップの胸倉をつかんで一触即発の健太が見える。


「手前ぇ! 何のつもりだっ!」


 ドスのきいた声で唸る健太を涼しい顔で見ているジェットは、遅れてきた雄一郎に顔を向けて話しかける。

 その時に胸倉をつかむ健太の手をはたき落とす。


「ああ、来たね。この我慢の足りねえアホじゃ話にならねぇ」

「……なんかあったのか?」


 アホ呼ばわりされた健太よりは冷静だが雄一郎とて、身の危険を感じていて若干の怒りは覚えている。


「……どう判断するか、アンタに任せたい。その為に一緒に来たんだろ、アンタ」

「? だから、何があった」


 勿体ぶっているのかと思ったが、ジェットの顔にも困惑が見える。

 どう話していいのかを悩んでいるようにも見えた。


「……さっきまで隠れてた岩場からここと逆方向。つまり、『アキカンヒロイ』の帰り道の間にモンスターの群れが出てきた。すげえ数なんだ。どう考えても突破できないくらいの!」

「「な!?」」


 健太と雄一郎の声が驚きに揃う。


「雄一郎さん、どうします!? う回路があればそっちで帰れますかね!?」

「駄目だ。ルート的にそこはトラックが通れないし、三人だけだと危険なはずだ。もう少し人数が必要なんだよ……」


 悩む二人の会話にジェットが割り込んできた。


「いや、最後まで聞いてよ! そ、そのモンスターの群れが全滅してんの!」

「はぁ!?」


 またも声が揃う。


「あんまりにもヤバそうで逃げんのにアンタたちをピックアップしようとエンジン掛けたんだけど。……その群れの前がぴかーっ、って光ってさ。ほら、ここに拉致られた時のあのまぶしい光! あれが一気に光ってさ!」

「お、おう」


 ジェットの声に熱がこもる。


「そしたら、その群れの前になんか、人が何人か出てきて!」

「おい、それって俺たちと同じプレイヤーじゃねえか!」

「そ、そしたらモンスターがその人たちに襲い掛かって!」

「いや、マズいじゃんか!!?」


 そんな慌てる二人を見てジェットが落ち着く。

 人間というのは自分より慌てふためく無様な同類を見ると、急に我に返るものらしい。


「そんで、モンスターがやられてた」

「「……は?」」


 ぽかんと、した声が二つ響く。


「いやいやいや! そんな大規模な範囲攻撃のできる規格外なスキル『ワールド・エンド』にゃ実装されてねえよ。ほかのソフト系でもなかったはずだ」

「何か見間違いでもしてんじゃないのかよ?」


 急に現実感の無くなったジェットの話に二人の気が抜ける。


「いや、アタシ見たんだって!」

「……じゃあまずさ、そいつらどんな奴らだったんだよ? 見たんだろ?」

「遠かったからおぼろげにしか見てない」

「……じゃあ見に行こう。とりあえず、トラックでその現場が見えるところへ。そんな人がいるかどうかを見て、そんで話せそうなら話してみよう」

「そ、そうっすね」


 三人がそういうことで結論を出したところだった。


「あのー。すみませーん」


 がばっ、と三人が、三人以外の声のした方を振り返る。


「あ! 日本語通じますよね!? 日本人っぽいですもんね?」


 振り返った先には、全身を上から下までキラキラとブルーに輝く鎧に身を包んで、身の丈ほどもある大剣を肩に担ぎ、同じくらいの大きさのタワーシールドを背に背負った四十近いオジサンがいた。

 細身で明らかにそんな重量級の装備を身に着けられそうにもないのに、何も苦でないような自然な素振りで肩の大剣を地面に降ろす。


 ずずんっ……!


 薄くではあるが、地面が揺れた。


「え、ええと? に、日本語は分かりますよ。に、日本人ですから」


 敵意がなさそうなので、恐る恐る雄一郎が話しかける。

 日本人、それも多分プレイヤーであろうことは分かるが、何か根本的にずれている気がひしひしと感じられた。


「よ、良かったぁ! さっき、急に変なのに襲われて、同じ場所のみんなとこれはいったいどういうことかって話し合ってたら、このトラックが走っていくのが見えて! これは逃しちゃならんと思って走り出したら、何か追いついちゃいました」


 あははは、と人の好い笑い声をあげるオジサン。


「ほ、他の人もいるんですか?」

「ええ! 急に剣とかで切りかかってきたので、皆でどうにかしたんですよ! こんなコスプレさせられてた人もいましたし、中にはスーツの人もいましたけど」


 明らかに「ワールド・エンド3」の影響で飛ばされてきた雄一郎たちの状況と酷似してはいる。

 だが、明らかに持ち物が違いすぎるのだ。

 雄一郎たちはほぼ何も持たないで放り出されたというのに、この目の前のおじさんの装備はいったい何なのだろうか。


「それ、『輝きの剣Ⅳ』の勇者装備だよね?」


 ぽつりとジェットがつぶやく。


「あれ? 知ってんのか、お前。詳しいんだ」

「い、いや! カレシ、元カレがそういうの好きで!」


 慌てたようにジェットがいう。

 そのタイトルは雄一郎も知っている。

 現在は確かⅩⅤまで出ている国内で有名なRPGタイトル。当然、雄一郎もそのうちのいくつかはプレイしていた。

 だが、そのナンバリングのⅣともなると、発売されたのはもう二十年近く前になるはずで、最後のリメイク版のⅠ~Ⅴをまとめた携帯ゲーム機用のコンプリートパックの発売が五年ほど前のはずだ。

 そして流石に個々のタイトルの装備のデザインまでは即座に言い当てられるわけではない。


「ああ、確かにコレ『輝きの剣Ⅳ』の勇者装備なんです。なんで私、こんなコスプレさせられてるんでしょう? あと、ちなみに何ですけど」


 困った様にそのおじさんが雄一郎に尋ねてきた。


「ここから一番近くの駅ってどこですか? 実は明日、大事な打ち合わせがあるんですよ」


 そんなことをのたまったオジサンのきた方向から、何人かがこちらにやってくるのが見えた。


(……これは、俺が説明する流れだよな)


 若干の諦めを含んだため息を一つ吐き、雄一郎は今日のキャンプ地をどうしようかと真剣に悩むのだった。


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