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こちらも整理中に出てきたやつ。

とはいえメモっぽいのから、リメイクです。

たぶん、当時はこの感じにはならなかっただろうなとは思いますけど。

そういうわけでネタは思いついておりません。でも一応アップしてみます。

ええ、ノリですノリ。

うはは。

「頼むよ、動けッ!」


 雄一郎はがんがんと乱暴に外装の鉄板を殴りつける。

 そうすると、不調気味だったそれがゆっくりと震えだす。

 今までの小刻みに停止と起動を繰り返していたそれが止まることなく動き始める。


「よ、よしっ……。動いた、動いた!」


 どどどどど、と唸り声を上げながら震えるそれは、このコロニー「アキカンヒロイ」に備え付けられている「初期配置ユニット」だ。

 現在のところ、このユニットを修理できるスキルレベルに達している者は誰ひとりいない。

 いや、かつてはいたのだが、その人物はこの「アキカンヒロイ」から他のチームへと乗り換え、出て行ったのだ。

 仕方のないことではある。

 間違いなくこのコロニーはジリ貧で、彼が自分たちを見限る選択をしたのは生存戦略上正しいと言える。

 こそこそ隠れている泥船と、戦いの矢面に立つとはいえしっかりとした船があるなら後半を選ぶ。そしてその船の方が自分を必要としている限りまっとうな飯が食える、はず。


「さて、水が出てくれたならば助かるが……」


 手に持ったレンチで殴り付けられていた「初期配置ユニット」である「水採取ポンプⅠ」はこのコロニーにおける生命線である。

 間違いなくこれが故障、ないしは破損するだけで確実に自分たちは詰む。


「おーい!! 動いたか!?」

「だいじょーぶ!! 出た出た! 少し茶色いけど、しばらく流せばいけるんじゃないー!!」


 声を掛けた先、そこから聞こえてきた若い女の声にほっと胸を撫で下ろす。

 サバイバルで最も重要な水源を確保できると言う事は、それだけで心の平穏を得ることができた。


「しかし、ゲームと違って初期設備が壊れる、かよ。特に誰かがダメージを与えたって話はなかったしなぁ。そこはどうにかしてくれよなぁ」


 苦々しげに今まで殴りつけていた「水採取ポンプⅠ」をにらむ。

 この設備は、1日あたり20個の「飲料水」を生産できるとゲーム上では設定されていたはずだ。

 電源を必要としない「人力ポンプ」もこのコロニーには有るにはあるが、如何せん現代人である。

 楽ができる生活に慣れた彼らにはその使い方すらあいまいで、完全に使いこなせてはいなかったのだ。

 ゲーム上の「設定」は担当者を配置すれば1日5個の飲料水の生産が可能な設備であった。だが、「人力ポンプ」は「水採取ポンプⅠ」と違い、ほったらかしでは何一つ動くことはない。それに比べ、「水採取ポンプⅠ」はどういう不思議動力があるのかは知らないが、単体で稼働し、蛇口を捻れば汚染のない水を吐き出してくれる。


「いちいちゲームと現実がごっちゃになっておかしなことになってるからな。線引きがいまだに判らない」


 “恐らく”自分たちは『ワールドエンド3』の世界に囚われたのではないか、そういうぶっとんだ予想が被害者たち全員に伝わるまでは殆どタイムラグは無かったと思う。

 何せ雄一郎が自宅で『ワールドエンド3』プレイ中のテレビの前から、いきなり荒野のど真ん中に放り出された際には、おそらく優に百近い人間がその場に居たのである。

 全員が混乱する最中、多くの人間が『ワールドエンド3』をプレイしていたか、ゲームショップや家電量販店のゲームコーナーなどにいたのが日本国内での最後の記憶である。

 そのため何かしら『ワールドエンド3』が関係しているのではないかと思うのは当然だった。

 中には「現実的に考えて」瞬間的に眠らされ、誘拐されたのではないか、いや国家的な陰謀だ等と騒ぐ者もいたが、こんな大規模かつ悪趣味な事を行う意味が分からない。

 誘拐して金銭を要求するなら、縛り付けてどこぞの倉庫にでも転がしておけば済む話だ。

 国が関与していると言われれば少しだけ実現度が0.1%程上がるだろうが、雄一郎の思うにはこんな技術が日本政府に有るならもっと有意義な使い方をするだろう。

 そんな悩む皆の疑問はすぐに解消することになる。

 ある男が悲鳴交じりの大声を上げたのである。

 皆が注目する中、その痩せぎすの男の手には大振りのナイフがあった。

 全員がその男から離れる中、男の弁明が始まる。

 曰く、ステータス画面から所有アイテムを装備しただけだ、と。

 その瞬間である。

 いま、自分たちがいるこの場所が少なくとも「現代の地球世界」ではないと言う事が確定したのは。


「食料の安定確保が確立できてない上に、水源を失えばアウトだからな……。厳しい」


 レンチで肩をポンポンと叩くようにして、動き始めた「水採取ポンプⅠ」によりかかる。

 食料・水の確保に周辺の敵性モンスターの排除、コロニーに身を寄せる人間関係。そして最大の問題は一向に進まないワールドクエストの進捗状況。


「4.2パーセント。……何度見ても変化なし、か」


 網膜に直接投影されるステータス画面。その中で表示されているクエストの一番上に鎮座しているのがワールドクエスト。

 目的は「世界のなぞを解き明かせ」だそうだ。

 あまりにも漠然としていて何が何だかわからないが、クエストの表示があるということは、当たり前だが条件達成後のクリア報酬も表示されているのである。


「条件達成の確認とともに、その時点で生存しているプレイヤーを帰還させる、だ? わかりやすい人参ぶら下げやがって」


 クエストクリアの報酬は、「現実世界への帰還」、とそのまんまの意味のもの。

 詳細等の書かれた説明文いりのフレーバーテキストによれば、クリア条件を達成したその時点での全プレイヤーが対象となる。

 そしてクリアのまでの道程としてまずはワールドクエスト達成率75パーセントが明示されている。

 その下にも明示されたものがあるが、今現在はグレー表示の?で文面が埋まっている。

 つまり、少なくとも75パーセントまで達成率を上げない限り、そのグレー表示の文章は明示されないということだと推測された。


「それで、頑張った結果が今の状況。……普通に詰んでるじゃん」


 ふう、というため息が漏れる。


(いや、そりゃこっちはいわば寄生プレイだからな。文句の一つすらいう権利は無いけど。でもなぁ、トッププレイヤーよ。もう少し、もうほんの少しでいいから希望を見せてくれよ。……このままじゃ、もたねえ)


 当然だが、元の社会への帰還を強く望んだ人間は多かった。

 いや、ほとんど全てと言って良いくらいに強制参加されたプレイヤーは帰還に向けて協力的な立場を持っていたといえる。

 当然だが、こんな危険でサバイバルな世界に好き好んで生きていきたい人間はそうそういはしない。

 だが、そんなことは知ったことではない、とばかりにこのイカレた世界はプレイヤーたちに牙を剥いた。

 モンスターと、そして深刻な食糧・水事情がだ。

 根本的にこの世界で生存に必要なのは食料関係に、そして襲撃から身を守る術。

 この二つが最優先となる。


(一番簡単にクリアできるって思ってた項目がまだ未達……。仕方ねえけど)


 眺めたワールドクエストのリストの中でおそらく段階的にクリアされていくだろう、「○○人のグループを結成する」のタブの中にある上から三つ目。

 一つ目が五十名、二つ目が百名、そして三つ目が三百名。

 その三百名の項目がグレー表示されている。

 いや、順調に進んではいたのだ。

 寧ろ何も考えずに人数だけが集まってしまうことが起きた。皆が不安で寄り添いたいと思ったからだろう。

 その結果、惨事が引き起こされたのである。


(……襲撃イベント、なんて書かれてなかったじゃねえかよ。クソ)


 雄一郎はうっすら腕に残る傷跡を眺めてはぁ、と息を吐く。

 何も考えずにその場にいた百名がそのまま集団となり、そしてさらに五十名が追加された頃。

 同じような集団がいくつも出来ていたようだった。

 あるグループが二百名を超えた所、全プレイヤー向けにアナウンスが流れた。

 それは絶望を告げる死神の声。


『一定数のプレイヤーによる連合を確認しました。これにより、敵性体、モンスターの狩場システムがアンロックされます。以降、プレイヤーの居住地へと群体モンスターの襲撃が確立で発生します。今回は初回につき、既定数以上の居住地に対し、チュートリアルとして襲撃が確定しました。皆さん、防衛準備を整えてください』


 そのアナウンスのちょうど十五分後、装備もスキルも何一つ理解しきれていない状況で、敵モンスターに拠点へと一斉攻撃が行われた。

 もしかすると、皆がここまで一気に集まるとは想定されていなかったのかもしれない。

 強制的なイベントの開始、しかも恐らくは段階を踏んでから発生するはずだったというのに、それまでの準備なども一切合切すっ飛ばして。

 初心者マークしかないプレイヤーがほとんどの集団へと、ある程度の経験を積んだうえで対抗できる程度の“本来は簡単に乗り越えられる最初の壁”が圧倒的な暴力となり、襲い掛かった。

 その結果、殺戮が起きた。

 抵抗手段のないものが一気に刈り取られ、更に拠点となるはずの初期ポイントがほとんど失われ、そして皆が命からがら離散する。

 雄一郎もその中で大怪我を負い、逃げ出すことになったのである。

 そんな事もあり、生き残りが集団化する際にプレイヤーの選別を行ったのは自然な流れだろう。有用であるとされる人材はリクルートされ、逆にお荷物となる人間はクビを切られ放逐される。

 最初の襲撃後惨劇の広がる中で、辛うじて救いになった「○○人のグループを結成する」のクエストの第一、第二段階までがアンロックされたということがその流れを後押しした。

 これにより、拠点システム「コロニー」が第一段階クリアで解放。さらに前述の「水採取ポンプⅠ」がコロニーの代表インベントリに格納された。

 第二段階でコロニー内での開墾もアンロック。初期の野菜苗が数株、同インベントリに報酬として格納される。

 つまり、最悪各コロニーでの引きこもりでの自活が可能となったわけだ。

 ここで切り捨てられたプレイヤーにも生きる目が出てくる。飯と水を戦わなくとも入手できるのだから。

 トッププレイヤーたちも後腐れが無くなったともいえる。彼らを見捨てるのではなく、ゲームクリアまでの我慢だ、として“お願い”できる。

 強くなったプレイヤー集団のいくつかは当然の如く、このクソゲームをクリアするために動き出し、それにあぶれたいうなれば“みそっかす”達は細々とモンスターの襲撃をどうにかこうにかいなしながら息を潜めてトッププレイヤーたちの活躍を祈り続けている。

 反省を生かし、モンスターの組織的な襲撃を避けることのできるぎりぎりのプレイヤー数をそれぞれの拠点でキープした状態が、現在の分散化されたコロニー体制となっている。

 その中でもこのコロニー「アキカンヒロイ」はかなり下の下の方に位置していた。

 戦闘行為自体をトップの祥子が最終手段と断言している、つまりワールドクエストクリアには消極的な臆病な集団だと判断され、最初にいた数少ない戦闘職も次第に離れていった。

 そして噂を聞いた、心の折れた戦闘忌避のプレイヤーが合流する。

 その繰り返し。


(だが、無理なもんは無理。命張ってる人には悪いが、この生活を維持していくのが俺らにはギリギリなんだよ)


 今このコロニー内での一番の戦力は羽田であるが、彼であってもトッププレイヤーの足元にも及ばない。なけなしの責任感でどうにか取り繕ってはいても彼もまた、可能な限りの戦闘を避けるべきだというスタンス。

 つまり生存可能ギリギリの辛うじて自衛手段を確保している程度のコロニーでは、他に関わる様な余裕すらも無いのだ。

 トップたちのコロニーの庇護下に、という話にもなるかもしれないがどうやらその形でも「集団」の母数が増えることは確認済み。

 万が一のリスク管理のために、庇護下に入れるコロニーも厳選されるわけで。


(ゲームやら小説でよくある、ド底辺のスラム街みたいなもんだ。ま、治安がいい分そういうのよりマシだけど)


 管理者の祥子の人柄と、自然と互いを思い合う共同体としての熟成。

 色々と問題がありながらも、それでも皆が生活していくことのできる環境がここにある。

 数少ない戦闘職のモラルの高さもある。

 非戦闘職は食糧生産や、時には低年齢層の教師として役割を担う。


「死にたくねえ。自分たちでどうにもできねえ。なら、他人に任せるんだよ。それの何が悪いんだってんだ」


 何もしないで、ぶー垂れるわけではない。

 何かを精いっぱいやって、結果何もできないのだ。

 全力で今を生き抜いているのに、それをけなされる等、結局は実情を知らない他人の戯言でしかないのだから。


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