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誤字・脱字ご容赦ください。



「はっ!はっ!はっ!!」


 砂混じりの地面に体を投げ出し、倒れこみたくなるのを必死にこらえながら、男は走っていた。

 見たところ、10代の後半。少年と呼ぶには少し抵抗があるが、大人というにも若さを感じるような年齢の彼は滂沱の如く汗を流しながら、歯を食いしばり必死に何かから逃げていた。

 逃げる先にある道がちょうど二又に分かれる。

 運悪く、両サイドともに崩れた建物のがれきがうずたかく積み上げられ、曲がった先がどうなっているのか分からない。


「み、右だっ!!」


 瞬時の判断で、右に進路をとる。

 足を取られながら、走りこんだ勢いのまま右の道に体を投げ出した。


「!くそっ!行き止まりかよ!?」


 崩れたがれきが道を完全にふさいでいた。

 悪あがきのように彼は、道をふさぐがれきに少しでも進むことのできる隙間がないか確認する。

 残念、彼に超人的な怪力でもない限り、そのがれきを取り除くことはできないだろう。

 後ろを振り返るとその先には道が続いている。

 選択肢を誤ったのだ。左側の道を視認すると、その先には道が続いていると視界の端に映る『マップ』がご丁寧にも教えてくれていた。


「やるしかないのかよ!?くっ……『逃げるが勝ち』を解除、『昔日のガキ大将』を装備!あと、あと……。あ!じ、『熟達のライト』装備っ!!」


 現代日本でこんなことをのたまう者が居れば、白い目で見られるか、数年後にあまりの恥ずかしさにこんがりと焼け焦げ真っ黒な歴史として自分の中で封印されてしまうのだが。

 が、しかし、ここは現代日本では、ない。


「ギャギャッ!」

「ギャ!ギャギャ!!」


 ちょうど彼の曲がってきた先から奇声を上げながら小柄な影が現れる。

 影は全部で5つ。

 二足歩行で歩くその影は人と似ながら、決して人ではなかった。


「やってやるよ……。ゴブ共がっ!」


 足元にはがれきが散乱している。握りこぶし程度の大きさの石を必死になって彼はかき集める。

 よれたTシャツで汗をぬぐう。

 眼に入る汗に砂が混じり軽い痛みを覚えるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 今を生き抜けねば、明日はないのだから。

 

「ギャ!」

「ギィ!」


 集団の異形達は彼を見据えるとニタリと笑みを浮かべた。

 人ではないそれらは緑の肌を持ち、口元は耳の近くまで裂けている。襤褸切れを身にまとい、手には錆の浮いた刃物であったろう鉄クズを持っていた。

 はっきり言おう。ゲームや冒険ものの小説でこの異形どもをネーミングするのであれば、一言で済む。

 それらは見まごうことなく『ゴブリン』そのものであった。



「行けぇ!!」


 ゴブリンに向かい、全力で足元に転がる石を投げる。自身より15m以上離れた敵対象への投擲行為に対し威力・集中力が増加するスキル『熟達のライト』が発動した。

彼自身の投擲力を『熟達のライト』がサポート。

 その右腕が薄く輝く。


ゴゥ!!!


 風を切り裂き、彼に向かい走り出していた先頭のゴブリンが顔面を打たれ、転倒した。


「ヨッシャァ!」


 続けざまに2石目を足元から拾い上げる。倒れたゴブリンはピクリとも動かない。気絶したのか、絶命したのかは判らないが、残りの4体に狙いを絞り第2球を投げた。

 肩口から先ほどと同じように薄く燐光が右腕を包む。


ゴゥ!!!


 これまた同じく剛速球がゴブリンを襲う。

 だが、先ほどと違い石のいびつさが結果を分けた。

 顔面を狙った石は一体のゴブリンの足に当たる。全力で駆けていたゴブリンはその場に崩れ落ちてはいるがその瞳には爛々と闘志がみなぎっていた。


「ちっ!」


 軽く舌打ちするとともに、ゴブリンと彼の間は距離が詰められてしまっている。

 すでに『熟達のライト』が発動する気配はなく、スキル抜きで投石のけん制など素人の彼にとって無意味に等しい。


「ギャ!」

「じゃかあしい!」


 今、脅威となるのはゴブリン3体。

 飛び込んできた最初のゴブリンを、左のローキックで止める。ゴキリと相手からの骨の折れる感触をスニーカー越しに感じるが、そんなことを気にしている暇はない。

 自身より身長の低い敵対象(人型限定)に対し、微量ではあるが攻撃力を増加させるスキル『昔日のガキ大将』が発動していた。

 四肢にこれまた『熟達のライト』が発動していた時と同じ燐光が体をサポートしているのを感じる。

 2匹目のゴブリンがつきだしたナイフのなれの果てを寸でのところでかわす。

 冷や汗が背中を流れるのを感じながらそのまま腕をつかみ、頭から一本背負いの要領でたたきつける。

 体格としては小学生の低学年程度のサイズである。

 『昔日のガキ大将』によりサポートを受けた彼の体は、楽々とは言えないまでもそのくらいの重さを一息に持ち上げるだけの力を有していた。


グチャ!


「ギャギャ!」

「ギィー!」


 5匹いたゴブリンは3匹がやられた段階で不利を悟ったのだろう。脳天から地面に突き立てられた仲間をみたゴブリンは、足を負傷した仲間の元まで駆けよるとその体を担ぎ、脱兎のごとく逃げ出した。


「ふぅ……。助かった、かぁ……」


 逃げていくゴブリンへ追撃はしない。

 いや、できなかった。

 現代日本で生きてきた彼にとって、命のやり取りは物語の中やニュース画面の向こう側での出来事でしかなかったのだ。

 先ほどの戦いも終始優位に立っていたように見える彼であるが、その心は今にも折れそうなほど疲弊しきっていたのである。

 慣れ、で全てを済ませるには至ってはいなかった。


「じゃあ、逃げる前に、と……」


 視界に映る『マップ』を切り替える。

 『マップ』から『ステータス』へと項目を変更。

 先ほど付け替えた『昔日のガキ大将』『熟達のライト』を外し、逃走時の脚力上昇のスキル『逃げるが勝ち』を代わりに付ける。

 『昔日のガキ大将』で空いたスロットに解体スキル『テキパキニッパー』を装着した。


「回収させてもらうよ。悪く思うな」


 倒れている3体のゴブリンに近づき、手をかざすとゴブリンが薄く輝く。

どうやらスキルが発動する時にはこの薄い燐光が対象を包むようである。

その輝きに包まれ、ゴブリンは消えてゆく。

その消えてゆく輝きの中へ手を差し込む。


「まあ、ないよりゃましか……。でも、命張るだけの価値はないんだよな……」


 彼の手元にあるのは薄汚れた布である。細く一定の幅で切られたものではっきりいってゴミといっても何ら問題ない、そんな物品であった。


 彼の視界にはそのゴミが入っているが、それだけではない。視界の端にはデジタルな字体でこう書かれている。

 ”『汚れた包帯』-治癒力微増-×3”


「食い物が出りゃサイコーなんだが、今日はこれ以上の探索は無理だ。仕方ない……戻るか……」


 うなだれた後姿に哀愁が漂う。


 彼の名はキャラクターネーム「ジョルジオ/LV11」。

 本名は金田雄一郎。職業は3か月前まで高校生だった。

 

 地球にて『ハーメルン事件』と呼ばれた多くの拉致被害者を生んだ、ゲームに似た異世界への強制転移より既に3カ月の月日が過ぎていた……。


あ、ユーイチロー君は主人公じゃないです。

次話は模索中です。不定期更新ってやつですね。

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