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闇の心に一つの光り

作者: 結城游眞

 私は真面目に何かをするのが嫌で何をするにも中途半端になってしまった。

 この性格は直らないほど身に染み付いてる。

 だけど、前向きに明るく皆と楽しく学校生活を送っていた。

 そんなある日、クラスではかなり浮いていたグループに何故か、避けられるようになった。

 初めは私も避けるようにしていた。それが間違いだった。それから地味な虐めが始まり、徐々に私はストレスを感じ始めた。

 たまに誰も来ないような場所で叫んだ。

「やるなら、やれよ!!」

 初めの何回かはこれでスッキリとしたが、虐めは毎日、毎日やられてきたから、ストレスは溜まる一方。

 そんな日々を送っていくと、私は気が付いたら偽りの自分がいる事に気付く。

 いつもしている笑顔がひきつりそうになっていた事に気付き始める。

(これをやめたらきっと友達は居なくなってしまう)

 勝手に思った私は、この偽りを本当の自分として扱うようになった。

 嫌な事が増えイヤとも言えず、物事に流されてしまっていた。

 一人にはなりたくないから…

 そんなことを学校を卒業するまでずっと。

 もう、精神的にボロボロになっていた。

 ねちねちした虐め、偽りの自分のせいで……。

 卒業してすぐに私の心が音もなく崩れ去っていくのに気付こうとしなかった。

 笑うことを一切止めてしまい、部屋に閉じ籠もるようになり、あまり行かなかったネットの世界へ入り込んだ。

 時間もご飯も忘れ、ずっと、ずっと……。

 私を知らない人達が自然と心地が良かった。止めようと思えば止められただけど、私は止めようとしなかった。

 ネットの世界にも人を傷つけ傷つけられていることを忘れていた。

「人は人か…」

 私は数週間で行くのを止めた。

 するとトントンと扉を叩く音がし、母の声がした。

「ご飯、置いとくよ…」

 部屋に籠ってから家族という存在を忘れていた私。ネットの影響かその前からなのからわからないが、私は人というものを恐れ信じれなくなってしまった。

 家族でさえも。

 いつも母が居なくなるのを確認し、そっと扉をあけた。

 そこには、大きめのオニギリと漬物、

飲み物がそっと置かれていた。

 それといつもなかった紙が皿の下に挟んであった。

 たった一言書いてあった。

『食べてくれてありがとう』

 少し嬉しいような気持ちになり、笑顔を無くした顔に微かに笑顔が戻った。

 だけど、それは一瞬にして闇へと引き摺り込まれた。

 紙は捨てずに取っておくことにし、机にそっと閉まった。

 それから、毎回のように紙が挟まっていて一言からちょっとした文になっていったけど、私は一言も返事をしなかった。

 書いてくれるのは嬉しいだけど、またストレスを溜まる原因になってしまった。

 そしてまた自分を傷つけた。

 ズキズキと痛む傷は私の心を落ち着かせた。傷は毎日増えていく一方だった。

 部屋にあるものでそれを覆い何もなかったかのようにあの私に戻った。

 外には出る事がないため人と話す事もなく

たった一人で自分と闘い、余計に心は光を失う。

 誰にも頼れずに勝手に壊れていく心。

 自然と涙が流れた。

「辛い…」

 止めたくても止まらない涙、声を殺し泣き続けた。

 寂しい、辛い…だからネット世界へ駆け込む。何も変わらないけど誰かと繋がっていたくてそこに行く。

 人は信じれない。信じたらいけない。

心の何処かで叫び続けている。

 心はもう闇の中で自分では抜け出すことが出来ない。

 なのに、自分から手を差し伸べようとしないから誰も助けになんか来ないのに、隅の方で少し期待をしている私が居た。

 そんな私が嫌いに成りそうであの日に戻りまたやり直したい。そう思い始めた。

 私が勝手に一人になって一人で色々と抱え込み自分を追い詰め傷を作る。

 もう、嫌になった。

(全てを忘れ、やり直したい…)

 私は気付くと窓から身を乗りだし空を眺めていた。

 この手を離せば真っ逆さまに下に落ちていくだろう。ここは2階、打ち所が悪くなければ簡単には死ねない高さ。

 そして私は落ちていった。

 衝撃は物凄く、物凄い衝撃が体全身に走った。

(これで…死ねたら…)

 私は長い夢の中へと迷いこんだ。

 そこは、私が今住んでいる街。私一人だけが、ぽつんと立っていた。

 体にあるはずの傷は綺麗に無くなっていて、体が軽くなっていた。

久しぶりに出た外だったため、誰も居ない街をブラブラと歩く事にした。

私が知っている道は家から学校までの道のりただ一つだけ。誰も居ないこの街は不気味なほど静かで気味が悪かった。

歩いているとあっという間に学校に着いた。校舎はあの日のままだった。

校内へと自然と足を向けていた。

中は卒業したあの日のまま何も変わっていなかった。

誰も居ない教室。黒板には色々と書いてあった。一つ一つ見ていくと私の気持ちだけが、書かれてあった。

心の奥底に閉まっていた本当の気持ちがそこに。

『寂しい、たすけて、なんで私だけ…』

などびっしりと書いてあった。

「違う…寂しくなんかない…私はずっと一人でいいんだよ…」

黒板消しを手にし文字を消していった。

全てを消し終わる時には息を切らしていた。窓側の前の席に腰を掛けた。

なんてなく、机の中に手を入れると何かが手に触れた。そっと手にし取り出すと見たことのあるノートだった。

それは、学校に行っていた時に書いた日記だった。

「なんで、ここに?」

パラパラと捲っていくとあの日の思い出が鮮明に甦ってきた。忘れたかったあの記憶が…だけど、きちんと読み返して見るとくだらない事ばかりだった。

パタンとノートを閉じその場に置き、教室を出た。

そこを出るとなぜか外だった。

不思議に思った。今までのも不思議ばかりだったけど、なぜ私がここに居るかを考えた。

ふと思った。

「私、部屋から落ちた筈なのになんでここに居るんだろ…死んだのかな?」

空を見上げ呟いた。

一呼吸置き、目線を戻すと目の前に見たこともない川が現れた。

周りを見ると川がずっと遠くまで続いていて辺りは何も無く真っ白だった。

すると、向こう岸に人影が見えた。

ぼんやりとしていてはっきりとは見えなかったがこちらに向かい手を振っていた。

私はゆっくりとその川に足を入れたすると何処からか声がした。

『あなたはまだ行ってはダメよ』

優しい女の人の声が聞こえたと思ったら、聞いたことのある母の声がした。

その声を聞いたら自然と涙が溢れていた。

『さぁ…戻りなさい』

すると強い光りに包み込まれ何処かに引きずり込まれた。

私は目を開けると真っ白な天井が広がっていた。

一番始めに感じた温もりは私の左手を包み込むようにして握っていた母の手の温もりだった。

まだ、ボーっとする頭に、体が重苦しくズキズキとあちこち傷み始めた。

(生きてるの…私)

自然と涙が溢れてきた、きっと握られている左手に感じる母の温かい温度からだろう。

「お母さん…」

かすれた声で母を久しぶりに呼んだ、その声に気づいたのか母は嬉しそうな顔で泣き始め私を抱き締めた。

また、涙が流れた。母のすすり泣く声は耳元でずっと泣いていた母の背中に重たい腕をまわした。

「ごめんなさい…」

母はもっと泣いてしまった。

一人で抱え込み悩み苦しんでいるのだと思ったけど、違うことに今気がつき、もう一人じゃないんだ。そう思った。

私はたった一つの小さな光を見つけた。

それは母という存在を。

それから、少しずつではあるが家族と向き合えるようになった。

まだ、一人では外には出られないけど少しずつ本来の私を取り戻すことができた。

私は家族には話せない事などは文章にして書くようになった。なぜか書いている事が楽しくなり、自分なりの世界を作ってみようと思い始めた。


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