微熱
この時の恩知らずの私は
失明したのはきっと森さんのあの大魔法か何かのせいだろう。
あとで森さんに会ったら三発ほど殴らせていただこう、いや、ジャスティンを見て眼が保養されたのだ、一発負けて二発にしといてやるか、
などと思っていました。
しかし私が四、五発殴られるべきでした。
「ふえぇ……おめめ壊えちゃったおぅ」
私はふざけていた。
死ぬまでにやりたかった、幼い女の人のモノマネをして遊んでいた。
「……ブ……スカ?」
声が聞こえる。
というか、私には聞こえた。
確実に「ブスか?」
と聞いている。
私は確かにブスだが、知らない人に
「あなたはブスか?」と問われて
「はいブスです踏んでください!」
と答えられるほど寛容(世間では受身と言われる)な人間ではない。
と思い無視していると
だんだん声が近づいて来た。
「……ブ……スカ?」
「……ウブ……デ……スカ?」
「ダイジョウブデスカッテキーテンダヨコタエロシネ!」
私は蹴られて我に返った
その視界は明るい。
私は失明なんかしていなかった。
恥ずかしいことに、途中から夢をみていただけだったのだろう。
「どこからが……夢?」
顔を見上げると紙に見たジャスティンがそこに立っていた。
私を蹴ったのは三次元の世界で立体化した
ジャスティンだったのだ。
私はジャスティンに蹴られたことによって
鼻血を垂らしていた。
もちろん、ジャスティンに蹴られたために鼻血を垂らしていたのだろうが、
ジャスティンに蹴られたということもあり
鼻血を垂らしているのだ
と私は思った。
(ちょっとウマいこと言った、とも思ってい
た)
呆れ顔のジャスティンが私を見て言った。
ジャスティンは紙のように白かった。
が、その白さがまた、たまらなく、よかった。
ジャスティンは自分で蹴ったにもかかわらず
「ソコ汚イデス」
と手を差し伸べて起こしてくれた。
「(結構紳士的なところもあるんだ……プラス点っと/////)」
彼は左ポケットから綺麗に畳まれた
シルクのハンカチーフを出し
私の鼻血を拭いてくれた。
恥ずかしいことに、ジャスティンに抱きかかえられていたので
鼻血は止まることを知らず、
ただただ 滝のように流れ落ちるばかりだった。
私は溢れかえる鼻血の海に濡れながら
貧血状態のなか、意識を保つのに必死だった。
ジャスティンは面倒になったらしく
既に 私の看護(鼻血拭き)をやめていた。
無造作に詰められたシルクのせいで
私の鼻孔は若干、切れていた。
これが私とジャスティンの出会いである。