寒気
金髪でクセッ毛の髪、真ん中分けの前髪、
下に降りて
下まつげ、三白眼にキュートなそばかす
さらには
その華奢なのにたくましい腕に這う
芸術といっても過言ではない、
見ればため息さえも飲み込んでしまう様な、
触れれば溶けだしてしまいそうな、
そんな儚さまで感じさせる、美しい血管。
ワイシャツにネクタイ、メガネを胸ポケットにぶら下げて
高身長、白衣の似合う天才で……
あの時、
彼の蒼灰色の眼は
獲物を食むディオネアのように
優しく、しかし確実に
私を捕らえて離すことはなかった。
彼の名は
ジャスティン。
私の大好きが詰まった理想のひと。
彼との出会いは、突然だった。
あれはある昼さがり――
「森さん、私恋がしたいの」
私は何気なく 森さんに呟いた。
とくに深い意味はなかった。
森さんは私の突然の言葉で驚いた様子だった。
眼鏡のわきから大きな眼をこちらにむけて。
「ちょっと待っててね」
今思うと、森さんはきっと神様か何かだったのだろう。
森さんは
ジャスティンと名付けた紙に
彼を書き始めた。
十字はやがて顔になり
眼、髪、服、とそのタッチは軽やかだった。
時間というのは夢中になっているとすぐに
進んでしまう。
この時もそうだった。
森さんがジャスティンに口付けをすると
(実を言うと、ここで私はジャスティンのファーストキッスを奪った森さんに少し嫉妬をおぼえていた)
ジャスティンから煙がまくまくと立ち込め
私は霧というか煙というか
その何かで視界にはなにも写らなくなっていた。
とっさに失明したのだ、とわかった。