↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/41

第12話 出井亜寧羅〜経鳥栖④

 空玲須(クレス)は、ホースのシャワーヘッドにバケツをくくりつけて、静かに待っていた。水面は激しくうねり、中をうかがうことはできない。待つしかない。そして、おそらくチャンスは一度。

 

 水中の出井亜寧羅(デイアネイラ)は、水の流れに乗ってプールの深淵深く潜っていく。

 流れが変わる。水が逆流する。

 向こうから巨大なものが迫ってくるのがわかる。大きな口を開け、たくさんの牙をむき出しにして。

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は、水中で身をひるがえし、それから逃れるように泳ぎだした。牙が迫る。口を閉じる。間一髪かわした出井亜寧羅(デイアネイラ)は、敵の鼻面を蹴って、加速した。


 波が変わった。

 来る。身構える空玲須(クレス)。

 水面が盛り上がる。水中から上がってくる、速い。

 ぱぁーんッ。

 水面が弾け、出井亜寧羅(デイアネイラ)の身体が宙を舞った。回転しながら水しぶきをまとい、高く、高く、華麗に空中を飛ぶ。

 それを追って伸びる黒い首。空玲須(クレス)はバケツを振り回して、それを放った。

 くるくると巻きつくホース。ぐい、と力一杯に引く。バケツはうまく引っかかり、抜ける気配はない。経鳥栖(ケートス)は逃れようとして、暴れ回った。波打つ水面。しかし、空玲須(クレス)の力の前に、水中に戻ることはできない。

 出井亜寧羅(デイアネイラ)。空玲須(クレス)は一瞬、激しく波打つ水面を見て心配になった。しかし、

「オレも、信じる。」

 空玲須(クレス)はさらに力を込め、経鳥栖(ケートス)をプールサイドへと引っぱり続けた。

 暴れる。重い。しかし、オレには引ける!

 頭が陸に上がる。まだ暴れる。首が、身体が、そしてついに尻尾まで。全身を陸に引き上げた。

 あれだけ暴れていた経鳥栖(ケートス)は、陸に引き上げられると静かになり、プールサイドには、倒れた部長だけが残った。そしてその上には黒い影が浮かんでいる。

 いつのまにか、出井亜寧羅(デイアネイラ)が空玲須(クレス)の横に立っていました。空玲須(クレス)は、その右肩にそっと手を置きます。

「やったね。空玲須(クレス)くん。

 …これが『怪化』?」

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は、黒い影を見ながら言いました。

「そう。駅土奈(エキドナ)先生のところに連れて行かなきゃ。

 悪いけど、これに入れてくれないか?」

 空玲須(クレス)は、短パンのポケットからレジ袋を出して、出井亜寧羅(デイアネイラ)に渡した。

「うん、いいけど。

 …手、どけてくれないと動けないよ?」

 空玲須(クレス)は、出井亜寧羅(デイアネイラ)の肩に置いた手を外そうとしません。

「え、と…。じゃあ、放すよ。」

 手を放すと同時に、後ろを向く空玲須(クレス)。出井亜寧羅(デイアネイラ)はレジ袋に黒い影を入れて、空玲須(クレス)に渡します。重さも手応えも何もない…。

「はい。入れた感ないけど、多分入ってるよ。」

「ありがとう。」

 空玲須(クレス)は、出井亜寧羅(デイアネイラ)を見ないようにしてレジ袋を受け取り、お礼を言います。

「ちょっと、何か態度悪くない?

 顔も見ないで!」

 出井亜寧羅(デイアネイラ)は、ぷんぷんしました。しかし空玲須(クレス)はかたくなに出井亜寧羅(デイアネイラ)を見ずに、こう言いました。

「み、水着のね、肩紐が切れてる、から。」

 絹を裂くような出井亜寧羅(デイアネイラ)の叫びがプール中にこだまして、大きな水しぶきが上がりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。