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黒幕ごっこで遊びたい

作者: 泥々
掲載日:2026/04/29

 「ようやく」


 青年は膝をつきながら魔王を見る。

 魔王の肉体は崩壊しかけ、もはや力尽きるのも時間の問題だ。


 「見事だ。よくぞ我を倒した」


 「僕だけの力じゃないさ。みんなのおかげだ」


 青年が後ろの仲間に微笑むと仲間も笑顔を向ける。

 

 「誰か一人でもかけていればお前を倒せなかった」


 「そうか仲間のちか」


 魔王の頭上から雷が落ちる。

 青年たちはその光景をただ見ていることしか出来ない。


 「な、何が起きたの!」


 魔法使いが驚愕の声をあげる。

 他の仲間も目を見開く。

 死にかけとはいえ、魔王をこうも簡単に消し去る魔法を見たことがなかった。

 青年たちが魔王を倒せたのだって、聖剣が唯一魔王を殺しえる武器だからだ。


 「あはははははは、あははははははは」


 青年たちはこの場に似合わない、笑い声に戸惑う。

 

 「玉座に誰かいるぞ!」


 重戦士の言葉に皆が玉座を見る。

 そこには仮面をかぶった紅蓮の髪の魔族が座っていた。


 「楽しく観戦させてもらったよ」


 青年は聖剣を持つ手に力を集める。


 「弱った俺たちを殺しに来たのか」


 「ん?いやいやそんなことしないよ。別に君たちが万全の状態でも僕なら簡単に殺せるしね」


 青年はそんなわけがないと思いたかったが、魔族から漂う異様な空気が気になった。


 「なぜ、魔王を救おうとしなかった。お前たちの王だろう」


 「別にあれには興味がなかったからね。魔族の王は一人じゃないし」


 魔族の言葉に弓使いが叫ぶ。


 「う、嘘よ。魔王が何体もいるはずがない!」


 それは信じたくない言葉だ。

 たった一体でも世界の半分を侵略した魔王が複数も存在するなんて。

 しかし、嘘を言っている感じはない。


 「嘘じゃないさ、魔族を束ねる王は複数いる。ほかの種族でも王は複数いるだろう。それと同じことさ」


 「まるで魔族にも国があるような言い方だな」


 魔族はきょとんと、青年を見る。

 そして首をひねった。


 「もしかしてだけど僕たちのこと、この世界では忘れられてるのかな?」


 「何を言っている」


 「何でもないよ。忘れてるならそれはそれで好都合」


 魔族は立ち上がり両手を広げる。

 その瞬間信じられないような威圧が全身を貫いた。


 「あはは大丈夫だよ。今は殺しはしない。挨拶をしに来ただけさ」


 「あ、いさつ、だと」


 「そうだよ挨拶。私こそ君たちが倒した魔王を裏から操った存在、だからね!」


 「な、に」


 青年も仲間たちも限界だ。

 魔力は枯渇寸前で肉体もぼろぼろ。

 だがそれ以上に目の前の魔族から放たれた威圧が、先ほどの魔王よりも圧倒的強者であると嫌でも理解させられる。


 「それじゃあね。勇敢な人類の守りてたち」


 それだけ言うと魔王の姿がぶれるとそのまま姿が消えていった。


 「な、なんだったんだ」


 重戦士がばたりと倒れる。

 魔法使いも座り込む。その足は震えていた。


 「と、とりあえず助かったみたいですね」


 「そうみたい。もう死んだかと思った」


 弓使いは魔法使いの隣に座り込む。


 「こわかったよ~」


 「そんなに抱き着かないでください」


 抱き着かれた魔法使いは弓使いの頭をなでなでしている。


 「少し休憩したら帰ろう。僕も疲れたよ」


 「ああ、それがいい。俺も疲れた。さっさと帰って嫁と息子に会いたぜ。」


 青年は仲間たちを見てほほ笑んだ後、謎の魔族がいた玉座を見る。

 果たして自分たちはあの魔族に勝てるのだろうか。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「お嬢様、楽しんでいただけましたか?」


 執事の格好をした魔族が聞くと髪と同じ紅蓮の瞳をした少女がにこりと笑う。


 「うん、楽しかったよ。さすがは僕の執事だ。見事な魔王役だった」


 「お褒めいただきありがとうございます」


 執事は礼をし、お嬢様と呼んだ魔族の後ろに控える。


 「みんなは僕の演技どうだった?」


 机を囲むように五人の魔族が座る。

 その中の両目を布で覆った魔族が紅茶を一口飲んで、ため息をついた。


 「私的には少し残念でした」


 「ええ、どこがダメだった?黒幕役うまくできてたと思うけど」


 「黒幕なんですよ?あんな堂々と姿を現すのはどうかと」


 白金の髪をした魔族が頷いた。


 「俺もそう思うな。それに、自分から魔王を操ったなんて言うなよな。小物っぽい。執事の演技は完ぺきだったのによ。あそこまで準備するのは大変なはずだ」

 

 「そうなの?」


 紅蓮の魔族が執事を見る。


 「そうですね。人類に魔王の恐ろしさを認知させる必要と滅ぼさないようにするのが少し大変でした。一時期はやりすぎで危うく人類が滅ぶかと冷や冷やしたほどです。ですが、お嬢様のためならと人類に聖剣を渡すことで何とか滅ぶことなく済みました」


 「もしかして、神様役もやったの?」


 「はい、人類に一時的とはいえ希望を与えた方が、いいと考えまして」


 「ありがとね」


 「いえいえ、お嬢様のためなら憎き神の真似くらい苦でもありませんよ」


 笑いかける執事に紅蓮の魔族は「ありがとね」ともう一度小さくつぶやいた。


 「いい執事を選んだな」


 「いいでしょ、僕のだから上げないけどね」


 「わかってるよ」


 「君はどうだった?」


 机にあるお菓子をもぐもぐと食べていた黒髪の魔族が、他の魔族の視線に顔を伏せた。


 「え、っと。そうですね。私はいいと思います。あんな感じの黒幕もかっこいいですし」


 しゃべり終わるとまたもぐもぐとお菓子を食べ始める。


 「確かにかっこよかった。でもさ今回は黒幕の真似だろ?黒幕ならもっと、裏で糸を引いてた感を出さないとだめだろ。我こそは黒幕だ!なんて胸を張るなよな」


 ふんっと鼻を鳴らす白金の魔族。

 

 「まあまあ遊びでそこまでむきになることはないさ。私もよかったと思うよ。堂々とはしてたけど仮面をしてたから謎の魔族って感じは黒幕っぽいと思うけどな」


 にこりと笑う額に二本の角をはやした魔族。


 「ま、いろんな黒幕がいるし、本人が楽しかったらそれでよかったんじゃない」


 そう言って両目を覆った魔族が紅茶を飲む。


 「次は何をして遊ぼうか?」


 角をはやした魔族の言葉に、魔族たちは新たな遊びを考える。


 「そうだ、次はね」


 紅蓮の魔族は楽しそうに次の遊びについて話し始めた。

 人類を滅ぼす遊びに空きてから魔族の王たちは別の遊びを始めた。

 魔王が現世に姿を現せられるのは三分と少ない。

 だから、その間でできることを楽しむのだ。


 

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