あの頃はただ必死だった。
夢を見ていた。
ステージの上だった。
、、つき
――嘘つき!!
マイクを握る手が、震える。
体は重く、呼吸すら出来なくなる。
ああ、まただ。
目の前が真っ黒になる、、、。
◇
目を開けると、見慣れた天井だった。
「……」
数秒、何も考えられない。
そして、ゆっくりと現実が戻ってくる。
狭い部屋。安いベッド。鳴りかけの目覚まし。
――夢か。
「……は」
額に汗が滲む。
今さら、あんな夢を見るなんて。
忘れたはずだろ。
諦めたはずだろ。
ベッドから起き上がり、スマホを手に取る。
通知が一件。
バイト先からだった。
「那智君、、、悪いんだけど他の仕事探してくれる?給料は1ヶ月分ちゃんと出すから!!」
『はっ!?』
すぐに店長に電話をした。
『あの、これどう言う事ですか?いきなりクビなんて困ります!』
店長が気まずそうな声で話し出す。
『那智くんが悪い訳じゃないんだ、だけどほら、、ね?』
それは3日前の出来事。
『お前、ふざけんなよ!』
突然、胸ぐらを掴まれる。
『もう、辞めてよ!那智君は悪くないってば!』
『こいつが悪いんだ!俺のモブ子に手を出しやがって!』
(は?手を出す?俺が?そもそもまともに会話した事もないのに、どうやって手を出すんだよ。)
『本当に辞めて!私が勝手に好きになっちゃっただけなの泣』
そう言って潤んだ瞳でチラチラこちら見るモブ子先輩。
えっ。何。どういう状況?てかそこ付き合ってたのかよ。
『あの、すみません。状況が読めてないんですけど、、、』
『昨日、急に振られたんだよ!お前の事が好きになったから別れたいって!』
『お前、この間、モブ子に色目使ってただろ!』
『色目?あれはモブ子先輩が酔っ払いに絡まれてたんで助けただけで色目なんてそんな、、、』
『ほんと王子様みたいだった照』
(おいおい!何言ってんだこの人!てかやばい!
今にも殴りかかって来そうなんだが?)
『ほら、色目使ってんじゃねーか!』
『いや、その』
『そこの勘違いブスが勝手に好きになっただけでしょ?那智君がかわいそう』
『はっ?』
モブ子先輩が怖い顔で睨む目線の先にはもう1人の女の先輩のモブ美先輩だ。
『那智君はみんなに優しくしてるのに、自分だけが特別だって勘違いしたわけ?そもそもあんたの見た目じゃ釣り合わないでしょ?』
小馬鹿にした様なその一言は、どうやらモブ子先輩の癇に障ったらしい。
『こそこそ隠し撮りしてインスタの裏垢に私の王子様♡とか言って写真載せてるストーカー女に言われたく無いんですけど』
鋭い言葉のパンチがモブ美先輩に直撃する。
(てか、隠し撮りされてたのか!気づかなかった、、)
モブ美『なんでそれを、、、!』
そこから先は地獄だった。
モブ子先輩とモブ美先輩が◯◯TVもびっくりなディスバトルを展開。
取っ組みあいの喧嘩に発展し、それを止めに入ったモブ子先輩の彼氏が2人に怒鳴られ泣き出して、店長がともう1人のシゴデキおじさんの三浦さんが止めに入りなんとか収束。
元々3人は主力メンバーで、辞められると店が回らなくて困る店長がした苦渋の決断らしい。
『本当に申し訳ないと思ってる!残りの出勤分と来月分の給料は出すから!』
ここまで言われてはしょうがない。
全然腑に落ちてないが、自分が折れるしかないのだろう。
『かしこまりました。今までありがとうございます。』
『那智君さぁ芸能界とか興味ないの?那智君ぐらいイケメンだったら普通の仕事するより、向いてると思うよ?』
『、、、、考えときます』
そう言って電話を切った。
『芸能界、、、ね』
考えないわけじゃない。
でももうその道は自分にはないのだ。
何も考えたくなくなって、現実を無視するかの様にそっと目を閉じた。
初めまして、夢見遥歩です。
不定期更新ですが、がんばります。




