6、聖女の仮面と敗北の味
ミオプロススとデュモルチ街道の戦いの後、大公国軍が獲得した戦利品は、驚くべきものであった。
攻城兵器、武器、馬、食料、衣服……
この戦利品の量は、当時の大公国軍の総装備の相当な部分を占めた。帝国軍が置き去りにしたこれらの装備は、大公国軍にとって即座に戦力増強の手段となり、戦争継続の可能性を高めた。大公国兵たちは、この勝利を帝国軍からの装備提供と揶揄したほどであった。
「雪中の奇跡」として報道された、シルビアらによる三倍の敵に十倍の損害をあたえたミオプロススでの勝利は、単なる戦術的な勝利ではなかった。それは、大公国が物量で劣っても、知恵、勇気、そして地の利で優位に立てることを世界に証明した出来事であり、大公国国民の士気を最高潮に高めた決定的な勝利となった。
馬にまたがるヘルマンの瞳には、昨日までの迷いは消えていた。憧れという名の呪縛を卒業し、隣に立つグラツィアという実在の女を愛すると決めた男の顔だった。
シルビアが騎士団の先頭に立つ。彼女は期待と不安の入り混じった眼差しでヘルマンを見た。だが、戻ってきたヘルマンの瞳に宿っていたのは、彼女が慈しんできた無垢な少年の面影ではなかった。
彼は一歩下がり、騎士としての完璧な礼を捧げる。
「団長代理、出発準備、整いました」
その所作には、一切の迷いがなかった。かつて彼がシルビアの前で見せていた、あのあどけない甘えや隠しきれない熱は、ヴァルデトルーデの手によって徹底的に削ぎ落とされ、実戦という泥の中で叩き直されていた。
……ああ、そう。あの子は繭を破ったのね。
シルビアの胸に、鋭い痛みが走った。彼が選んだのは、自分が提供し続けた清潔で芳香漂う光ではなく、ヴァルデトルーデが差し出した不味い安酒と、泥にまみれた現実だった。
それは容易に、残酷な一文へと脳内で変換された。……ヘルマンは、女としての私よりも、女としてのヴァルデトルーデを選んだのだ。
シルビアがどれだけナシアの香りで着飾り、清廉な聖女を演じても、ヘルマンを真に男へと変えたのは、自分ではない。あの隻眼の、血の匂いのする女傑だった。
守ってあげたいという自負は、彼にとってただの足枷に過ぎず、彼が求めていたのは、共に地を這い、共に汚れてくれる共犯者としての女だったのだ。
その事実は、シルビアの女としての自尊心を、冷たいナイフで抉るように傷つけた。
「……そう。もう、私の救いは必要ないのね」
でも勝負は引き分けよ、ヴァルデトルーデ。あの子が最終的に選んだのはあなたではないのだから。
微笑もうとして、頬の筋肉が硬直する。無理に作った笑顔が、剥がれ落ちそうな仮面のように引き攣った。ヘルマンの目は、もう彼女を特別な女性として映していない。ただの、有能な上官として、完璧な敬意を払っているに過ぎない。
その非の打ち所がない騎士としての礼こそが、彼女への何より冷酷な拒絶だった。シルビアは寂しさを隠し、無理に作った笑顔で二人を送り出す。
皇帝ジュゼッペはシルビアによって二つの騎士団が壊滅した報を聞いて「おのれ、レオ、お前はどれだけ余を苦しめれば気が済むのだ」と激怒し、大公国への報復を誓ったという。
ヘルマンとグラツィアは、帝国によるさらなる嵐の予感を抱きながら、馬に跨った。
ヴァルデトルーデは、腕を組み、建物に寄りかかって二人の出立を眺めていた。通り過ぎる際に、ヘルマンにフラスコを投げつける。
「餞別だ」
ヘルマンは馬上でそれを受け取り、一口飲んだ。
「不味いですね。でも、ありがとうございます」
「いい男になったな」




