5、共犯者たちの冬
救援部隊であるアストラガルス騎士団が壊滅したことで、ミオプロススの村周辺で孤立していた帝国ラティルス騎士団も、もはや持ちこたえる術を失った。
大公国軍は、包囲・撃滅戦術で敵を消耗させた後、最終的な掃討戦を開始した。包囲された帝国兵の多くは、凍え死ぬか、捕虜となることを選んだ。十二月末から翌一月初頭にかけて、この戦線の二つの帝国騎士団は、事実上の壊滅という惨憺たる結末を迎えた。
まるでナシアの赤い実を飲み込んだ鳥が、気づかぬうちに内側から焼かれて落ちるように、帝国騎士団は雪の中に沈んでいったのだった。
ミオプロススの村は解放された。戦利品として得られた大量の武器や防寒着に大公国兵が歓喜する中、シルビアは屋外でグラツィアに話しかけていた。
「グラツィア、ヘルマンを守ってくれて本当にありがとう。この子が立派な騎士になれたのは、あなたのおかげよ」
シルビアは心からの感謝を込めて、グラツィアの手を握った。その手は白く、清らかで、非の打ち所がない善意そのものだった。だが、その瞬間、シルビアの脳裏にヴァルデトルーデの低い声が蘇る。
―あの子を光の中に縛り付けるのは、教育じゃない。去勢だ。
シルビアの指先が、微かに震えた。目の前にいるグラツィアの、泥と油に汚れ、霜焼けで赤く腫れた無骨な手。それに比べて、自分の手はあまりに無垢で、戦場という現実から浮き上がっている。私は、あの子にこの汚れを経験させまいとするあまり、彼が男として、騎士として自ら熱を持つ機会を奪っていたのではないか。私の愛は、あの子の翼を折るための毒だったのではないか……。
一瞬、シルビアの完璧な微笑みが、迷子の少女のような心細い色に揺れた。
だが、彼女はすぐにその影を心の奥底へ押し込めた。今はまだ、それを認めるわけにはいかない。認めてしまえば、自分がこの過酷な亡命生活の中で守り抜いてきた唯一の光が消えてしまうから。
「……本当に、感謝しているわ」
シルビアは自分自身に言い聞かせるように、もう一度グラツィアの手を強く握った。義理の弟を思いやる聖女のような慈しみ……。
だがヘルマンの押さえつけている、他人には決して言えない欲望を知っているグラツィアには、その清らかさこそが憎しみの対象であった。
ヘルマンはその様子を近くでみていた。
シルビアは、ヘルマンがグラツィアを彼女の身代わりとしているという冷酷な真実に気づいていない。彼がグラツィアを恋人としているのは同じ帝国出身者として、雰囲気が似ているというだけに過ぎない。そんな自分に嫌気がさして、彼は吐き気がしてきた。
ヘルマンは黙ってその場を離れた。追ってきたグラツィアが、雪の上で彼の袖を掴む。
「……あの人は、何もわかってない」
ヘルマンが絞り出すように言った。
「ええ。シルビア様はあなたを光の下へ連れて行こうとする」
グラツィアがヘルマンに身体を寄せた。
「でも、私はあなたの暗がりに、ずっと居座るつもりよ。あなたが団長をずっと好きだって、私は構わないわ。私はあなたに命を救われたようなものだから……」
グラツィアはヘルマンの唇に、自分の唇を押し当てた。鉄の味と、乾いた皮膚の感触。
「一緒に、焼かれましょう。ヘルマン」
その言葉で、ヘルマンの中のなにかが消えた。彼はグラツィアの腰を抱き寄せ、無言で彼女の凍えた指先を自分の手のひらで包んだ。お互いの熱が溶け合っていく。




