3、美しき舞踏と汚い一手
ロサ騎士団長ヴァルデトルーデはエピフィラム騎士団から送られてきた軍監のヘルマンに剣術の手ほどきをしていた。
理由のひとつ目は、お目付け役への嫌がらせ。二つ目は上官に当たるエピフィラム騎士団団長代理のかわいがっている義弟への嫌がらせ。三つめは部下の騎士に手を出しながら、誠実さを感じさせない嫌がらせだった。要するに暇つぶしだ。
ヴァルデトルーデがヘルマンの背後に回り込み、剣を握る彼の手を上から包み込む。
「あんたの姉ちゃんがが教える剣術は、演武のための舞踊だ。いいか、本当の殺し合いは、もっと泥臭く、もっと惨めなもんだよ」
彼女が教えるのは、騎士道には反するが、生き残るための「汚い一手」だった。
「帝国を追われ、明日をも知れぬ亡命者が、いつまでも騎士の誇りなんて高い看板を背負っていられるか。殺せるときに殺し、奪えるときに奪う。指を眼窩に突っ込んででも、相手の息の根を止める。それが、地の底を這う俺たちのやり方だ」
ヴァルデトルーデは残った右目を細め、獲物を品定めするような視線を向けた。彼女の手には、使い古された無骨なブロードソードが握られている。
「聖女様の騎士でいたいなら、そのまま雪の中で凍えて死ね。だが、あの女を本当に守りたいなら……その綺麗な指先を、一度徹底的に汚すんだな」
ヴァルデトルーデの暇つぶしの最中に邪魔が入った。
「姐御、伝令です。敵がデュモルチ道の隘路に入りました」
ヴァルデトルーデの興味がヘルマンから、そちらに移った。
「よし。帝国の野郎どもに、裏切り者の執念を見せてやれ」
すぐに出陣した。
軽装のロサ騎士団にくさびが、帝国アストラガルス騎士団の隊列をズタズタに切り裂いていく。騎士団に付属する歩兵隊、補給部隊も同様だった。
寸断されたまま、円陣を組む。大きく五つに分断された。雪に足を取られた帝国軍は、もはや組織的な抵抗すらできない。じきに戦いは一方的な撃滅に移る。すべてはシルビアの采配によるものだった。
ヘルマンはヴァルデトルーデ指揮の元、戦闘に参加した。槍の穂先が帝国騎士の板金鎧にはじかれる。
「こんな雪原に非常識な!」
メイスに持ち替え、殴りかかる。そのようにしてヘルマンたちは暗くなるまで戦い続けた。そしてその後、彼は休む間のなく戦果を前線近くに進出した本部に伝令するよう、命令を受けた。




