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63.過負荷

「――……管理人、様……」

 少女の、か細く、しかしはっきりと紡がれたその言葉。

 それは、静まり返った医療室に、奇妙な波紋を広げた。

「……かんり、にん……? 誰のことだ?」

 俺は、思わず素で聞き返してしまった。

 この城で、俺を「管理人」と呼ぶのは、AIのノアだけだ。国民たちは「陛下」か「神様」。エラーラは、ただ「管理人」と呼び捨て。

 初対面のはずのこの少女が、なぜ、俺の本当の役職を知っている?

「おお……!」

 俺の隣で、村長が、再び感涙にむせび始めた。

「なんと……! 天より舞い降りたこの御方は、やはり、陛下の御業を、その本質を、最初から理解なさっておられたのだ! これぞ、神と神の邂逅!」

「……黙れ、爺さん。話がややこしくなる」

 エラーラが、村長の口を、呆れたように手で塞ぐ。

 俺は、ガラスの向こうの少女に、一歩近づいた。

「なあ、君。俺が、管理人だと、どうして知っている?」

 俺の問いに、少女は、ベッドの上で、ゆっくりと、しかし必死に、その身を起こそうとした。

「……待て、無理するな!」

 俺は慌てて医療室のドアを開け、彼女の側に駆け寄る。その肩にそっと触れると、驚くほど華奢で、そして、まだ熱っぽいのが分かった。

「……申し訳、ありません……。御前で、このような無様な姿を……」

 少女は、悔しそうに唇を噛んだ。そのエメラルドグリーンの瞳は、ただ、まっすぐに俺だけを見つめている。

「私は……私は、あなた様に、お会いするために……この場所を、目指して……」

「落ち着け。まずは、君の名前を教えてくれるか?」

 俺が優しく尋ねると、少女は、こくりと頷いた。

「……私の、名は……エリス、と申します」

「エリス、か。いい名前だな」

 エリスと名乗った少女は、俺が近くにいることに安堵したのか、少しだけ、その表情を和らげた。

「……ずっと、探しておりました。新たなる、管理人様。そして……この、アークノアの、同胞を」

「同胞……?」

 その言葉に、俺だけでなく、後ろで聞き耳を立てていたエラーラやシャルロッテも、眉をひそめた。

 エリスは、ゆっくりと、自らの胸の中心――心臓のある場所を、震える指で示した。

「……私と、この城は……同じ、なのです」

 ノアの報告が、脳裏に蘇る。

 彼女の心臓部にあるという、この城の動力炉『アニマ・コア』と酷似した、エネルギー体。

「……どういうことだ? 君は、一体、何者なんだ?」

「私は……」

 エリスが、その正体を明かそうと、口を開いた、その時だった。

 医療室全体に、けたたましい警告音が鳴り響いた。

《警告! 警告! 対象:エリスのバイタルサイン、急激に低下! 体内のエネルギーコアが、過負荷により暴走状態に移行!》

「なんだって!?」

 見れば、エリスの胸の中心が、服の上からでも分かるほど、激しい緑色の光を明滅させ始めていた。

「ぐ……っ……あ……!」

 エリスは、苦しげに胸を押さえ、その場に崩れ落ちる。

《このままでは、コアは自爆します! 爆発規模は、本城の東区画を、完全に消し飛ばすレベルです!》

「おいおい、冗談だろ!」

「陛下! お逃げください!」

 村長やエラーラが叫ぶ。

 だが、俺は、動けなかった。目の前で、一人の少女が、苦しんでいる。見捨てるなんて、できるはずがない。

「ノア! 何とかする方法はないのか!」

《……一つだけ、あります》

 ノアは、珍しく、躊躇うような間を置いて、続けた。

《彼女のコアと、本城の主動力炉『アニマ・コア』を、直接、同期させ、エネルギーを強制的に安定させる……。ですが、それには、管理人様自身の、生体認証と、強い意志による、直接的な『接触』が必要です》

「接触?」

《……はい。彼女の胸にある、あの宝石……あれが、外部との唯一の接続ポートです。それに、管理人様が、直接、触れてください》

 俺は、ベッドの脇に置かれていた、緑色の宝石を掴んだ。ひんやりと、そして、どこか生き物のように、微かな脈動を感じる。

 エリスの苦しみは、ますます激しくなっていく。

 迷っている時間はない。

「……わかった。やってやる」

 俺は、覚悟を決めた。

 そして、苦しむエリスの胸元に、その緑色の宝石を、そっと、押し当てた。

 その瞬間、俺の意識は、真っ白な光の奔流に、飲み込まれていった。

――ここまで読んでいただきありがとうございます!

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次回もお楽しみに!



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