53.豪華景品の食材がないクイズ番組なんてクイズ番組じゃない
モニターに映し出される、特撮映画もどきの最終決戦。
老いた英雄が、全身全霊を込めた最後の一撃を、巨大なトカゲに叩き込もうとしていた。
その光景を、俺は、空になったポップコーンの容器を膝に抱えながら、大きなあくびと共に見ていた。
「……飽きた」
最初は面白かったが、もう十分だ。派手な光と爆発の応酬は、正直、見ているだけで疲れる。
俺は、この壮大な戦いの結末を見届けることなく、モニターをぽいっと片隅に追いやった。
「なあノア、何か他に、面白いことはないか? さすがに暇すぎる」
《……》
ノアからの返答はない。どうやら、地上の戦闘の観測で忙しいらしい。
仕方なく、俺は自分で『初心者ガイド』のパネルを呼び出し、何か新しい項目が増えていないかを探してみた。
すると、一つの項目が、控えめに、しかし確かに点滅していることに気づいた。
【管理人レベル昇格プロトコル(Lv.3 → Lv.4)】
【試験内容】: 管理人適性・技能テスト
「……技能テスト?」
なんだか、面倒そうな響きだ。筆記試験とか、実技試験とかだったら、即刻やめよう。
だが、好奇心には勝てなかった。俺は、おそるおそる、その項目に触れてみる。
《プロトコルを開始します》
ノアの、いつもより少しだけ改まった声が響く。
そして、玉座の間に、クイズ番組のような軽快なファンファーレが鳴り響いた。
《第一問。今、貴官に話しかけている、この声の主は誰でしょう?》
「……は?」
あまりにも、予想外の質問だった。
俺は、呆気に取られながらも、正直に答える。
「……ノア、だろ?」
ピーンポーン!
どこからともなく、間の抜けた正解音が、大音量で鳴り響いた。
《正解! さすがです、管理人!》
なんだこれ。
俺が困惑していると、ファンファーレが再び鳴り、第二問が出題される。
《第二問。それでは、実際に、貴官の権能の一つを行使してみてください。例えば……チョコレートを、ここに一つ、出してみてください》
「……」
俺は、言われるがままに、いつも通り、ノアに命令した。
「ノア、チョコレート。いいか、今度こそ、絶対に苦くないやつな。頼むぞ」
《了解》
俺の手元に、何の変哲もない、普通の板チョコレートが、ポン、と現れた。
その瞬間。
デデーン! 正解です! お見事!
先ほどよりも、数倍大きな正解音が、玉座の間に轟いた。
「……」
俺は、一抹の不安を覚えながら、そのチョコレートをひとかけら、口に放り込んだ。
舌の上に広がる、いつもの、あの絶望的な苦味。
「苦いじゃないか! なんでだよ!」
俺の絶叫をBGMに、ノアの冷静なアナウンスが響く。
《――以上で、管理人適性・技能テストを終了します。全問正解。素晴らしい結果です》
《プロトコル、クリア。管理人権限レベルを4に引き上げます》
俺は、手の中の苦すぎるチョコレートを見つめながら、固まっていた。
シュールすぎる。このテスト、俺の味覚を試していたわけではないらしい。
「なあ、ノア。レベル4になって、何が解放されたんだ?」
《権限レベル4にて、新たに『機械製造指示』の権能が解放されました》
「機械製造? それって、技術室でやってたやつじゃないのか?」
《これまでは、特定の施設、特定の素材、そして登録済みの設計図がなければ、物品の製造は不可能でした。ですが、今後は、場所や素材、設計図の有無を問わず、管理人様の指示に基づいた、あらゆる機械の製造が可能となります》
つまり、技術室の機能が、大幅にパワーアップして、どこでも使えるようになった、ということか。
「へぇ……」
俺は、手の中の苦いチョコレートをかじりながら、考える。
いつでもどこでも、機械が作れる。
(……じゃあ、俺専用の、絶対に苦くないお菓子だけを、俺の命令通りに作る、全自動おやつ製造機とかも、作れるってことか……!?)
俺のスローライフの質を向上させるための、新たな戦いが始まった瞬間だった。
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