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51/121

51.雌雄を決す人と龍④

 絶対的な切り札を、いとも容易く回避された。

 魔力も、体力も、もはや限界に近い。

 地上では、帝都の民が絶望に息を呑み、玉座の間では、皇帝ゲルハルトが顔を覆っていた。誰もが、大英雄の敗北を、そして帝都の終わりを覚悟した。


 だが、当の本人――ジークフリートだけは、全く恐れていなかった。

 彼は、天を舞う竜を睨みつけ、ニヤリと、百戦錬磨の戦士だけが浮かべる笑みを浮かべた。


「……面白い。面白いではないか、トカゲめ。貴様のような骨のある敵は、魔王以来だ」

 彼は、再び大剣を構える。

「――ならば、こちらも、出し惜しみはなしだ!」


 ジークフリートがそう宣言すると、先ほど消え去ったはずの偽りの夜空が、再び帝都の上空に現れた。一度ならず、二度までも、昼を夜に塗り替える。常識では考えられぬ、神業。

 満月が、再び老いた英雄に、その力を惜しみなく注ぎ込む。


「いくぞ、第二ラウンドの続きだ!」


 ジークフリートの体が、銀色の闘気に包まれる。

 次の瞬間、彼の姿は、地上から消えていた。

 いや、違う。あまりにも速すぎるのだ。

 老いた英雄は、月の光そのものと化したかのように、空を縦横無尽に駆け巡り、竜に対して、目にも留まらぬ速度の連続斬撃を叩き込み始めたのだ。


 ガッ、ガッ、ガギンッ!

 竜の硬い鱗が、月の光を帯びた剣によって、次々と砕け散っていく。

 竜は苦痛に咆哮し、炎を吐き、尻尾を振り回すが、その全てが、幻影のように舞うジークフリートを捉えることはできない。


「――おまけだ!」

 そして、ジークフリートは、竜の頭上を取ると、大剣に再び消滅の光を宿らせた。

 二度目の【アニヒレーター】。

 しかし、今回は詠唱がない。その分、威力は先ほどよりも格段に劣る。

 だが、それで十分だった。


 至近距離から放たれた消滅の光は、竜の巨大な翼の付け根を、完全に抉り取った。

「ギシャアアアアアアアアアアッ!!」

 翼を片方もぎ取られた竜は、バランスを失い、凄まじい轟音と共に、帝都の廃墟へと墜落していく。


 砂塵が晴れた後、そこにいたのは、翼を失い、もはや飛ぶことのできない巨大なトカゲだった。

 その前に、ジークフリートが、ゆっくりと舞い降りる。


「どうした、トカゲめ。翼がなければ、ただのデカい図体ではないか」

 老いた英雄は、消耗しているはずなのに、どこまでも楽しそうに、ドラゴンを挑発した。

「さて……そろそろ、本当のフィナーレといくか」


 ジークフリートは、天の満月に、最後の一瞥をくれる。

 夜空が、彼に応えるかのように、ひときわ強く輝いた。

 全ての月の力を、その一撃に込めて。

 彼は、地上でもがく竜に向かって、全力の大剣を、振り上げた。


【天空城アークノア 玉座の間】


 その頃、俺は、玉座にふんぞり返り、目の前のモニターに釘付けになっていた。

 手には、ノアが渋々作った、バター(もどき)と岩塩(ミネラル豊富)味のポップコーン。


「おー、おー、すげえ」


 モニターに映し出される、特撮映画さながらの大立ち回りに、俺は、ただただ感心していた。

 あのじいさん、めちゃくちゃ強いじゃないか。さっきまで負けそうだったのに、急に空を飛び回って、ビームまで撃ち始めた。


「やるなあ、じいさん。頑張れー」


 俺は、ポップコーンを口に放り込みながら、完全に他人事として、その壮大な戦いを鑑賞していた。

 地上の存亡をかけた死闘は、俺にとっては、最高の暇つぶしでしかなかった。

――ここまで読んでいただきありがとうございます!

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次回もお楽しみに!



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