表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/121

48.雌雄を決す人と龍①

 帝都ヴァイスは、血の祝祭の傷跡から、少しずつ立ち直ろうとしていた。

 皇帝ゲルハルトは、北の魔女リディアの庇護の下、反乱分子の粛清と、民心の安定に努めていた。偽りの平和。誰もが、これ以上の悲劇は起こらないと、そう信じようとしていた。

 だが、本当の絶望は、いつだって空からやってくる。

「――な、なんだ、あの影は……!?」

 帝都の上空を監視していた兵士が、絶叫した。

 雲を突き破って現れたのは、帝国の誇るワイバーンではない。鱗は黒曜石のように輝き、その翼は空を覆い尽くすほどに巨大な、まさしく伝説の獣――ドラゴン。

 だが、その様子は異常だった。竜の瞳には理性の光がなく、太い首には、禍々しい紫黒の紋様が刻まれた、巨大な金属の首輪がはめられている。

 それは、古代に禁忌とされた魔術。生物の魂を縛り、意のままに操る、『隷属化』の呪いだった。

「総員、迎撃用意!」

 城壁の魔導砲が、慌ただしく竜へと照準を合わせる。

 だが、竜は、そんな地上の矮小な営みなど、気にも留めていなかった。

 その顎が、ゆっくりと開かれていく。喉の奥で、太陽の中心にも匹敵するほどの、凄まじい熱エネルギーが渦を巻いていた。溜めに、溜めた、一撃必殺のブレス。

 次の瞬間、天を裂くほどの白光が、帝都の心臓部――王城を、直撃した。

 音は、なかった。

 ただ、光が、全てを飲み込み、全てを消し去っただけ。

 やがて光が収まった時、そこに広がっていたのは、悪夢のような光景だった。

 帝国の栄光の象徴であった王城。その東半分は完全に崩れ落ち、西半分は跡形もなく消滅していた。かろうじて形を留めているのは、北の魔女リディアが滞在していた北部分と、奇跡的に被害を免れた南部分だけ。

 帝都は、再びパニックの渦に叩き落とされた。

「……やりすぎだねえ」

 その惨状を、どこかからか、西の魔女モルガナの嘲笑う声が響いた気がした。

 誰もが絶望に膝をつく、その時だった。

 半壊した王城の瓦礫の中から、一人の男が、凄まじい勢いで飛び出してきた。

 その手には、身の丈ほどもある巨大な剣。白銀の鎧は所々砕けているが、その闘志は、少しも衰えていない。

 大英雄、ジークフリート。

「――小賢しい真似を!」

 老いた英雄は、天を舞う隷属の竜を睨みつけ、大地を震わすほどの声で、高らかに叫んだ。

「前回は、あの性悪魔女に不覚を取ったが、もう負けん! 今度の相手は、ただのデカいトカゲ! 話が分かりやすくて結構だ!」

 彼は、自らの足を大地に叩きつけると、その反動で、砲弾のように空へと跳躍する。

 そして、全ての絶望を振り払うかのように、高らかに宣言した。

「――聞け、帝都の民よ! そして、竜を操るどこかの誰かよ! 大英雄様の、第2ラウンドだ!」

 老いた英雄の雄叫びが、絶望に沈む帝都に、一筋の光を灯した。

 伝説と伝説の、新たな死闘の幕が、今、上がった。

――ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白かったら⭐やブクマしてもらえると励みになります!

次回もお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ