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44.開花④

 破壊と創造の応酬。

 風の刃が王城の壁を切り裂けば、氷が瞬時にその傷を塞ぐ。フードの戦闘員たちが次々と氷塊に閉じ込められては、風の力でそれを内側から破壊して復帰する。

 戦いは、一見すれば拮抗しているように見えた。

「……遊びは、終わりだ」

 だが、北の魔女リディアの忍耐は、とうに限界を超えていた。

 彼女の瞳から、感情の色が消える。それは、彼女が「本気」になったことの証。

「――ちゃんと、凍てよ」

 その、静かな一言が、世界の理を書き換えた。

 先ほどまで、風の力で氷を砕いていたフードの戦闘員たちが、再び青白い氷に包まれる。だが、今度の氷は、明らかに様子が違った。

 それは、ただ対象を凍らせるだけの氷ではない。時間そのものを、永遠に凍結させるかのような、絶対的な静止の氷。

「……あらら」

 その様子を、フード集団を率いる西の魔女モルガナが、つまらなそうに見ていた。

(……少しは楽しませてくれると思ったのに。私の風を分け与えたところで、所詮は雑魚か)

 待てど暮らせど、氷像と化した部下たちが復帰する気配は、全くなかった。

(……完全に、凍結させたか)

 モルガナは、ほんの少しだけ、リディアへの評価を改めた。

 部下たちは、もう役に立たない。だが、好機でもある。あの女は、雑魚の処理に、少なからず魔力を使ったはず。

(北の魔女リディア……その力は、広範囲の敵を殲滅することに特化している。一対一の、純粋な魔力戦では、この私の風が上!)

 彼女は、自らの勝利を微塵も疑っていなかった。

「――おしゃべりは、終わりかい? 氷の置物」

 モルガナが両手を広げると、彼女の周囲に、八つの小さな風の渦――『暴風の八つ裂き』が形成される。

 八つの竜巻は、それぞれが意思を持ったかのように、上下左右、あらゆる角度からリディアへと殺到した。

 リディアは、それに対して、ただ分厚い氷の壁を、自らの周囲に複数展開するだけで応戦する。

 ガガガガガッ!

 氷壁が、風の刃によって凄まじい勢いで削られていく。

 一枚が砕ければ、すぐに新しい一枚が再生される。だが、それは、モルガナにとっては、あまりにも都合の良い、防御一辺倒の策でしかなかった。

「芸がないな! それしかできないのか!」

 彼女は、さらに魔力を高め、八つの竜巻を一つに束ねた。

 天を突くほどの、巨大な破壊の竜巻。それが、リディアの防御壁ごと、彼女を飲み込んでいく。

「――終わりだね」

 やがて竜巻が消え去った時、そこには、ボロボロになったローブを纏い、全身から血を流して倒れる、北の魔女リディアの姿があった。その瞳は固く閉じられ、意識はない。

「……ふん。伝説も、地に堕ちればただの女か」

 モルガナは、倒れたリディアを見下ろし、生き残っていた部下の一人に、顎でしゃくった。

「そいつを、適当な娼館にでも放り込んでおけ。目覚める前に、『隷属の首輪』をはめられれば、最高の戦力となるだろう。まあ、その前に、枷くらいは自力で破壊するだろうがな」

 万が一、隷属させられれば儲けもの。たとえ失敗しても、伝説の魔女が娼館で目覚めたという事実は、彼女の権威を失墜させるには十分な屈辱となる。

 部下が、意識のないリディアを担ぎ、闇の中へと消えていくのを見届けると、モルガナは、再び王城の奥へと視線を向けた。

「さて……。お待たせ、皇帝陛下」

 全ての障害を排除した彼女は、本来の目的を果たすべく、ゆっくりと、皇帝のいる部屋へと歩き始めた。

――ここまで読んでいただきありがとうございます!

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次回もお楽しみに!



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