39.呪いのアイテム
国民たちが『昼寝の義務』という名の勅命を忠実に守り始めたおかげで、城は、特に午後の時間帯、嘘のように静かになった。
あまりにも暇を持て余した俺は、まだ行ったことのない区画を探検してみることにした。
「なあノア、どっか面白い場所はないか?」
《『第七保管庫』の閲覧権限が、管理人レベルの上昇により解放されています。歴代管理人の私物などが保管されています》
「私物! それは面白そうだ!」
俺は、ノアに案内させて『第七保管庫』へと向かった。
そこは、博物館の収蔵庫のような場所だった。ガラスケースの中には、古びた魔導書や、美しい装飾が施された武具、そして、用途不明のアーティファクトがずらりと並べられている。
「うわー、すげえ……」
俺は、子供のように目を輝かせながら、展示品を一つ一つ見て回った。
そして、一つのガラスケースの前で、俺は足を止めた。
中には、月の光を凝縮したかのような、美しい宝石がはめ込まれた銀のネックレスが収められていた。
「これ、綺麗だな……。ちょっとつけてみてもいいか?」
《警告。対象は、呪術的防御機構が付与された古代の遺物です。着用は推奨されません》
「大丈夫だって。ただ、ちょっと首にかけるだけだから」
俺がそう言うと、ガラスケースが静かに開いた。
俺はネックレスを手に取ると、ひんやりとした金属の感触を楽しみながら、自分の首にかけてみた。
その瞬間だった。
「――うぐっ!?」
急に、世界がぐにゃりと歪んだ。
強烈な吐き気と、頭を直接かき混ぜられるような不快感。自分の体が、まるで洗濯機に入れられたかのように、ぐるぐると高速で回転しているような感覚に陥る。
(や、やばい……これ、呪いのアイテムか……!)
俺が後悔した時には、もう遅かった。意識が、急速に遠のいていく。
だが、俺の意識が完全に途切れるよりも早く。
パリンッ!
俺の首にかかっていたネックレスが、まるで内側から弾けるように、粉々に砕け散った。
そして、次の瞬間。
俺の体を、温かく、そしてあまりにも神々しい、黄金色の光が包み込んだ。
《緊急事態を検知。管理人様の生命維持活動に、軽微ながら異常を確認》
《ただちに、超最高位聖魔法【女神の祝福】を発動します》
《……念のため、同魔法を、追加で12回、多重行使します》
なんだか、とんでもないことになっている。
黄金の光に包まれた俺の体は、みるみるうちに活力が漲っていく。吐き気も、めまいも、跡形もなく消え去った。それどころか、追放されてから溜まっていた疲労や、日頃の運動不足による肩こりまで、完全に消え失せていた。
今の俺なら、フルマラソンを三回連続で走っても、息切れ一つしないだろう。
「……ぷはーっ! 助かった……サンキュ、ノア」
俺が礼を言うと、ノアは淡々と答えた。
《問題ありません。管理人様の安全確保は、私の最優先事項です》
「いや、しかし、今の魔法、すごかったな。そんな大技使って、城の魔力とか、大丈夫なのか?」
《ご心配には及びません。本城の主動力炉が、一日で自動生産する魔力量は、今しがた消費した魔力量の、約3000倍です》
俺は、もはや何も言うことができなかった。
この城の過保護っぷりと、その規格外のスペックに、ただただ、呆れるしかなかった。
俺がこの城にいる限り、俺は、病気になることすら許されないらしい。
それは、ある意味、究極のスローライフと言えるのかもしれなかった。
――ここまで読んでいただきありがとうございます!
面白かったら⭐やブクマしてもらえると励みになります!
次回もお楽しみに!