3.FIRSTな試練
『対神属殲滅兵器・アークノア』
『主兵装『太陽を砕く光槍』は、大陸の一部を消滅させることが可能です』
ノアの無機質な説明が、頭の中で何度も反響する。
俺は玉座の間の床にへたり込んだまま、味のしない保存食を砂でも噛むように咀嚼していた。さっきまでの「生き延びた」という安堵は、今や胃の底に溜まる鉛のような絶望に変わっている。
なんだよ、兵器って。大陸を消滅させるって、なんだよそれ。
俺はただ、勇者パーティーを追い出されただけの、スキルもない一般人だぞ。そんな男が、どうしてこんな物騒極まりない代物の「管理人」なんてやらなきゃいけないんだ。
……このまま、何もしなかったらどうなる?
この城は自動で飛び続ける。食料は、あの倉庫にある分だけだ。いつかは尽きる。それに、こんなヤバい城が空に浮かんでいて、地上の国が放っておくはずがない。
どのみち、待っているのはロクでもない未来だ。
俺は固く握りしめた拳で、ゴツリと床を殴りつけた。
「ふざけるな……!」
誰に言うでもない怒りがこみ上げてくる。理不尽な追放、不運な雨宿り、そしてこの最悪の偶然。だが、いくら嘆いても状況は変わらない。
「平穏で、怠惰なスローライフ……絶対に、手に入れてやる!」
そうだ。目的は変わらない。そのためには、まずこの城から降りなければ。
俺は自らを奮い立たせ、目の前に浮かぶ光のパネル――『初心者ガイド』を睨みつけた。
地上に降りる条件は、管理人権限レベルを3にすること。
俺は必死にパネルを操作し、『管理人レベル』の項目を探し出した。指で触れると、詳細が表示される。
『管理人レベルは、AI:ノアが提示する『管理運営トライアル』をクリアすることで上昇します。トライアルは、城の機能を正常に保ち、管理人の適性を証明するための試験です』
「トライアル……試験、か」
つまり、この城の管理人として、ちゃんと仕事をこなせということらしい。面倒極まりないが、やるしかない。
「ノア!」俺はAIに呼びかける。「管理人レベルを上げるための『トライアル』とやらはあるのか?」
《肯定。現在、受注可能なトライアルがあります》
間髪入れずに、ノアが応答する。
目の前のパネルに、ゲームのクエストボードのような新しいウィンドウが開いた。
【管理運営トライアル:内部システムの再起動】
【目標】: 城の休眠区画『第一動力伝達セクター』に赴き、3基の補助ジェネレーターを再起動せよ。
【報酬】: 管理人権限レベルの上昇(Lv.1 → Lv.2)
【トライアルを受注しますか? YES / NO】
選択肢は、事実上「YES」しか存在しなかった。
俺はごくりと唾を飲み込み、覚悟を決めて、光のパネルに力強く触れた。
《トライアルを受注しました。目標地点まで案内します》
受注した瞬間、再び床に光のラインが現れる。だが、今度のラインは食料庫とは別の方向、今まで固く閉ざされていた重厚な扉へと伸びていた。
俺が扉の前に立つと、ノアから警告が発せられる。
《ご注意ください。休眠区画の自動防衛システムが、一部稼働している可能性があります》
「……防衛システム?」
俺がその物騒な単語を繰り返すのと、巨大な扉がゴゴゴゴ……と地響きのような音を立てて開くのは、ほぼ同時だった。
扉の向こうに広がっていたのは、明かり一つない、ひんやりとした闇。
埃と、古いオイルのような匂いが鼻をつく。暗闇の中、複雑に絡み合う巨大なパイプや、無骨な機械のシルエットがうっすらと見えた。
「おい、明かりはないのか」
《通路脇の緊急ボックス内に、携帯式の照明があります》
ノアに言われ、壁の収納を開けると、棒状の道具が数本入っていた。手に取ると、ふわりと柔らかい光を放ち始める。どうやら古代の懐中電灯らしい。
俺はそれを強く握りしめ、意を決して闇の中へ一歩を踏み出す。
自分の足音だけが響く、不気味な静寂。
その時。
暗闇のずっと奥から、「カシャリ」と、何かの金属が擦れるような、微かな音が聞こえた。
俺は息を呑み、明かりを向ける。
光が届くよりも早く、一対の赤い光が、闇の中で静かに灯った。
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