18.拉致と保護の違いはほぼ無い。
俺は、ただの鹿から取れた、やけに神々しい角を手に、玉座の間へと凱旋した。
長かった。実に長かった。追放され、この城に囚われ、なんだかんだと色々あったが、ついにこの時が来たのだ。
《プロトコル、クリアを確認。管理人権限レベルを3に引き上げます》
ノアの祝福(?)の言葉が、頭に響く。
「――よっしゃああああああ!」
俺は、喜びのあまり拳を天に突き上げた。
レベル3! ついに、地上に降りられる!
もう、苦いチョコレートを食べる必要もない。訳ありの剣聖に怯える必要もない。俺は自由だ!
「ノア! メインポートを開けてくれ! 俺は地上に降りるぞ!」
俺は逸る気持ちを抑えきれず、叫んだ。
しかし、ノアからの返答は、俺の歓喜の絶頂から、奈落の底へと突き落とすものだった。
《管理人権限レベル3における外部への移動は、本城全体の航行機能の解放を指します》
「……ん?」
《管理人単独での城外への離脱は、権限レベル10にて許可されます》
「…………は?」
俺は、数秒間、完全に固まった。
つまり、なんだ? レベル3でできるのは、この城を「操縦」することだけ? 俺自身が外に出るには、レベル10まで上げろと?
「……ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」
俺の絶叫が、虚しく玉座の間に響き渡った。
結局、俺は地上に降りられなかった。
すっかりやる気をなくした俺は、玉座にふんぞり返り、やけ食いのように苦いチョコレートをかじっていた。
だが、城を操縦できる、というのは少しだけ興味を惹かれた。
「……なあノア、操縦ってどうやるんだ?」
《玉座にて、思考制御、または手動制御が可能です》
俺がそう言うと、目の前に光のコンソールパネルと、ゲームのコントローラーのような操縦桿が出現した。
「おお……!」
男の子というのは、こういうものに弱い。俺はすっかり機嫌を直し、子供のようにはしゃぎながら操縦桿を握った。
「よし、ちょっと動かしてみるか!」
ゆっくりと、慎重に操縦桿を前に倒す。
すると、城全体が、ごごご……と低い振動と共に、ゆっくりと前進を始めた。
「すげえ! 動いた!」
あまりの感動に、俺は夢中で城を動かして遊んだ。右へ、左へ、少しだけ上昇。まるで、巨大な乗り物のおもちゃを手に入れた気分だった。
だが、その時だった。
調子に乗って、少しだけ速度を上げすぎた。
「うわ、なんか村みたいな点があるな……って、ちょ、待て、ぶつかるぶつかる!」
目の前のモニターに映る地図で、俺の進路が小さな集落と重なるのを視認する。
慌ててブレーキをかけようとするが、この巨体だ。急に止まれるはずもない。
ゴゴゴゴゴゴ……!
城全体に、何か柔らかいものを踏み潰すような、鈍い衝撃が走った。
「……やっちまった……俺、村を……」
俺は、血の気が引いていくのを感じた。
「ノア! 被害状況は!?」
俺が震える声で尋ねると、ノアは、いつも通りの冷静な声で告げた。
《人的被害はありません》
「……! よ、よかった……」
《集落『オークヘイブン』の解体を確認。全住民157名は、安全に居住区画へと転送され、新規国民として登録を完了しました。現在、ウェルカムパッケージを配布中です》
俺は、安堵の息を吐きかけたまま、固まった。
住民を、保護して、国民にした?
(……これ、ただの拉致じゃねえか……!)
俺の額に、嫌な汗が、だらりと流れた。
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そろそろ店出ようかな
次回もお楽しみに!