17.ユニコーン(ユニコーン)
特級護衛兵『セラフィム』を従えた俺のジャングル探検は、驚くほど順調だった。
順調、というか、あまりにも一方的すぎた。
「グルルルルル……!」
牙を剥いて飛び出してきた、巨大なサーベルタイガーのような獣。
それが俺の目に映った次の瞬間には、既に十数個の肉塊に変わっていた。
「キシャァァァァ!」
大樹の陰から現れた、鎌のような腕を持つ巨大なカマキリ。
その鎌が振り下ろされるよりも早く、セラフィムの剣閃が走り、綺麗に縦半分に断ち割られていた。
その後も、毒を吐く巨大植物や、地面から襲いかかってくる大蛇など、モンスター図鑑に出てきそうな奴らが次々と現れたが、その全てが、俺が危険を認識する前に「処理」されていく。
セラフィムたちは、俺の前後左右を完璧な陣形で固め、敵が現れると、近くにいる一体が音もなく迎撃し、何事もなかったかのように元の位置に戻る。その動きは、あまりに洗練されすぎていて、もはや芸術の域だった。
-「……これ、ただの散歩だな」
最初はビクビクしていた俺も、今や完全にリラックスしきっていた。
やがて、俺たちはジャングルの奥深く、木々が開けた美しい場所にたどり着いた。そこには、キラキラと輝く泉があり、まるで物語の一場面のような幻想的な光景が広がっている。
泉のほとりでは、一頭の鹿が優雅に水を飲んでいた。
その鹿は、真っ白な毛並みを持ち、どこか神々しい雰囲気をまとっている。そして、その頭には……立派な角が生えていた。
「ユニコーンは……いないな」
俺は辺りを見回すが、それらしき一角獣の姿は見当たらない。もしかしたら、この奥にいるのかもしれない。
だが、正直、もう歩き疲れた。
俺は、一番近くにいたセラフィムに向かって、ダメ元で頼んでみることにした。
「なあ、悪いんだが、ユニコーンを探して、倒して、角だけ持ってきてくれないか?」
セラフィムは、俺の言葉に静かに頷いた。
そして、次の瞬間。
シュバッ!
セラフィムの姿が消えたかと思うと、泉のほとりで水を飲んでいた、あの白い鹿の首が、音もなく地面に落ちた。
セラフィムは、倒れた鹿の亡骸から手際よく角を一本切り取ると、恭しく俺の前に差し出す。
「…………え?」
俺は、差し出された角と、鹿の亡骸を、交互に二度見した。
その角は、確かに俺が図鑑か何かで見たことのある、螺旋状の美しい角だった。ユニコーンの角と言われれば、間違いなくそうだ。
だが、角の持ち主は、ただの鹿だった。いや、ちょっと神々しい雰囲気はあったが、馬ではない。ただの鹿だ。
(……ユニコーンって、ただの角が特殊な鹿だったのか……?)
俺の長年の幻想が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
まあ、いいか。
《指定資源:ユニコーンの角の採取を確認。プロトコル、クリアです》
ノアの無機質な声を聞きながら、俺は少しだけがっかりした気持ちで、その角を受け取るのだった。
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今食事中。
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