16.猿は悪口ではないが、猿は悪口だ。
目の前に広がる、広大なジャングル。
食料庫『エデン』。そのあまりのスケールに圧倒されながらも、俺は覚悟を決めた。
レベル3になるためだ。地上に降りて、平穏なスローライフを送るためだ。ユニコーンだろうが何だろうが、やってやろうじゃないか。
「よし……行くぞ!」
俺が気合を入れて、巨大なゲートをくぐろうと一歩踏み出した、その瞬間。
ガシャァァァン!
凄まじい轟音と共に、目の前に分厚いシャッターが降りてきて、俺の行く手を完全に塞いでしまった。
「――はあ!? なんだよこれ!」
あまりに理不尽な仕打ちに、俺は思わず叫ぶ。
「おい、ノア! 行けって言ったのはお前だろ! なんで閉めるんだよ!」
《……はぁ》
その時、俺は確かに聞いた。
いつもは無機質なAIの声に、明らかに「呆れ」の色が混じっているのを。
《内部バイタルセンサーによれば、管理人様の戦闘能力は、生まれたての草食獣の赤子にすら劣ります。そのような状態で、活動状態の生態系に単独で進入するなど、安全規約第4条に違反する自殺行為です。なぜ、護衛兵を要請しないのですか?》
「……へ?」
俺は、素っ頓狂な声を上げた。
「ご、護衛兵? そんなの、呼べるのか?」
そうだ。俺は、すっかり忘れていた。
勇者パーティーでは、俺はずっと守られる側、というか、そもそも戦力として数えられてすらいない『荷物持ち』だった。だから、誰かを護衛につけるなんて発想が、俺の頭からすっぽり抜け落ちていたのだ。
《肯定します。管理人様の権限において、最大レベルの護衛を要請可能です》
《命令を受理。特級護衛兵『セラフィム』を10体、転送します》
ノアがそう告げると、俺の周囲の空間がぐにゃりと歪み、そこから音もなく10体の人影が出現した。
それは、今まで見てきたゴーレムや機械兵とは全く違う、流線型の白い装甲に身を包んだ、騎士のような姿をしていた。顔にはスリット状のバイザーしかなく、その手には、白銀に輝く剣が握られている。
あまりの格好良さに、俺はただただ圧倒される。
俺の命令で、こんな凄い奴らが動くのか……!
「よ、よし! 全員、俺に続け! 突撃だ!」
俺が少しだけ偉そうに命令すると、シャッターが静かに上がっていく。
10体のセラフィムは、俺を護るように完璧な陣形を組み、ジャングルの入り口へと進んだ。
その直後。
「ウホッ!ウホホホォォォォ!!」
木々を揺らし、大地を震わせるような咆哮と共に、茂みから巨大な猿人の群れが飛び出してきた!
一体一体が、俺の背丈の倍はあろうかという巨体。剥き出しにされた牙が、涎に濡れて光っている。
「うわあああ! で、出たあああ!」
俺が情けない悲鳴を上げた、その刹那。
――シュンッ
何かが通り過ぎる、風を切るような音がした。
俺の目の前を、白い影が数本、通り過ぎていったように見えた。
次の瞬間、猿人たちの動きが、ぴたり、と止まる。
そして、全ての猿人の首から上が、綺麗に宙を舞った。
轟音と共に、首を失った巨体が次々と地面に倒れ伏していく。
「……え?」
何が起きたのか、全く理解できなかった。
俺が呆然と前を見ると、10体のセラフィムたちは、既に元の陣形に戻って、静かに佇んでいる。
そのうちの一体が、何でもないことのように、手に持った剣を「カシャン」と鞘に収めた。
俺の足元に、ドサッ、と猿人の首が一つ転がってくる。
それを見て、俺は、ようやく全てを理解した。
(……あれ? これ、もしかして、めちゃくちゃ余裕なんじゃないか……?)
俺の心に、絶対的な安心感と、ほんの少しの慢心が芽生えた瞬間だった。
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