15.サファリパーーーク!!
目の前では、大陸最強と謳われた『紅蓮の剣聖』が、高速で切り替わる子犬と子猫の映像に白目を剥いている。
「あ……わん……にゃ……かわいい……」
時折、キラキラした効果音と共に、エラーラの体がビクン、と痙攣する。
.
……うん、見てはいけないものを見ている気がする。
俺はそっと彼女から視線を外し、この気まずい状況から逃避するために、再び『初心者ガイド』のパネルを呼び出した。
「なあノア、何か他にできることはないか? トライアルとか」
《……》
返事がない。集中治療中(?)で忙しいのか?
俺が自分でパネルを操作していると、ある項目が新しく点滅していることに気づいた。
【管理人レベル昇格プロトコル(Lv.2 → Lv.3)】
「――あった!」
思わず、声が出た。これだ! これをクリアすれば、俺は地上に降りられる!
俺は逸る心を抑え、その項目に触れた。
【目標】: 第二食料庫『エデン』に赴き、指定の資源を採取せよ。
【指定資源】: ユニコーンの角 × 1
「……ユニコーン?」
おとぎ話に出てくる、聖なる一角獣。そんなものが、この城の食料庫にあるというのか。まあ、13万年も稼働している城だ。ドラゴンの一匹や二匹、飼っていてもおかしくはないか。
俺はすっかり、この城の常識外れに毒されていた。
「よし! 行くぞ!」
メンタルケア(という名の改造)を受けているエラーラに、「じゃあ、ちょっと行ってくる!」と声をかける。虚ろな目が、一瞬だけこちらを向いた気がした。
床に現れた光のラインに導かれ、俺は城の深部へと進んでいく。
やがてたどり着いたのは、今まで見てきたどの扉よりも巨大なゲートだった。ゲートの上には、『第二食料庫:エデン』とプレートが掲げられている。
俺がゲートの前に立つと、重厚な扉がゆっくりと開いていく。
そして、俺の目の前に広がった光景は――
「…………は?」
倉庫では、なかった。
どこまでも続く、雄大な大自然。天蓋を覆うほどに生い茂る巨大な樹木、地面を埋め尽くす色とりどりの草花、そして、遥か遠くには、きらきらと輝く滝が見える。
ガラス張りの天井からは、本物の太陽と見紛うばかりの光が降り注ぎ、心地よい風が俺の頬を撫でた。鳥のさえずりまで聞こえる。
ここは、食料庫じゃない。一つの、完璧な生態系が広がるジャングルだ。
またしても、亜空間技術か何かだろうか。
あまりの光景に呆然と立ち尽くす俺に、ノアが淡々と告げる。
《目標対象:ユニコーンは、現在、エリア中央の『清浄の泉』付近に生息しています》
俺は、広大すぎるその自然を見渡し、途方に暮れて呟いた。
「……これ、食料庫っていうか、ただの農場……いや、サファリパークじゃないか……?」
聖なる獣を狩って、角を一本持ってこい。
トライアルの内容は、あまりにもファンタジーで、あまりにも無茶ぶりに聞こえた。
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お腹減った
次回もお楽しみに!