隣の転校生
この小説は他の異世界転生ものと逆で、転移して来た美少女と冴えない高校生の学校生活を書いたものです。
世の中は退屈だ。
そんな誰でも一生に数え切れないほど感じることを俺は今体感している。
男の名前は七条 アキラ、平成生まれの日本育ち、どこにでもいる普通の高校生である。
周りと違うことといえば、席につくなりカバーのついたライトノベルを開き、教室の隅で読書に励んでいることである。
「また、オタク小説読んでんのか?」
急な掛け声に一瞬驚いたが、いつも通りのことなので、俺はすぐに目線を戻した。
「おい、無視すんな」
こんな教室の隅でラノベを読んでいるやつにしつこく接してくるこの男は俺の幼馴染の神谷 蓮である。
「俺は今ラノベで忙しいんだよ」
いつものように呟いた。
「また、自分の世界に入ってたぞ、いい加減昼飯ぐらい一緒に食おうぜ」
そう言いながら、隣の空き机を借りて弁当を食べ始めた。
「てか、今日さ転校生が来るらしいんだ」
今更、転校生などどうでもいい。1年の頃はラノベのように美少女が転校してきて、そこから恋に発展するなどと妄想をいくらかしてみたが、叶うことはなかった。
「どうでもいいから早く飯を食え」
そう言いながらも神谷と話すことに退屈さはなかった。
「皆、席につけ」
先生がチャイムと共に教室に入った。
「今日は転校生が来る 外国人のようだから分からないことが多いみたいだ、気軽に接してやってくれ」
「シツレイシマス」
そう言って入って来たのはまるでラノベを彷彿とされるような綺麗な顔立ちにスタイル、髪色だった。
「アリス・エリザベート トモウシマス アリストオヨビクダサイ」
顔はまるで人形のように整っていて、モデルに負けないような見た目そして、一番目を引かれたのはその美しい金色の髪だった。
「まじか……」
この日をもって俺の退屈な日々は一変したのである。
「とりあえず、席は奥の空いた席を使ってくれ」
先生がそう言うと、金色の髪をなびかせながらラノベのような美少女が隣に座った。
よろしく……と声を掛けようと思ったが、そんな勇気は俺にはなかった。
隣に座る転校生からはフローラルな香りが漂い、俺の胸は高鳴った。
教室が盛り上がる中、先生がとんでもないことを言い放った。
「悪いが、七条 エリザベートの案内役を頼む」
ざわざわ……と一瞬にしてクラス全員の視線が俺の方に向いた。
まるで、ライフルでも向けられているかのような気持ちになり意識が薄れてきた。
「ダイジョウブデスカ?」
甘い声が聞こえ、その優しい一言にトドメをさされてしまい、俺は頭から倒れそうになった。
「アブナイ!」
その一言から先は何も覚えていない。
見知らぬ天井を見つめながら、身体に温もりを感じるのが分かった。
まさか、先に転校生に保健室へ案内されているとは……我ながら情けないと思ってしまった。
少しずつ体制を起こすと痛みが全くないことに気づいた。
頭を確かに打ったはずなのに……全く痛みを感じないのである。
「ダイジョウブ?」
隣を見ると少し疲れた顔したアリスが座っていた。
ここまで連れてきたからなのか汗をかいていた。
「ア……アリスが連れてきてくれたの?」
勇気を振り絞って聞いてみると。
「チガウ センセイガハコンダ ワタシハカンビョウ」
どうやら、俺は先生に運ばれてきたらしい……それにしても、なんでアリスが疲れているのだろうか。
「もしかして、結構眠ってしまっていたのか?」
そう呟くと……
「チガウ」
と、だけ返された。
アリスはAIのように反応するので、話しかけやすいと感じた。
思い切って、体調が悪いか聞いてみることにした。
「アリスは体調悪いのか?」
そう聞くと、首を小さく横に振り大丈夫と言わんばかりに微笑んできた。
その顔はまさに天使そのものだった。
「お前はご主人の魔法で治されたんだよ」
どこからか聞こえた突然の発言に俺は固まってしまった。
「シーー」
アリスがベットの下に向かって一生懸命に静かにしてと口の前に人差し指を立てていた。
何かいると感じた俺は急いでベットの下を覗くと、そこには白くてモフモフした見た目の見たことのない生き物がいた。
「おい、人間!あまり汚い目で僕と主人を見るのはやめてもらおうか」
白くてモフモフした猫のような生き物が放った一言にイラッとした。
「誰が汚い目だってぇー!」
勢いよくその生き物を掴んでみると、まるでぬいぐるみを触るような気持ちの良い感触で怒りが自然と静まっていった。
「離せー人間」
その生き物は俺の手のなかでジタバタと暴れだした。
離してみると、空中で1回転し、綺麗な着地を見せた。
思わず拍手してしまい、アリスも天使のような笑顔で拍手をしていた。
読んでくださりありがとうございます。
読んでくださる方がいれば続きを書きます。