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8. 何だこの人(2)


するとミキさんが顎に手を当てて考え込む。



「そうか、君は震源地がわかるわけではないのね。場所がきちんとわかれば、断層とか揺れ具合とか規模とか、ある程度AIで予測して想定できるんだけどな……」



場所がきちんとわかれば、か。わかるかな。俺にできるかな。確信なんて持てないけど、胸の奥から湧き上がるのは、後悔なんてしたくないという気持ち。俺の中の何かに突き動かされるように、手のひらをギュッと握りしめた。



「あの……俺、もう一回声聞いてきます! たぶん……いや、よくわかんないけど、一番大きな声が聞こえるところが震源地になるんじゃないかと……。その場所を探してみます」


「わかったわ。それなら少し待って」



ミキさんはどこかに電話すると、「行きましょう」と俺を元いた交差点まで連れて行ってくれた。



「この辺り?」


「はい。ここから100メートルぐらい向こうに行くと声は小さくなります。だから進むなら反対側かなと……思うんですけど……」


「そう」



交差点に着いて数分後、警察官が数人到着する。



「この子の半径5メートルだけでいいから、調査しやすいように規制をかけてあげて」



ミキさんの指示で警察官が動き、俺が声を聞きたい辺りは人も車も来なくなった。


なんか大事(おおごと)になってるけど……俺、大丈夫なのか? これで震源地がわからないなんてことになったら……。不安でちょっと足が震える。


するとポンッとミキさんの手が肩に乗る。



「……あぁ、大丈夫よ。責任は私が取るから」


「えっ?」


「あなたは思うままにやってご覧なさい」



そう言ってミキさんはニコッと笑う。


……ミキさんって何でもお見通しだな。経験の差か? さすが大人って感じだ。


何はともあれミキさんのおかげで肩の力が少し抜けた。



「はい」



俺は早速左耳を塞ぐ。



「ウッ……」



……が、すぐに塞ぐ手を離した。



「どうしたの? 大丈夫?」


「……はい」



あまりの声のデカさにガツンと頭を叩かれたような気分だった。これをこの一帯で聞いて、一番声の大きい場所を探す。正直言って耳か頭がどうにかなりそうだが、道路に規制までかけてくれたんだ。ちょっと……いやだいぶビビる気持ちがないわけでもないがやるしかない。


100メートルほど歩いて再び左耳を防ぐ。先程より声が大きくなったことはわかったものの、その分ダメージも大きい。……キツいな。



「ゼンくん? やっぱり無理してない?」


「あ……いや……」



そう答えたが、かなり頭が痛い。その後同じことを5回繰り返したあとには、気分が悪くなってその場にしゃがみ込んだ。



「ゼンくん、どうしたの?」


「す……すみません……ちょっと……」



ミキさんは俺の肩に手をポンッと乗せると、うーん……と迷った様子を見せて俺に告げる。



「それって、軽く耳を塞ぐくらいじゃ声は聞こえないものなの?」


「えっ……?」


「しっかり塞ぐと大きな声が聞こえるなら、耳をちょっと塞ぐようにすれば……もしかしたら程よく聞こえるかなって思ったのよ」



……ちょっと塞ぐ? やったことはない。試しにやってみると――



「あっ、声が小さくなった」


「そのまま調査してみたらどう?」


「やってみます!」



自分の能力なのに応用を考えないあたりは俺らしいな……と残念な感心をしてる場合ではない。これだけ声が大きければ、多少小さくなっても聞き逃すことはない。耳を塞ぎすぎずに、声が一番大きく聞こえるところに徐々に向かっていくんだ。俺がやらないとミキさんに迷惑がかかるってことだから、できることをやるんだ。



「よし……やってやるぜ。待ってろよ震源地」



と、ついには震源地に話しかける俺。本当にカノンちゃんに話しかけるトシと変わらないな。


それにしてもミキさんって、よく俺の考えてることがわかるな。……本当に経験の差か?



その後、街中の交差点から駅構内、さらに駅を超えた先に調査が進み、2時間ほどが経過。最終的には駅から2キロメートルほど離れた場所にある駅職員しか立ち入れない列車格納庫辺りが一番声の大きく聞こえる地点と判断。


ようやく見つけ出せた震源地にホッとして、気が付けばこめかみを伝っていた汗を拭った。



「たぶんこの辺りかと……」


「そう、お疲れ様。……マコちゃん、聞こえる? 今、駅から南に進んだ列車格納庫にいるんだけど――」



ミキさんがマコさんと何か話している様子なので、ここへ来て試しに左耳を完全に塞いで声を聞いてみようと思った。


そしてそれが大きな間違いだった。



「……えっ!? ゼンくん!?」



遠くでミキさんの声が聞こえた気がして、俺の記憶はそこでプツリと途切れた。頭に響いてきたあまりの声の大きさに、どうやら俺は一瞬でぶっ倒れたらしい。


……あー、情けない。聞かなきゃよかった。ほんっと、このスペスキいらねぇ。


でも病院で目覚めた時、真っ先に見えたのはミキさんが優しく微笑んでる顔だった。



「よくやったわね、ゼンくん」



こう言われたら、情けなさとか後悔とかスペスキがどうとか全部どうでもよくなって、ホッとして力が抜けた。



「ありがとう……ございます……っ……」



儚くて小さいものではあるが、これが達成感というものなのかもしれない。


知らなかった。頑張ったことが認められると、涙が出るものなんだな。


ミキさんの前で恥ずかしいけど、俺は堪えられずにメソメソ泣いた。



結局そのすぐ後にマコさんが予知し、その3日後、おおよそ列車格納庫付近を震源とするレベルEの地震が起きた。


予め一帯には予想震度が提示されて注意喚起や避難が促されたことで、大きな被害や怪我人もなく済んだらしい。


そしてこの件に関してL-SAMO気象調査局地殻調査部の力が大きく働いたと世間で大きく報道された。


それが妙に誇らしかった。


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