1. 成人式(1)
「あーあ、ついに俺たちも大人になるのか。もう下手に悪いことできなくなるな」
そう言ってニシシと笑うのは近所に住むトシ。幼友達で、大人を迎える今日までなぜ一緒にいるのかわからないほど性格が正反対の人物だ。
トシはとことん明るい性格で、根暗な俺とは大違い。人懐っこくてポジティブなのはいっそ清々しいほどだが、子供の頃からいたずら好きで、よく道連れにされて大迷惑を被っている。
「いや、大人じゃなくても悪いことはダメだろ」
「何だよ一人だけいい子ぶっちゃって。ゼンだって一緒に保育所の先生の顔におならを放った仲だろ」
どんな仲だよ。大体、俺はトシに付き合わされて巻き添えを食ってるのがほとんどなんだ。……おならは確かに放ったけど。
ほかにも女子のパンツの色当てゲームをしただの、先生に浣腸しただの、懐かしくもくだらない話をしながら成人式が行われる会場に近づくと、入場ゲートが目に入った。
「へーえー……案外普通っぽいのな、特殊能力持ち」
入口そばでボディーガードと思われるゴツい二人に囲まれた真ん中に立っている男性。確かにトシの言うとおり普通の男性という感じだが、たぶん『そう』なのだろう。L-SAMO(特殊能力管理機構)の制服を着ているからわかる。
この世界の0.1%の人間に与えられるという、生まれながらに有する特殊能力持ちということだ。
年度内に18歳になる者が集められて行われる成人式の会場入口では、参加者が二手に分けられる。それは特殊付与能力のある者とない者。
付与能力のない者は式典に参加して偉い人の話を聞いて「成人おめでとう」と言われて終了。
対して付与能力のある者はお告げみたいなのを聞いて、その能力がその場で授けられるらしい。『らしい』というのは俺の周りにいるのは『ない方』の部類ばかりで、噂でしか聞いたことがないからだ。
そしてこの珍しさから、成人式会場ではたびたび騒動になるのが常だという。
「なぁおっさん、俺のことちゃんと見たのかよ」
案の定、目の前でもその騒動が起きる。入場ゲートで判別される付与能力の有無。それが不服でL-SAMOの職員に食ってかかるヤツが出てくるのだ。
「ええ、視ましたよ」
「嘘だ! 俺は誰よりも優秀なんだ! 特殊能力を与えられるに決まってる!」
「そうは言われましても、あなたにはございません」
「お前本当に見えてんのかよ! 偽物だろ!」
「……」
「おいテメェ、もう一回しっかり見ろよ! 絶対間違えてるって! おいコラ!」
ワーワーギャーギャー大騒ぎ。こうしてボディーガードの出番となるのだ。
「騒がしいやつ。そんなにスペスキなんてほしいものかねぇ……」
連行されてもなお「放せコノヤロー」なんて騒いでいる男を見やって冷ややかな溜息をつくと、トシは目を輝かせて無邪気に笑う。
「もらえたら楽しそうじゃねぇ?」
そうだよな。コイツはそういうやつだ。
「……トシはどこまでも楽しそうで何よりだな」
「おい、バカにしただろ」
「うん」
「おーいー」
俺は平坦な毎日の方が楽でいいからスペスキなんて欲しいとは思わない。勉強もスポーツも身長も体重も顔の作りも平凡な俺。特に何の意志も意欲もなく、ぼんやりした性格。無気力すぎて心にはぽっかりと穴が空いているような気がするが、それを特に埋めようとも思わない。だから変化なんていらない。
そんな俺は、当然『ない方』に分類されるのだろう。
そう思っていたのに――
「あぁ、君はこっちだね」
トシとしゃべりながら通過しようとしたゲートで、そう言ってL-SAMOの職員に俺は止められた。
「……はい?」
「だから、君はこっち」
俺に付与能力のある者が進むお告げコースへの入口を示しているのだが……不服だ。
「……は? あの、ちゃんと見てください」
「ええ、視ましたよ」
「う、嘘だ……俺は誰よりも平凡なんだ! 特殊能力なんて無いに決まってる!」
「そうは言われましても……」
「なぁ、ちゃんと見ろって! あんた絶対間違えてるって!」
「……」
「おい、よーーく俺を見ろ! 俺はアホみたいに平凡なんだーー!」
ワーワーギャーギャー大騒ぎ。こうしてボディーガードの出番。
「放せコノヤロー」と騒いだところで有無を言わさずお告げコースに運ばれた俺は、何が何だかわからないまま講堂へ連れて行かれたのだった。
……え?
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