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大食い

 迷宮から最寄りの街でギルドに迷宮の損壊を報告して、新しい剣を買った。

 街から出る前に店でご飯を食べることになった。

「モータウロスステーキ大、コケッコのから揚げ定食、ピグピグ丼大盛り、それから…」

「どんだけ頼むつもりなんですか!」

「だって迷宮で十分食べれなかったんだ、仕方ないでしょ」

 師匠が店員を呼んだかと思えば大量の注文を始めた。

 迷宮では干し肉や固く焼いたパンなどを持ち込む。とはいえ持ち運べる量にも限界はある。55層を往復するとなれば最低でも一か月はかかる。

 食糧がなくなれば魔物を食べる必要があるのだが、そんなに美味しくはない。

 そんな物を沢山食べることは難しい。

 迷宮を出た冒険者が地上に出るとハイになってすごい食べるのはよくあることだ。

 俺もその一人だが、流石にこれは頼みすぎでは…。

 

 皿が運ばれて、次から次へと師匠の口に入っていく。

 周りの人たちもその光景を面白そうに見守っていた。

「師匠、これから向かう東の国ってどこですか?」

「シュレイド帝国の隣の国、マーレヴィア王国だよ。その中でも港町のアクアリアに行く」

「じゃあ帝国経由で向かう感じですか?」

「いや、帝国は通らず、この国から直接船で向かうつもりだよ」

 船で向かうとかなり早く着くことができるが、結構お金がかかる。理由としては海に生息する魔物から見つからないよう、認識阻害系のスキルや魔道具を使い続けないといけないので、かなり人手がいるからだ。

 やはり強い冒険者は稼いでいるのだろう。羨ましいものだ。


 最後の料理を食べ終わり、師匠は満足そうな顔を見せた。

 だが、会計をしようと財布を取り出した師匠の顔が固まる。

「お金ないんだった」

「はあ!?」

 持ってないの!?じゃあなんであんなに食ったんだよ!

 しょうがないので代わりに俺が払うことに。

「ってあんた、それが目的で協力するつもりだったんですか!?」

「そんな訳ないでしょ。本当に忘れてたんだって」

「この場は奢りますが、一緒にお金下ろしに行きますよ」

 今回は協力してくれることのお礼としよう。

 もう財布がだいぶ軽くなってしまった。装備が壊れたときに備えていたお金すらなくなった。

「いや、その、貯金もない…」

 はあ!?一文無しかよ!

「次から外食禁止ですからね!」

「そ、そんな。生きがいなのに…」

 悲しそうな顔をして同情を誘おうとしてくる。

 他人の金で食事するくらい切羽詰まっているのに何を言っているんだ。

 馬車の乗車賃とか宿代とかも払わせるつもりだったろ!

「船の代金も用意しないといけないんですから」

「わ、分かったよ…」

 この人と旅をして大丈夫だろうか。結構心配になってきた。


 国内にある港町ラーナクへ向かう道中の街から少し離れた森に来ていた。


 地面を蹴り、短剣を頭上から振り下ろす。

 師匠は最小限の動作で受け流す。

 すぐに師匠の脇腹にめがけて剣を振るうが防がれてしまう。

 その隙を狙って師匠が俺の胸目がけて剣で突こうとしてくる。

 体の向きを変え、避けたと思った後、横に薙ぎ払ってきた。

 剣を縦に構え、攻撃を受けるが、吹っ飛ばされ木にぶつかる。

 痛ってえ!

「避けとか防ぐのとかのセンスは悪くないね。剣の方も私との模擬戦で良くなると思う。問題なのは魔力が使えてないことだね」

「魔道具を使えってことですか?そんなお金ないですよ」

 戦闘に使えるような魔道具は一つ一つが高い上、消耗も早いと聞いたことがある。

「いやそうじゃない。魔力を体の一部に集めるんだよ」

 そんなことができるのか?魔力はスキルか魔道具に使うだけのものと思っていた。

「アクレット貸して」

 アクレットはコップ型で水分補給等に使われている。ボタンを押すと水が出る。

 リュックからアクレットを取り出して渡す。

「え?」

 アクレットから水は出ているにもかかわらず、ボタンに触れていない。

 水の量も減ったり増えたりしている。俺のアクレットは安物で量の調整はできなかったはず…。

「やってみて」

 返してもらったアクレットに力を込めてみるがまったく反応がない。

「魔道具使ってるときの魔力の流れを再現するんだよ」

「魔力の流れなんて一度も感じたことないですけど」

「なんとなく指先とか腕が痺れるような感じするでしょ?」

 全く分からない。

 ボタンを押してアクレットを起動してみるが何も感じない。

「たぶんスキルの副産物の違いだね」

「スキルの副産物?」

「スキルを補助するものがあるんだよ。例えば治療するときって他の人の体内の魔力まで操る必要があるから魔力に敏感な必要があるんだ」

「俺の場合は動体視力が逃げるのに必要で、結果的に攻撃を避けるのも得意ってことですか?」

「ありえるね。逃げるだけなら魔力に敏感になる必要がないから感知できないってことなんだと思う」

「じゃあ魔力を自在に使えるようにならないってことですか?」

「何かきっかけがあればできるかもしれない。移動中は暇だし、その間に色々試してみよう」

 つくづくスキルの理不尽さを実感する。強くなるのに有利なスキルもあるなんて…。

 その後一旦修行を終えて街に戻った。



「やっぱシック追い出したの後悔してる?」

 アルノがフォークを持っていた手を止める。

「はあ!?してるわけ…」

「だってここ最近宿でため息ついてること多いよ?」

 エリナに虚をつかれ、アルノは黙り込む。

「本当のこと話してよ。家族への仕送りは十分なんでしょ。聞いたよ、前と金額変わってないの」

「誰に聞いた?」

「去年帰省したときにアルノのお母さんにね」

 アルノとエリナは同じ村出身である。

「勝手な…。もうこれ以上の額は自分ために使ってくれって言われて増やしてないんだ」

「じゃあランクを早く上げたかったの?Sランクを目指していたとはいえ、別に今すぐってわけでもないって言ってたよね?」

「ああ。だから高ランクの依頼もできれば受けたい程度だった」

 試験の受験資格として一つ上のランクの依頼をこなす必要がある。しかし、生活するだけなら多少受け取る金額は減るが魔物の素材を売ればいい。

 迷宮で見つけた魔道具が高く売れることもある。依頼に固執する必要はない。

「じゃあなんであんなこと言ったの?」

「シックは俺たちとランク差が開くにつれて精神的に追い詰められてた。死にそうな顔してたんだ。それが耐えられなかったんだ」

「でも追い出す必要はなかったんじゃ…?」

「そうかもしれない。でもあのまま俺たちが一緒だとシックが自殺でもするんじゃないかって怖かったんだ。だから突き放してしまった」

 アルノが苦しそうな顔をした。

「追放したせいでシックが無茶をして死んでたらと思うと、間違ってたんじゃないかって、別の方法があったんじゃないかって…」

「確かに心配だよね…。でもシックのことだからきっと生きてるよ!」

「そうだな。ありがとう、エリナ。話したら楽になった」

 アルノの顔に少し明るさが戻った。


読んでくれている人がいるだけで励みになります。そろそろ忙しくなりそうですが、とりあえずこの週一のペースが途切れないように頑張ります。

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