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エカルシア迷宮

 曲がり角から何かがズルズルと地面を這って移動している音が聞こえる。

 音がなくなるのを待って角を曲がる。


 怖え!絶対あれ蛇の魔物だったと思う。見つかっていたら丸吞みされていたに違いない。

 なるべく音を立てないようにして、素早く進んでいく。

 兄と別れてこの迷宮に直行した。ギルドで迷宮の地図や魔物の情報を手に入れ、現在俺は42階層まで来ていた。

 

 獣の唸り声がする。

 狼に似た魔物に違いない。

 すぐに足を止めて、音が一切出ないように気を張る。心臓の音が耳を震わすような錯覚に陥る。

 唸り声が近づいてくる。

 この場から離れるべきか、それとも留まるべきか決断を迫られる。見つかれば走って逃げることとなり、その音に吸い寄せられるように他の魔物も集まってくるだろう。挟み撃ちになれば、危険性はかなり増す。できるだけ避けたいところだ。


 さっきよりも声が近くなった。


 完全にこっちに近いてきている。進みたい方向とは逆になるが動くしかない。

 音が出ない程度でなるべく早く移動する。

 まずい。魔物との距離が短くなってきている気がする。


 慌てて右の角を曲がる。そこには、青い目を光らせて地を這う蛇の魔物がいた。運の悪いことにこちらを見つめている。


 くそっ、見つかった。


 すぐに蛇の魔物が俺の方に向かって跳んでくる。

 音など気にする暇もなく、反対方向に走り出す。

 俺の足音に反応した先ほどの獣の魔物が吠える。情報通りなら仲間を呼んでいるのだろう。


 

 スキルのおかげで魔物との距離はすぐに離れるが、また別の魔物に気づかれるを繰り返して追われている状況が続く。

 迂回してたどり着いた下の層に続く階段まで来たがまだ背後には魔物がいる。なんなら時間が経つほど増えている。

 階段の高低差を見ると、足がすくみそうになるが、止まらずにそのまま飛び降りる。

 ドン、と地面に着地して再び走り出す。足が痺れたような感覚がしているが無視して走る。

 通路の先に獣の魔物が現れて、こちらに向かってくる。後ろからも少し遅れて魔物たちがついてきている。

 完全に挟まれた!

 それでも進まない訳にはいかず、そのまま魔物に向かって走る。

 一気に距離は縮まり、すぐ目の前まで迫る。そして、獣が地面を蹴る。

 俺は勢いそのままに足を前に出して、仰向けになりながら滑る。背中のリュックが地面をこすっているのが伝わってくる。

 俺の上を獣がスレスレで通り過ぎ、風が顔を撫でる。

 体勢を立て直し、すぐに走り出す。後ろで魔物同士がぶつかる音がして、魔物たちの唸り声が聞こえる。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 俺は崩れるようにその場に倒れ込む。

 もうしばらく動けねえ。魔力の使いすぎで頭も痛い。

 俺はついにボスの部屋の前にたどり着いていた。ここは他の魔物たちがボスを恐れて近寄ってこない。迷宮唯一の安全地帯といえる場所だ。

 追いかけられ続けて休む間もなかった。途中何度か危ないところもあったが、怪我もかすり傷程度でなんとかここまで来ることができた。

 達成感が半端ない。このボス部屋の扉を見た冒険者なんて低くてもAランクだろう。Eランクなんてもっての外。

 誰もができないと思うようなことをやる。これぞ、本当の冒険者だ!!

 今までに体験したことのないような高揚感に浸る。


 目を開けて、立ち上がる。

 迷宮で仮眠を取るときはいつも緊張感からかあまりよく眠れなかったが、今までにないくらい深く眠った。

 扉を見つめる。

 普通のボス攻略では、一度中に入るとボスを倒すまで出れない。そのため、自分よりもランクが2つくらい下のボスと戦うのが当たり前とされている。ここのボスはAランクと言われているため、ほとんどの冒険者は立ち入ろうともしない。

 だがそれは戦えば、の話。ボスは冒険者が部屋に入り、扉が閉まったあとに魔法陣から現れる。

 これを利用する。扉が閉まる前に部屋から出れば、戦わなくていい。閉まるまでの時間は非常に短いので普通ならできないし、試そうともしないだろう。ある意味俺にしかできない。

 出入りを繰り返して、剣を見つける。


 部屋に入る前にまず、扉に物を挟んでストッパーにできるか試してみる。それさえできれば、走る必要もない。

 近くにある大きめの石をいくつか拾う。

 扉に近づくとゆっくりと自動的に開いていく。完全に開いた扉の一つに持っている石すべてを置いてみる。扉から距離をおくと両方の扉が動き出した。どちらも同じ速さで動いている。

だめか。これくらいの重さでは全然足りないように思える。


 その後も何度か試したが、現状では扉を止めることはできなそうだ。残念だ。まあ、それができるならとっくに広まっていてもおかしくないか。

 次に通れるギリギリまで閉まる時間をオルロという魔道具で測った。31秒だった。オルロに約半分の15秒をセットする。

 最後に扉の外側から中を見てみる。額につけた光を出す魔道具で照らすが、奥までは光が届かず見えない。

 準備は整った。今からこの中に入ると思うと緊張してくる。失敗して扉の外に出られなければ死。怖くて当然だ。深呼吸をして心を落ち着かせる。

 扉に再び近づいて、開ききるのを待つ。

 完全に開くと同時にオルロを起動して駆け出した。

 予想では扉から真っ直ぐ進んだ先にあると考えていたので、直進する。

 進んでいくと石でできた台が見えてきた。

 あれか!

 台に近づいたが剣は見当たらない。手で触れる距離まで来たが、上には何もないように見える。台をべたべた触ってみたものの、特に何も起こらない。

 これじゃないのか?あるいは…。

 オルロがベルのような音を出して鳴る。

 急いで扉に引き返す。


 難なく外に出ることができた。

 扉から距離をとって壁にもたれる。呼吸を整えるために一旦休憩する。

 噂の台座はさっき見たものだったのだろうか。まさかここまで来て、ただの噂でしたとか?だとしたらショックすぎる。

 ちらっと扉の方を見ると出たときのままで閉まっていなかった。さっきまでは閉まったはずの距離にもかかわらず。

 さらに扉からは若干赤い光が漏れている。

「は!?なんで!?」

 閉まってない?この光はまさか魔方陣の光?

 光が消えた途端、部屋から迷宮全体を震わすような咆哮が聞こえた。

 手の震えが止まらない。まさかボスが!?さっきまで扉を開け閉めしても一切出てこなかったじゃないか!なぜ今!?

 一般に知られるボスの出現条件が違ったのか?

 とにかくボスが出てくる前にあの扉を閉めないと!いや、近づいたらもっと開いてしまうのか?それに俺の力じゃあの扉を閉じるのは無理だ。だとすれば今は逃げるしかない!

 近くに置いていた荷物を拾いあげ、上の階へと走り出した。


誤字脱字があれば教えてください。

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