小さな希望
この人は誰だ?それよりも助けを呼ばないと。
「僕のことよりも先に助けを呼んでください。こんなところにいてはあなたも危ない」
「私なら心配いらないし、このあたりにはもう脅威はないよ」
僕を上から覗く女性は自信たっぷりに言い放った。
脅威はない?あの魔族は脅威でしかないだろ!いや、まさか。
「まさかあなた、あの魔族を倒したんですか?」
「やっぱり魔族だったんだ。でも倒したわけじゃないよ。ここに来たときには既に君以外誰もいなかったんだ」
誰もいない!?皆連れ去られてしまったのか!あの魔族はこの村の人をさらうのが目的だったのか。
助けを呼びに行かずに攻撃するべきだったか?いや無理だ。さっきみたいに潰されるのがオチだ。
「歩いていたら、大きな音がして急いで来たんだけど間に合わなかったみたいだね。君の命だけは辛うじて助けられたけど」
そうだ、なぜ僕は生きている?それにさっきまで動かなかった体が何の痛みもなく動く。この人がスキルで治してくれたのか。
「助けていただきありがとうございました。何かお礼をさせてください」
「いらないよ。村がこんな状態じゃそれどころでもないでしょ」
確かに。これからどうすればいいんだろう。他の人の家で寝ることもできるし、食べ物もかき集めれば生活できないこともない。
ただ村の皆を取り戻すには領主様のところへ行くか冒険者ギルドに依頼を出すかして魔族を討伐してもらうしかない。
「そうですね。すいません、何もできなくて」
「気にすんな!じゃあ私はこれで」
そう言って歩いていく彼女に再び感謝を伝えた。
彼女がいなくなり、静寂が訪れる。
この村には誰もいなくなっていた。
変わり果ててしまった村を見てより現実味を帯びる。死体は一切なく、誰も殺されていないようだった。とはいえ、用済みとなれば殺されてしまうのは間違いない。急がなければ。
とりあえず領主様がいるところへ向かった。
「無理だな。遠くからわざわざ来てもらって悪いが」
個室にて兵士からそう告げられた。
またか。
「いや、無理って。国民を守るのが軍ですよね!」
「軍としては何もできない」
「理由を説明してください!」
「まず、そのリアムという魔族が住む森はシュレイド帝国の領土を通らねばならない。そんなことを帝国は許すはずもない。帝国に救い出してもらうことも期待できない。何の得もないからな」
シエルト村を襲った魔族の特徴からリアムという魔族ではないかと冒険者ギルドから教えてもらっていた。
「次に、救い出す人数だ。これがまだ数人程度ならなんとかなるが30人を超えるとなるとばれずに助けるのは不可能だ。そうなれば救い出せるのは一握りだろう。最悪助けに行った者たちまでも死んでしまう」
同じ理由をギルドでも言われた。ただ大金を出してAやSランク冒険者を多く集めればいけるかもしれないとのことだったが、提示された金額は借金すらできない金額だった。しかもその金額を集めたところで集まるかも怪しいと言われた。
「最後に、村を助ける価値がない。リスクや費用に見合う対価が得られない。この国のお偉方は話し合いすらしないだろうな」
領主様のところへ行ったときもすぐに断られてしまったが恐らくこの理由や最初の理由だろう。
「国としての言い分は分かりましたが、簡単に諦める訳にはいかないんです。なんとかしてもらえませんか」
頭を机に付けてお願いする。
領主様にも冒険者ギルドにも必死に頼んだ。どれだけ断られようとも懇願して何とか領主様から紹介状を書いてもらったんだ。これが最後の望みなんだ。
「頭をいくら下げてもらっても国としてできることはあなたの税金を免除する程度だ。それ以外には何もない。だが、俺個人として協力させてもらう。できるのは情報提供と協力できそうな人がいたら紹介するくらいだが、それでいいなら。仕事柄色々と情報は入ってくるし、ツテもある」
「ありがとうございます!お願いします」
諦める他ないと散々言われてきた僕だったがようやく糸のように細い希望をなんとか掴むことができた。
このガードナーさんはシエルト村の近くに故郷があり同情してしまい、協力してくれるそうだ。さらに住む場所が無くなってしまった僕を家に王都にいた数日の間泊めてくれた上、彼の両親に寝る場所の用意をお願いする手紙も渡してくれた。
とても借りを返せそうになく、断りたいところだったが有り金も底を尽きかけていたため、ありがたく受け取った。
本当に感謝しかない。どうにかして恩返しをすることを決意して王都を去った。
去る前に国の調査が村に入ることが決まったことを教えてくれた。ただ、その前に盗賊が隠している金を盗む可能性があるので、なるべく早めに回収しておくよう言われた。
庭に埋めていた金を全て確保するためにシエルト村へ向かった。
「そっか、皆まだ生きてるんだ」
「まあその可能性が高いだけだが」
家族や村の皆が生きている可能性が高いということが知れてよかった。
ただ皆を救い出したいのは山々だが、流石に俺たちだけだと…。
「そうだ、迷宮って知ってるよな」
また真面目な顔に戻って聞いてきた。
「行ったこともあるし、当然知ってる」
迷宮とは地下に広がる構造物で、魔物が住んでいる。冒険者たちは魔物の体の一部や魔道具を求めて、迷宮に潜る。
「ガードナーさんから聞いたんだが、フレアルシオンという一撃で数千の魔族を葬ったと言われている剣がこの国の迷宮にあるみたいなんだ」
「フレアルシオン!勇者が使っていたと言われている伝説の剣じゃないか!」
今もその剣が実在していたなんて。
「その剣は所有者が死ぬと迷宮に戻るらしく、所有者が最近亡くなったばかりなんだと」
なるほど。リアムを倒すためにその剣を手に入れてきてほしいということか。
「その迷宮の名前は?」
「エカルシア迷宮」
エカルシア迷宮!55階層もある、この国最難関の迷宮じゃないか!
「その剣はどこにあるか分かる?」
「ボスの部屋。一番下の層って言ってたかな。行けそうか?」
行ける訳ない!死ぬわ!ボスにたどり着く前に死ぬって。あそこは上の層ならEランクの俺でも行けるみたいだが、下の方なんてAランクでも命が危ないところだぞ。
ましてやボスに勝つなんてどんな奇跡が起これば…。
いや、待てよ。
「その剣はボスが持っているという訳ではない?」
「ああ。ボスの部屋の奥に台座があってその上にあるらしい」
いけるかもしれない。確かに戦闘になれば、真ん中の方でさえ死を覚悟する必要がある。だが、剣を手に入れるだけなら戦う必要はない。
俺にはスキルがある。試験での体力測定で走りだけは、Sランク冒険者の上位層をも上回るレベルだった。もちろん俺の魔力も限りがあるからずっと逃げ続ける訳にもいかないが。
それに冒険者がいち早く下の階層に向うためのショートカットもあると聞く。
ボス部屋の仕組みも理解している。利用すれば恐らくいける。
今まで魔道具やら魔物の素材を集めることばかりだったし、パーティでの行動が当たり前だったから考えもしなかった。
「行けると思う」
「ほ、本当か!まさかシックをこんなに頼もしいと思える日が来るなんてな。強くなったんだな」
残念ながら強くなってはない。逃げるだけしか取り柄がないのは今も昔も変わらずじまいだ。
それでもパーティでは活躍できなかった俺が役に立てる。そんな誰かに必要とされていることが嬉しかった。
誤字脱字があれば教えていただけると助かります。




