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出てこない王女、逃げるシック

 翌日。

 王女様は寝室に鍵をかけ、こもっていた。

「カンベア様、開けてください」

「…嫌」

「これはあなた様にとって必要なことなのです」

「そんなこと頼んでないでしょう。勝手に押し付けないで!」

「こっちはあんたのためにわざわざ来てやったんだ。うじうじ言ってねえで出てこい!」

「ドルク!言い方!最悪首飛ばされるぞ!今すぐ謝れ!」

「はあ!?何が悪いってんだ?」

「この場から去りなさい、部屋の前でサルのように騒がれると迷惑です」

「バカにしてるのはよーく分かった。出てこねえってんなら、この扉ぶち壊して部屋から引きずり出してやる!」

 扉に向かって行こうとするドルクをその場にいた全員で必死に止める。

「お兄、何考えてるの!」

「今日はもう諦めて帰ろう」

「…ったく、分かった」


 王女の寝室から離れ、城の出口に向かって歩いていた。

「イメイさん、本当にすいませんでした」

「いえ、こちらこそ、皆様に不快な思いをさせてしまいました」

 イメイさんが申し訳なさそうは表情を見せる。

「カンベア様は本来優しい方なのです」

「優しいやつがあんなこと言うと思えねえけどな」

「あえて嫌われようとしているのです。ぜひ皆様にはそうなられた理由を知っていただきたい。お話ししてもよろしいですか?」

「ええ、かまいませんよ」

「カンベア様が学校に通われていた頃、美しさ、明晰な頭脳、誰にでも優しく接する姿勢から男女問わず多くの人から好かれていました。そんな人に自分のことを意識してもらおうとちょっかいを出そうと思う人がいてもなんら不思議ではありませんでした。」

 幼い男の子ならよくある話だ。不器用だと思うけど、分からなくもない。

「カンベア様に対してブスと言ったり、カンベア様の物を勝手に奪ったりしていました。私や他の女子たちが間に入ることでそこまで大ごとになることはありませんでした。

しかし、思うようにいかないと感じたその少年は魔が差して少し痛い思いをさせてやろうと考えました。

彼が持っていた指が針のように鋭くなるスキルでカンベア様の手に少しですが、指を刺しました。

その瞬間、恐怖を感じたカンベア様がスキルを発動させてしまったのでした。幸い、魔物はすぐに消え、相手の少年の腕に傷を負わせた程度で済みました。

ただ、自分のせいで人を傷つけてしまった事実にカンベア様はショックを受けました。

それからというもの、人と関わるのを避けるようになってしまい、学校も辞めてしまいました」

「じゃあ魔物を使って人殺しをしたってのは?」

「カンベア様は一度もそんなことしていません。怪我を負わせたことや人とあまり関わらなくなってしまったことから噂に尾ひれがついてしまったようです」

 傷つけたくないから遠ざけるか…。


 城を出てもまだお昼にもなっていなかった。

 依頼以外にやることもないので宿に戻ってゆっくりしようかと考えていた。

「折角時間あるんだし、観光しようよ」

 エマネが提案する。

「いいな、行こうぜ」

「シックさん、どこかいいところある?」

 これまでいち早く村の皆を助けようと移動を優先した旅だった。せめて今日くらいは皆に付き合うべきだろう。


 王都の中心から少し離れた場所までやってきた。

「ここは?」

「エルッカ大聖堂。魔王を倒した勇者アークエリオンがここで魔王を倒すと誓った場所らしい。冒険者の願いが叶うと言われているんだ」

 ここの地下には敵が王都へ侵入するのを防ぐ結界を張る魔道具がある。勇者が作ったものらしく、魔王の攻撃でもびくともしなかったと言われている。定期的にメンテナンスをしていて今でも当時の状態を維持している。

 中に入ると勇者の絵が描かれた大きなステンドグラスが目に入った。太陽の光に照らされて輝いていた。

「綺麗…」

 エマネがうっとりとした目で眺めていた。

 ステンドグラスの前には冒険者たちが手を合わせ、願いごとをしているようだった。

 その中には見覚えのある冒険者がいた。

 マジか。見つからないうちに外に逃げ…。

 その冒険者が振り返り、目が合う。

 間違いない。元パーティメンバーのエリナだ。

「…シック?シックだよね?」

 俺に気づいた途端、顔がパッと明るくなり、駆け足でこちらに向かってくる。

「二人でずっと心配してたんだよ?ねえ、式典のときに戦ってたのってやっぱりシックだよね?強くなっててビックリしたよ。一緒にいるのは今のパーティの人?」

「そう」

「そうなんだ。シックは人と仲良くなるの苦手でしょ?だから、一人で心細くなってないかって、思ってたけど、安心したよ。そうだ、私たちの協力断ったでしょ。ガードナーさんから聞いたよ?急にやっぱいいって言われたって。どうして断ったの?」

 思い出した、この感覚。口を開けばエリナはいつも俺の心配ばかりだった。

「そういうとこだよ」

「どういうこと?ちゃんと教えてよ」

「なんでいつも心配されなきゃなんないんだよ。俺が弱いから?確かに俺は弱い。王族の護衛を任されるくらいの実力があるやつから見ればそうだろうな」

「そんなことない。シックは強いよ」

「だからそれだよ。全部上から目線なんだよ。俺は二人と肩を並べていたつもりだった。でも気づけば俺だけが遅れて、追いつけなくて悔しくて、なのにエリナはそれでも大丈夫って、頑張ろうって。そうじゃないんだよ。そうじゃない」

「そんなつもりじゃ…」

「じゃあどういうつもりなんだ。強いやつをいつも心配するか?エリナがアルノの心配をしているとこなんて見たことない。アルノはエリナと同じかそれ以上の強さだろ。で、俺の心配はする。ってことは心配してあげないといけないくらい弱いってことだろ」

「…言いたいことは分かったけど、協力を断った理由にはなってない」

「俺の中では理由になってる。別に分からなくていい」

「私への不満があるのは分かった…。じゃあアルノはなんでダメなの?」

「同じことだ。もういい、帰る」

 そのまま走って宿に帰った。


 宿に遅れて帰ってきたドルクが話しかけてきた。

「泣いてたぞ、あいつ。いいのか?」

「俺、何してんだろ」

「こっちが聞きてえよ」

「俺が弱いだけで、くだらないプライドで、心配してくれた人を傷つけて…。家族を助けるのに少しでも戦力がほしいのに、自分勝手で…。俺ってバカだ」

「そうだな」

「どうすればいいんだろ…。このクソみたいなプライドってどうすれば消える?」

「お前が冒険者に本気でいる限り消えねえだろ。でもだからこそ、狂ったようにずっと修行してられたんだろ。自分のダメなとこ、ダメだなって思ってただ進むしかねえだろ。結局ダメなとこ含めて自分なんだ」

「そっか。ずっとこんなゴミみたいな自分を自分じゃないって認めたくなくて逃げようとしてたんだな」

「まあ、そういうこった」

「ドルク、俺を殴ってくれ。戒めとして」

「イマシメ?殴ってほしいなら、泣かせたやつに殴られろ。意味もなく殴る趣味はねえ」

「そりゃ、そうか。エリナはもう帰ったのか?」

「ああ。エマネとカミラさんで慰めた後、帰った」

「宿はどこか聞いてないか?」

「聞いてねえ。せいぜい頑張って探して、頭擦りつけて謝れ」

「もちろんそうする」

 もう夜も遅くなり、歩いている人もほとんどいないので、明日仕事が終わり次第探すことにした。

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