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エルシド王国第一王女 カンベア・エルシド

 王女様の前に現れた熊の魔物が赤い爪の生えた手で玉を弾き飛ばす。

 どこから現れたんだ?あの魔物は?

 魔物が怒りのこもった咆哮を発する。

 予想外の事態に民衆は悲鳴を上げながら広場から逃げ始める。

 熊の魔物が広場へと飛び降り、民衆を追いかけるように走り出す。

 このままだと死者が出る。助けにいかないと。

 魔物へと向かおうとするが、逃げ惑う人たちとぶつかってなかなか進めない。

 魔物と逃げ遅れた人々に突っ込む寸前、厚い石の壁が現れ魔物が衝突し、勢いが止まった。

 そこにはドルクがいた。

「危ねえところだったぜ」

 頭に大きな衝撃が加わったせいか、魔物がふらついている。

 しかし、それでも魔物は民衆に向かっていこうとする。

 させるか!

 ようやく人混みから抜け出せた俺は、一瞬で魔物に近づき、頭へ回し蹴りを入れる。

 首をへし折るつもりで放った蹴りだったが、魔物を少し後退させる程度だった。

 想像以上の固さだ。

 俺の蹴りから魔物が飛んでくる位置を読んで動いていた師匠が倒れた魔物の首に剣を振り下ろす。

 かなり深くまで傷をつけたものの、切断するには至らない。

 だが、これでもう倒せそうだ。

 魔物が反撃しようと、手を師匠の胴へ突き出す。

 師匠はすぐに後ろへ下がり避ける。

 ドルクとエマネが並走して魔物へ向かう。

 「お兄、斧ちょうだい!」

 エマネの要求に、ドルクが大きな斧を渡す。

 ドルクが大きな岩を魔物の上に出し、魔物の動きを封じる。

 すかさずエマネが斧を首目掛けて振り下ろす。

 しかし、斧が頭に届く前に魔物が突如として魔力の光となって消えた。

「え?」

 エマネが困惑した声を上げる。

「あの魔物は一体?」

「さあ?死体も見当たらないし」

「ただ原因があるとすればあの王女だろ。魔物から感じた魔力は王女と同じだったからな」


 広場を離れ、ガードナーさんの家に寄った。

「やっぱり今回のパーティの協力は断ってください」

「どうしてだ?こんな条件のいい冒険者なかなかいないぞ?」

 急に意見を変えた俺のことを当然不思議に思ったようだった。

 ドルクやエマネも理解が追いついていない様子だった。

「シック、その冒険者がパーティを組んでた人だったんでしょ?」

 こういうとき妙にするどいんだよな師匠は。

「…その通りです。自分から辞めておいて今更助けてもらうなんてできません」

「は!?そんな意地張ってる場合かよ?家族の命がかかってんだろ?」

 ドルクが俺の発言に突っかかる。

「分かってる…。でもこれは譲れない。その代わり他の冒険者を探す」

 実力も功績も負けている俺が心まで負けるわけにはいかないんだ。それだけは嫌だ。

「そうかよ。見つけられるってんなら、別に構わねえけど。もしできなかったらお前の意地は無視するからな」

「分かった」


 宿に戻るとロビーで女性に呼び止められた。

「あなた方が先程広場で魔物と戦っていた冒険者ですよね?」

「ええ、そうですが…、何かご用でも?」

 師匠が質問を返す。

「その実力を見込んで、とある魔物の討伐をぜひ依頼したいのです」

「そもそもあなたは一体…?」

 二人に出くわす前にさっさと首都から離れたいのに。こんなときに限って依頼が来るとは。

「ここでは言えません。どこか別の場所へ移動しませんか?」

 宿の部屋の中で話すことにした。

「私はエルシド王国第一王女カンベア・エルシド様にお仕えしている侍女のイメイと申します」

「ええ!?じゃあ今日の式典の王女様の!?」

 エマネが驚いて目を見開く。

「はい」

「なぜ我々に依頼するのでしょうか?護衛をしていた冒険者に依頼すれば確実では?」

 今護衛の仕事をしているならついでに依頼すればよさそうなものだが…。

「もちろん護衛の依頼とともに頼みましたが、次の依頼があると言われて断られてしまいました」

「それは…」

「その依頼私たちが受けるよ。それでいいよね皆?」

 俺が言いかけたところで師匠が遮る。

「俺はかまわねえぜ」

「受けてみたい!」

「いや、俺は…」

「はい、多数決で決定ね」

 再び遮られる。

「でも…」

「決定ね」

 こうなってしまったら師匠は何を言っても聞かない。諦めてさっさと依頼を終わらせるしかない。

「討伐する魔物ってどんなやつだ?」

「今日皆さんが戦ったあの魔物です」

「そもそもあれは一体何なの?」

「あれはカンベア様のスキルによって召喚された魔物です。カンベア様が強い恐怖や危険を感じ取ったときに現れてしまうのです」

 スキルは自分たちにとって役に立つばかりでもない。稀にスキルのせいで生きづらさを感じる人もいる。恐らく王女様もそのうちの一人だろう。

「スキルの鑑定士によれば、カンベア様が呼び出せるのはあの一体だけ。あの魔物が死ぬと二度と呼び出せなくなるそうです」

「今回のように誰かを傷つけるから殺してほしいということですか?」

「はい」

 その後、集合時間や報酬について話し、イメイさんは帰っていった。

 

 翌日、城へ向かった。

 衛兵に冒険者証を見せ、イメイさんからの依頼で来たと告げると少しの間待たされた。

 イメイさんがやって来て城の中を案内された。

 たどり着いた先には色とりどりの花や立派な噴水のある中庭があった。中央には椅子と机、それを屋根が覆った休憩スペースのような場所があり、そこに一人の女性が座っていた。

 歩いていくと、その女性が読んでいた本を置きこちらに目をやった。

「カンベア様、今戻りました」

「イメイ、そこの者たちは?」

「昨日、広場で市民を守った冒険者でございます」

「そうか。怪我人は出なかったのはお前たちのおかげだ。礼を言う」

「ん?『礼を言う』って言ったのになんでその後に何も言わねえんだ?」

 ドルクが不思議そうな顔をする。

 やめてくれよ…。なんで自分から恥をさらすようなことを言い始めるんだこのバカは。

「『礼を言う』ってことが『ありがとう』って意味だっつーの。これだから田舎もんは…」

「は?喧嘩売ってんのか?」

 ドルクが俺のことを睨み付けてくる。

「お兄止めて!恥ずかしいから!」

 エマネがドルクの前に出て怒る。

「三人とも静かに。王女様の前だよ。王女様、失礼いたしました」

 ついいつもの癖で余計なことを言ってしまった。

「用が済んだならさっさと帰るがよい。庶民にいちいち付き合うほど暇ではない」

「なんだと?こっちは困ってるって聞いたから来てやったんだぞ」

 言うなって言われてただろ、それ!何勝手に喋ってんだよ!

「なんのことだ?」

 イメイさんから何も聞かされていない王女様は疑問を口にする。

「皆様、お願いします!」

 イメイさんが合図をした後、師匠はすぐに王女様に接近し、首に触れる。

 すぐに熊の魔物が現れた。

 王女様は魔物が視界に入った瞬間に気絶した。

 恐らく魔物がトラウマになっているのだろう。

 俺たちはすぐに構え戦おうとしたが、魔物は動く気配がなく、その違和感に手を止めた。

 なぜ師匠に襲い掛かろうとしない?

 動いたかと思えば、丸くなってひなたぼっこを始めた。

 何が起きているんだ?よく分からないけどチャンスかもしれない。

 魔物へ走り出し、蹴りを繰り出そうとする。

「お待ちください!」

 イメイさんの声に足を止める。

「こんなことは初めてです!エレイン様に何をしたんですか?」

「このスキルは王女様の感情が魔物に伝わってそうだなと思って、恐怖を与えないうちに魔力を操ってスキルを発動させてみたらこうなったんだよね」

「ではカンベア様のスキルは制御可能なのでしょうか?」

「私がスキルの使い方を教えればできると思うよ」

「…そうなのですね。実は魔物を殺したくはなかったのです。たとえ魔物であってもカンベア様が持つ唯一のスキルなのですから」

 イメイさんが嬉しそうな表情を見せる。

「では明日以降カンベア様にご教授お願い致します。」

「分かった。また来るよ」

 こうして魔物討伐の依頼からスキルの使い方を教える依頼に変わったのだった。

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