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トルミの正体

「師匠、『空の鳥籠』の三人ってあのアークエリオンですよね?」

「そうだよ」

 歴史的な功績を挙げた冒険者に贈られる称号、アークエリオン。師匠がそんな人たちと旅をしていたなんて。

「なんで今は一緒じゃないの?」

「三人共引退してしまったんだよ。カティア先生は冒険者の育成、キローは体の衰え、メルグはレストランの店長、といった理由でね」

「ぜひ会って…」

「あ、お兄!こんなところで寝てると風邪ひくよ」

 ドルクが少し離れたところに座っていびきをかいていた。

「エマネ…、愛してる。大切な妹は俺が守るんだ…」

「ちょっ、お兄!寝言で変なこと言わないで!」

 エマネがドルクの頬をつねる。

「痛っ!」

 ドルクってやっぱシスコンだったんだな…。


「なんで二人とも何も持ってないんだ?これから旅に行くんだぞ?」

 ドルクとエマネは手ぶらで旅に出ようとしていた。

「そういえば教えてなかったな。俺のスキルは触れたものを出し入れできる。生き物とか大きすぎるのは無理だけどな。お前らの荷物も仕舞ってやるよ」

 なんて便利なスキルなんだ…。

 考えてみてほしい。当然移動は楽になるし、急な戦闘でも身軽に動ける。それに重くなるのが理由で買うのを断念していた予備の食料や装備を持ち歩けるようになる。

 素直に羨ましい。

「で、チビ。これからどこに行くんだ?」

「あのなぁ、チビチビ言うけどさ。俺にはシックって名前があるんだよ!年上を敬う心を持てよ」

「はあ!?年上?そんな訳ねえだろ。何歳だ?」

「17」

「「「じゅーなな?」」」

「なんで師匠まで驚いてるんですか!?」

「いや13,4くらいかなって思ってたから。お酒も飲まないし。成人してたんだ…」

「俺より2つ上だったのかよ…。見えねえ」

「ウチ12歳だけど、同い年くらいだとばかり…」

「冗談でチビって言ってたんじゃないのか…?俺そんなに幼く見えてるの?普通に傷つくんだけど…」

「いや背も低いし、顔も、その、若いっていうか…。かわいく見えるんだよ。ね、皆?」

 師匠の必死の弁解に合わせて、ドルクとエマネが激しく頷く。

「…フォローになってない。それどころか余計にダメージが…」

 トルミさんに背を伸ばす魔道具でも作ってもらおうかな…。

 この後、船の料金を払う際、俺が子供として数えられ、三人が大慌てで大人だと主張することとなった。


 長い船旅を終え、トルミさんの店に入った。

「いらっ…」

 店の奥からゆっくり歩いてくるトルミさんに向かって、ドルクが駆け出し、カウンターを乗り越えて、手に持った剣で突き刺そうとした。

 ギリギリで師匠が横から剣を突き出し、攻撃を止めた。

「な、何してんだよ。ドルク!」

「カミラさん、何で止めた?あんたなら分かるだろ、コイツの正体が」

「それを知った上で協力してもらっているからね」

「おいおい…、そりゃまずいだろ」

 どういうこと?正体って何?

「あの、剣仕舞ってくれないかな?結構怖いんだけど…?」

 トルミさんが怯えながら話す。

 ドルクはトルミさんに向けていた剣を降ろしたものの、仕舞いはしなかった。

「こうなるのが嫌で着ぐるみの中にいるのになぁ。困っちゃうよ…。まあバレたなら動きにくいだけだし脱ぐよ。そこの二人も驚いて攻撃しないでね?」

 そう言ってトルミさんが着ぐるみから出てきた。

 背中には白い大きな翼、頭には角が生えていた。ファルジェネと呼ばれる魔族だった。

 魔族は人間の敵。それがこの世界の常識。トルミさんがその魔族なんて…。

「ボクは確かに魔族だけど、人間を襲ったことは一度もない。これからだってそう」

「口だけなら何とでも言えるだろが。信用できねえ」

「トルミを信用できなくても、利用するだけならどう?」

 師匠が助け舟を出す。ノクシャラの卵はドルクが持っている。納得してもらえなければ、トルミさんと取引ができない。

「コイツの利益になるかもしれねえだろ。ぜってえ嫌だ」

「私はカティア先生の生死を確かめたくてここまで来たんだよ。だから納得できなくても協力してほしい」

「どういう意味だ?」

「数か月前、久しぶりに先生に会いに行ったが行方不明になっていたんだ。思い当たる場所に行ってみたが、見つからなかった。そこでカティア先生の持つ剣の特性を思い出した」

「特性?」

「持ち主が死ぬと元の場所へ帰る特性だよ」

「まさかそれって今持っている剣ですか?」

 師匠が今手に持っている剣、フレアルシオン。それを手に入れるために迷宮に潜り、師匠と出会うきっかけになった剣。

「そう。この剣が戻っていなければ少なくとも先生は生きていることが確認できる、そう思って迷宮に行った。そして剣はあった」

「…じゃあ、ソイツ死んでるじゃねえか。今更確かめる必要ねえだろ…」

「そうだね。でも先生の死をそう簡単に認めたくないんだ。しかも剣の特性はあくまで伝説の話。本当に正しいかなんて分からない」

「最初からトルミさんに魔道具を作ってもらえば良かったんじゃないですか?」

「それも考えた。でも剣が戻っているのなら他の人には取られたくないって思ったんだ。先生が大事にしていた剣だったから」

「ねえ、お兄。協力してあげようよ」

「くっ…、でも…」

「ドルク、俺からも頼む。俺も家族や村の人たちが生きているか知りたいんだ。頼むよ」

 ドルクに頭を下げる。

「お願い」

 師匠も頭を下げる。

「……、顔上げろよ」

 二人揃って頭を上げる。

 「手出せ。これ」

 手のひらからノクシャラの卵を出して、師匠の手に乗せる。

「今日俺はここには来なかった。宿で寝てただけだ。だから何も見てねえ。それでいいな」

「「ありがとう」」

「先に宿に戻ってるからな。行くぞ、エマネ」

「うん」

 ドルクとエマネは店を出ていった。


「はあ…、殺されるかと思ったよ…」

 トルミさんがぐったりしながらカウンターにもたれかかる。

「ごめんね。まさかあの子が魔族を見抜けるなんて思わなかったんだ」

「この着ぐるみ、魔力に敏感でも中にいるのが人間だと錯覚するように作ってあったのにな…。まったくとんだ逸材を連れてきたね…」

「はい、言われた通りノクシャラの卵取ってきたよ」

「おお!頼んだ2倍以上じゃないか!助かるよ!すぐ完成するから少し待ってて!」

 トルミさんが店の奥へと入っていった。

「師匠、そんな大変な状況でなんで俺に協力してくれたんですか?」

「先生はいつもそうしてたってのもあるし、先生を探す手がかりが無くなってしまったからね。

そこに君が現れた。で君からリアムが王国の村を襲ったという話が出た。

リアムってさ帝国の領土の中に住んでる魔族の中でも大人しい魔族なんだ。そんな魔族が人間を襲ったというのが引っかかってね。先生も帝国に住んでいたから、何か関係があるかもって思ったんだよね」

 数分後、トルミさんが大きな魔道具を抱えて戻ってきた。

500PV超えました。ありがとうございます。

週1投稿だと全然伸びないだろうなと思っていましたが意外と読まれてて驚きです。

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