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『空の鳥籠』

 スキルを検査し、教育すべき人間かどうか判断を行う式であるチコノギが行われた日のこと。

「治癒のスキルか。なら軍の医療部隊に入れ」

「はい、お父様」

 治癒のスキルを持つことが判明し、学校に通うこととなった。

 軍備増強に取り組んでいたシュレイド帝国にとって治癒スキルは重宝された。

 特に軍の医療部隊は高い収入で、社会的身分もかなり高い。

 娘がそんな部隊に入隊したとなれば自分にも箔がつく、カミラの父はそんな風に考えていた。


 学校に通うこととなり、父の望むまま軍へ入隊した。

 初めて戦場でのことは今でも覚えている。次から次へと怪我人が運び込まれ、もたつくと怒鳴られた。痛々しい怪我を見ても何も思わなくなっていき、そういうものなのだと受け入れるようになっていった。

 ときどき医療部隊が攻撃されることもあった。そのときは兵士たちを見捨てて、逃げる他なかった。ただ殺されないことを祈ることで精一杯だった。戦う術など持ち合わせていなかったから。今思えば生きているのは奇跡だと思う。

 一番多く兵士の命を救い、表彰されることもあった。そのことを父に報告したが、エレイン家として当然のことだと言われた。私も同じように考えていたので特に何も思うこともなかった。

 あるとき上司に呼ばれ、冒険者たちに同行して魔物を倒す任務が与えられた。

 国内北部で発生した魔物が強力で一般の冒険者では手に負えなかった。戦争をしている中で軍を派遣する余裕がなかった帝国は最強の冒険者パーティ、『空の鳥籠』に助けを求めた。危険な魔物の討伐ということもあり、『空の鳥籠』は条件として治癒スキルを持つ人の同行を要求した。

 そこで私が選ばれ、共に討伐へ赴くこととなった。


「あなたが『空の鳥籠』のリーダー、カティア・リンガーさんですか?」

 集合場所にいた女性の冒険者に声を掛ける。盲目なのか目を閉じたまま立っていた。

「……」

「あの、聞こえてますか?」

 女性の肩を揺らす。すると目を開けてあくびをした。

「ふぁ…、ん?何か用かしら?」

 立ちながら寝ていたらしい。

「カミラ・エレインです。帝国が依頼した件で来ました」

「あなたがそうなの?少しの間だけどよろしくね。あと二人がもう少しで来ると思うから…、ってちょうど来たみたい」

 両手に大きなダンベルを持った男性と大量の食べ物が入った袋を抱えながらモグモグしている女性が歩いてきた。

「…カ…ア、その…おん…れ?」

 食べながら話しているせいで何を言っているのか分からない。

「今回の依頼に同行するヒーラーさん」

「そ…な…だ」

「メルグ、何食べてるの?美味しいそうだね」

「帝国名物の肉まん。…美味しい」

 食べ物の話になった途端、食べるのを止めた。

 メルグがカミラの方を見る。

「あげないから。欲しかったら自分で買って。場所は教える」

「…結構です」

 そう答えると再び肉まんを食べ出した。

 会話の間、男性の方はずっとダンベルを上げ下げしていた。

 冒険者ってこんなに変わった人たちなのだろうか?

 当時はそんな風に思っていたけど、そんなことはなかった。

 

 魔物がいる場所へ向かう途中、子供たちの慌てた声が聞こえた。

 一人の少女が民家の屋根の上で震えている。その下には数人の子供たちがいた。

「どうしたのかしら?」

「あの子がスキルで登ったら動けなくなっちゃったんだ」

「近くの大人でも呼んでくれば…?」

「そんなことしたら怒られる!」

 屋根上の少女が叫ぶ。

「分かったわぁ。キロー、私を肩車してくれないかしら?」

「しゃーねえ」

 ダンベルを持った男性が返事をする。

「ちょっと待ってください。こんなの自業自得じゃないですか。我々には急いで片付けなければならない仕事があります。ここで油を売っている場合じゃありません」

 ここに来るまでもお爺さんの荷物を持ってあげたり、女性の落し物を一緒に探してあげたりしていた。もう我慢できない。任務は迅速にこなさなければならない。今回は私にだけ課された特別な任務。これ以上上官を待たせるわけにはいかない。

「気持ちは分かるけど、目の前の困っている人を放っておけないの。これは譲れないことだから」

 そうしてカティアは少女を屋根から無事に降ろした。

「ありがとう」

「あら?怪我してるみたいね?」

 少女の膝から少し血が出ていた。

「登ったときにすりむいちゃったの。それでスキルを上手く使えなくなって」

 スキルを使うには集中力がいる。まだ子供となればなおさら。

「ねえ、カミラ。治してあげて?」

「…治したらすぐ出発しますから」

「もちろん、そのつもりよ」

 皮のめくれてしまった部分に触れないようにして膝に手を当て、治療した。

「すごい、すごい!お姉さん、すごい!こんなすぐに治るなんて。ありがと!」

 なんだろう、このムズムズする感じ?恥ずかしいような、変な気持ち…。


 その後も人助けをしつつ、目的の魔物を見つけた。

 赤い雪が降る中、体が歯車でできた巨大な魔物が立っていた。

 白く光る目がこちらを向く。

「あれが例の魔物ね」

「まずは右足狙いでいいか?」

「そ…ね。じゃ…みぎ…で…らう」

「私は首ね。カミラは離れてもらえるかしら?」

「はい」

 私が魔物と反対へ走ると同時に、三人は動き出した。

 キローが持っていたダンベルを魔物の右足へ叩きつける。その強い衝撃で魔物が重心を崩し、右手を地面につける。魔物も負けじと左手でキローを殴ろうとする。

 すかさずメルグが地面に触れている右手へ大きなエネルギー弾を飛ばす。魔物の右腕が吹き飛ぶ。

 支えがなくなった魔物は地面を揺らしながら倒れる。

 魔物の首へカティアが向かい、剣を上から下に向かって振り下ろす。

 首だけでなく、その奥の木々までも消し飛んだ。

 魔物から魔力の光が抜けていった。

 一瞬の出来事に啞然とする。圧倒的な強さを前にあれほど巨大な魔物でもなすすべなくやられた。個人の実力だけじゃない。少しの打ち合わせで完璧な連携をこなしていた。

 これが最強冒険者の実力…。

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