狩人ドルク
朝いつも通りドルクは狩りをしていた。
『冒険者になる気はないか?』、か…。
初めてのことだ。しかも出てけ、なんて言った後だったのにな。
とっくにしまい込んだはずの冒険者への憧れがその言葉に引っ張りだされた。一緒に行ったら楽しいかもと思っちまった。
でも、この気持ちは忘れなきゃならねえ。エマネのために。
村に何か近づいてる?この感じ、まさかノクシャラか!?
ドルクは狩りを途中で止め、大急ぎで村に戻った。
「ドルク、丁度良かった。今呼びに行こうとしていたんだ」
「ノクシャラだろ?なんでここに向かってんだ?」
息が絶え絶えになりながら4人組の冒険者が村に入ってくる。
「どこか隠れるところはないか?」
男の冒険者が俺たちに話しかけてくる。
「おめえらノクシャラに追われてここまで戻って来やがったのか!?隠れたって無駄だ。辺り一帯が吹き飛ばされるだけだからな。とっとと村から離れて大人しく死ね!」
「そんな言い方しないで助けてくれたっていいでしょ?」
今度は女の冒険者が口を挟む。
「自分の都合で殺しに行って、殺される番になれば怯えて逃げるなんて情けねえ。冒険者なのかてめえらは。ここから出ていけ。せめて迷惑かけずに死ね!」
「腹立つー!なんなのあんた。死ね、死ね、うるさいわねー」
「はあ!?」
「まあまあ」
村人が二人の間に割って入る。
「そもそもなんで追われていたんだ?」
「小さいノクシャラを攻撃したら、他の奴らが急に俺たちに向かって来たんだ。それで逃げたら一匹だけずっとついて来やがったんだ」
「知らないのか!?ノクシャラの子供を襲うなって」
「これだから冒険者は。命がかかった戦いでろくに調べもしねえ。やっぱ馬鹿に相応しい仕事だな」
「こっちだって余裕がある訳じゃないんだからしょうがないでしょ!」
「それで死んだら意味ねえだろ、アホか」
「さっきっからなんなの、あんた。冒険者の恐ろしさを見せてやろうか?」
「十分思い知ったさ、どんだけ命知らずなのかを。いやあ怖え怖え、俺には到底真似できねえ…ってそんなこと言ってる場合じゃねえな」
口論している間にノクシャラが村の近くに迫っていた。
とにかくノクシャラの狙いを村から離さないといけねえ。この冒険者共は役に立たなそうだし、俺一人でやるか。
村から離れ、一瞬で木を登る。何もなかったドルクの手に弓と矢が現れる。
ノクシャラ目掛け矢を放つ。一見届かなそうな距離だが、弓に込めた魔力により凄まじい速度で貫く。
ノクシャラの巨体であれば矢など痛くも痒くもない。しかし今回は違った。
体内を貫く矢は高速で回転し、大きな穴を開ける。魔物の体内でも魔力を保ち続ける矢は魔力制御の高さを示していた。
これじゃあ倒しきれねえよな。かといって連発できねえし。今は村から気を逸らすために急いで射たが、集中する時間が欲しい。
ドルクを敵とみなしたノクシャラは口から風を放つ。
風に触れた木はすぐさま切り刻まれて地面に落ちていく。
あんなのが村に当たったらトンデモねえぞ。
ドルクが避けたことに気づき、再び風を放つ。
こんなに警戒されてちゃ、射れねえ。このままじゃ、あれを倒すより俺のスタミナ切れの方が早えぞ。
村の人間じゃついてこれねえ。あの冒険者共に協力してもらうのも手か?元々あいつらが原因だしな。
だがこのまま村に向かえばノクシャラもついてくる。
「一人で戦うしかねえか」
「それは無謀じゃないかな」
走っていたドルクが声のする方に振り向く。
「おめえらは昨日の…!」
「戦力は少しでも多い方がいいでしょ?」
「何が目的だ?」
「単なる人助け。それ以外に理由がいる?仲間になれとでも言うと思った?」
村で手伝いをしていた二人を思い出す。
他の冒険者ならしねえ。英雄譚でもそんな話は聞かねえ。していても語り継がれることはねえだろうな、あんまカッコ良くねえし。
それでも二人は恩返しに手伝った。変わってやがる。あの4人組に比べりゃ信用できるかもな。
実力もあるみてえだ。チビは微妙だが、この女は俺よりも強え。積み上げてきた経験による自信を感じる。
「いいぜ、共闘といこう。策はあるか?」
「私たちが囮になる。君はノクシャラの核を破壊してくれ」
「囮?あいつの気を引けんのか?」
「ノクシャラは目を持たない。代わりに魔力を見ている」
そう言いつつカミラは魔力を変質させていく。
「そんなんできんのかよ。俺の魔力そっくりだ…」
「でも師匠、これだけだとドルクが攻撃したらバレるんじゃ?」
「そこで君の出番ってわけ。私たちの近くを走り回ってくれ。早ければ早いほどいい」
「それ、何の意味が?」
「やれば分かるよ。じゃあ解散」
全員がバラバラな方向へ向かう。ドルクが魔力を抑えると、戸惑っていたノクシャラがカミラを追いかける。
あの女冒険者を俺だと思い込んでやがる。まったくどんな修行をすればあんなことできるんだか。
木の上で弓を構える。それでもノクシャラは来ない。
不思議に思ったドルクはシックを見る。
あのチビ早え!?それに踏んだところの魔力が変わってる?そりゃノクシャラも警戒してこっちに意識を割く余裕もないわな。
これなら攻撃される心配はねえ。ノクシャラの核を探すのに集中できる。
見つけた!
「せめて痛みなく眠らせてやるよ」
魔力を込めて矢を放つ。回転は加えず、速さだけに特化した矢は一瞬で核を貫き、ノクシャラから光が出ていった。