プロローグ
「シック、パーティを抜けてくれ。お前は足手まといだ」
「ちょっと、アルノ!」
「今回の試験でオレたちはCランク、シックだけはまた落ちてEランクだ。こいつに合わせて低ランクの依頼でも受けるってのか!?」
「別にそんな焦る必要もないでしょ!」
「いや、エリナ。アルノの言う通りだ。強い冒険者はその力で皆の役に立つべきだ」
エリナが驚いた顔で俺を見つめる。
遅かれ早かれこうなってしまうことは分かっていた。
パーティ内の平均ランクで受けられる依頼のランクが決まるが、一番下の人のランクから2つ以上離れたものは受けることはできない。
「今日限りでパーティから抜けさせてもらう」
二人とは俺が冒険者を始めたときに出会った。同い年で気も合い、パーティを結成した。そのときは、実力も同じくらいだった。でも、いつの間にか差が開いていた。
「そんな…」
いつも明るかったエリナが今は暗い顔をしている。
「今までありがとう、二人とも」
声が少し震えた。
アルノは俺の言葉を聞いてすぐにギルドから出て行った。
「困ったことがあれば何でも言って!力になるから」
エリナはそう告げると背を向けて重い足取りで歩き出した。
俺はギルドの受付に向かい、パーティから脱退したことを告げた。
手続きを終え、宿に預けていた荷物を受け取った。二人と顔を合わせたくない一心で、馬車に乗って逃げるようにこの街から離れた。
一緒に乗った乗客と馬車に揺られながら、外の景色を眺めた。
今向かっているのは俺の故郷だ。今まで二人に追いつこうと必死で、帰省は一度もしていなかった。
成人する少し前に冒険者になると言ったとき、両親は反対しなかった。俺が小さいときから冒険者に憧れていることは知っていて、その意思の固さを感じていたのだろう。次男である俺をわざわざ引き留める理由もなかった。
とはいえ、心配はしていた。村を出るときには、妹たちは今生の別れのように泣きながら、他の家族も悲しい表情を浮かべていた。
そんな心配をさせている家族にようやく顔を見せられそうで良かった。顔向けできるような成果は何もないが。
「最近、シエルト村が魔族に襲われたって聞いたか?」
「シエルト村が!?」
同乗者の男たちの会話を思わず、遮ってしまう。
「魔族に襲われたって、村人はどうなったんだ!?いつの話なんだ!?」
「聞かれても、俺だって襲われたくらいしか…。あんたはシエルト村の出身なのか?」
申し訳なさそうな顔をして尋ねてきた。
突き付けられた話に呆然としながらも頷いた。
魔物ではなく、魔族と言っていた。あの近くには魔族は住んでいなかったはずだ。なぜシエルト村が狙われた!?
ただただ、その話が噓であることを願いながら、拳を強く握った。
馬車がシエルト村近くの街に到着し、日が沈みかけていた。
本来ならばここで宿を取って休むところだが、急いで故郷へ向かった。
最後に通ったときは、冒険者になるんだと興奮していたからか一瞬のように感じた道のりも今は永遠に終わらないのではないかと思うように長く感じた。
何この廃墟?道間違えたか?知らない場所に来てしまった。
最初は焦りとこの暗さで迷ってしまったのだと思った。しかし、魔道具の灯りで照らされた廃墟に見覚えを感じた。
廃墟だと思っていた場所はシエルト村だった。信じられなかった。だが歩き回るほど、俺の記憶にあるシエルト村が鮮明に蘇る。
あの話は本当だった。
慌てて実家のあった場所に駆け出した。家は屋根だけになっていた。いや、恐らく壁が壊れて全てが下敷きになっているのだ。
一応持ち上げようとしてみるがびくともしない。
「誰かいないのかー!シック・ニーゲが帰ってきたぞー!」
大声で叫んでも返事はなかった。ただただ静かだった。ある意味それが答えだった。
それからしばらく村の中を歩き回ったが、生存者がいないことを思い知るだけだった。
ここまで長時間走ってきたことやこの現実に叩きのめされたことが原因なのか急激に眠気を感じて、実家だった場所の横で寝ることにした。
誰かの家で寝ることもできるがしたくなかった。その行為が村人が全員死んでしまったことを認めるようで。
誤字があれば教えていただけると幸いです。
コメントもらえると嬉しいです。