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珈琲之助物語シリーズ

わたし

作者: 珈琲之助

こんな経験ってされたことはございますか。

なぜか見知らぬ駅に興味を持って降りるとそこは。

これはある人が体験したかのように描かれています。

私はこの日、久しぶりに繁華街へ行こうと斜め掛けボディバッグを身につけて電車に乗っていました。この時間帯は空いているのか立つことなく座れました。目的の駅はこの路線の終点です。私は駅に到着するまで景色を眺めながら時にはスマートフォンを操作したりして時間をつぶしました。終点まであとどれくらいだろうと操作していたスマートフォンをバッグにしまった時でした。停車駅のアナウンスが鳴り響いたのです。


「降りよう」


私はその駅名を聞いた瞬間、降りなければならない感情に駆られました。どういう訳かはわかりません。目的地ではないのに降りてしまったのです。改札を出て歩くこと数分間は何も考えていませんでした。ふと気がつくと午前中だというのに辺りは暗く、誰もいない妙なところにいました。


「帰ろう」


私はこのまま進むと危険なのではないかと思い、引き返すことにしました。ですが何も考えずに歩いていたせいか駅までの道がわかりません。


「どうしよう」


私は誰ともすれ違うことなく歩き続けました。歩けば歩くほど駅から遠ざかっていると思いました。歩きつかれた私は休憩することにしました。そのとき自然とため息が出たことを覚えています。私はバッグからスマートフォンを取り出して場所を検索しようとしたとき驚くことがありました。


「どういうこと?」


なんと電波が圏外になっていたのです。このような事態に陥った私を恐怖が襲いました。こうなれば歩くほかありません。もう繁華街なんてどうでもいい。駅に辿りついたら家に帰ろう。そう思い、夢中で歩きました。


「なんで?」


なかなか駅に辿りつきません。私は疲れはて道のど真ん中で座りました。なんで駅に着かないのか。どうして人の姿がないのか。なぜ自分がこんなことにこういう目に合わなければならないのか。とかなりイラついていました。


「ここはどこだ!!」


私は腹が立ち座ったまま大声を出しました。そのあと頭をかかえしばらく動くことができませんでした。それから何分経ったのでしょう。正確な時間はわかりません。


「やっと会えた!」


それは突然の出来事でした。後ろから20代後半の女性が私を探していたかのように声をかけてきたのです。私は彼女を見た瞬間、彼女に聞けばここから抜け出せると思い涙が出てきそうでした。ですが彼女から出た一言に私は言葉を失いました。


「……さんですよね?」


彼女は私の名前を口にしたのです。今日初めて会った人に名前を言い当てられるなんて予想外でした。はいと答えると何をされるかわかりません。私は危険を察知して何も言わず。とりあえず彼女から離れることにしました。止まることなくひたすら歩きました。


「待って」


私は彼女に追われていました。私は何度も彼女に呼び止められました。けれども私は応じることなく歩き続けます。ちらっと後ろを見ると思っていた通り、私の後を彼女はついてきていました。ですがこのまま永遠と歩き続ける訳にもいきません。そのとき思ったのはここで止まって彼女と話すべきなのか。それともこのまま歩き続けるのか。私は歩きながら考えました。その時でした。


「お願いだから止まって!」


私は彼女から発せられたこの言葉を受け入れることもなく進みます。すると後ろから泣き声が聞こえてきました。本気で泣いているのが前を向いていてもわかります。彼女からどれくらい離れたのでしょう。私は歩くのを止めました。止まって彼女と話すことを選択したのです。


「えっ」


私が目の前に来たことに安心したのでしょう。彼女に抱きしめられました。すぐには離してくれず。時間に換算してどれくらい続いたのかは覚えていませんが彼女に対する感情が和らいでいました。この時、なぜ自分の名前を知っているのか聞くべきだったのですが彼女から接吻をされた影響で頭が真っ白になっていました。


「ありがとう」


そのあと彼女がまた私を優しく抱きしめました。そして彼女がお礼を私の耳元でささやきました。気が付くと私はあの駅に降りる前の状態に戻っていたのです。私は驚いた様子で辺りを見渡しました。スマートフォンも操作しました。周囲にいた一部のお客さんから変な目で見られたことでしょう。


「時間が経ってない」


あれはなんだったのかと考えると怖くて仕方ありません。結局、引き返すことにしました。自宅に戻るや否や安心しきったのか涙がポロポロと溢れ出ました。幸い同居している家族は留守だったので誰にも見られずに済みました。


「なんだったんだろう」


その日の夜、私はマイルームの寝床で仰向けになりながら今日のことを考えました。あれからどれくらい経ったのでしょう。不思議なことは何一つ起きることなくいつも通りの生活を送っています。今でも時々あの出来事を思い出すのは気になっている証拠です。あの場所は一体、どこだったのか。彼女の正体は。なぜ、私の名前を知っていたのか。


「覚えているうちに」


二連休の初日に私は覚えていることをパソコンで文字にして残しました。いつどこで何が起きて誰と会ったのか。そして戻ってこられた理由は誰に何をされたからか。私は事細かに記録しました。明日は繁華街へ行こうと心に決めて……。


「行ってきます」


家を出た私は最寄り駅に向かいます。駐輪場に自転車を止めてスマートフォンで改札を通ってホームへ下ります。目的地まで一番早い電車に乗ります。途中下車など余計なことを考えないで乗り続けること約30分。終点に来ることができました。


「現実の世界だよな」


またあの世界ではないかと不安になりながらホームへ足を一歩踏み出します。そして現実の世界とわかってホッとして改札を通過します。目的の繁華街に到着して目指すは目的のものが販売されているお店です。それを購入し終え、のんびり繁華街を散策しました。


「ごめんなさい」


のんびりしすぎたのか1人の女性と肩がぶつかりました。私が原因だったのですぐに謝り相手の顔を見ます。非常に驚きました。あの時の女性が目の前にいたのです。頭が真っ白で言葉が出てきません。女性も私と同じような感じで驚いています。


「すいませんでした」


私は何も言葉をかけることはなく軽くお辞儀をして彼女から離れます。ちらっと後ろを見ても彼女は追ってきません。あまりの偶然に心臓のどきどきがやみません。今すぐ引き返してあの時のことを言おうか悩みます。悩んでいるうちに段々と……。


「うっ」


頭が痛いです。このような痛みは経験したことがありません。このまま倒れてしまうのではないかと焦ります。痛い……痛い……痛い……ああ!


「あれ?」


不思議なくらい痛みが引きました。痛くなくない。痛みが治りました。あっちへ行こうとしましたがまた強烈な痛みに襲われたくない。そう思い、私は自宅に戻ることに決めました。


「ただいま」


と自宅に戻りました。そしてマイルームに向かいます。部屋に入って着替えをします。手洗いうがいをして何か飲んでマイルームにある自分専用の座椅子に座ります。今からパソコンを触ろうと電源を入れます。何かあったような感じがしたのですが一瞬でパソコンが立ち上がったので操作を始めます。


「なにこれ?」


「あの日の出来事」というファイルを見つけました。自分がいつ作成したのか記憶にありません。不思議に思いながら開きます。中を見ると初めに自分が体験したことと記されてありました。けれどもこんな体験をした覚えがありません。小説でも書いたのでしょう。でもいつ作ったのか本当に覚えていません。


「まっいっか」


面白いので捨てずに残すことにします。そもそもいつ私がこんなことを書こうとしたのか。まったく記憶にありません。あの時か。頭が痛くなったとき。あれが原因でこのことを忘れてしまったのでしょうか。だとすれば辻褄があいます。


「本当にこんな体験したのかな」


私はざっと読むなりよく戻ってきたなと思いました。最後のほうに書かれているキスをした相手のどのような方だったのか。私は想像を膨らませました。


「もう一度、その女性と会えたらな~」


なんて思っていました。ビクっと頭に変な違和感があります。どうしたのだろうと思っていたらガッと頭が痛くなりました。とてもじゃないけど痛い、痛すぎます。


「助けて! 誰か!」


このまま私は倒れてしまうのか。横になっていると痛みがすっと治りました。あの女性は現実に存在した。


「ん?」


何を言っているのでしょう。私はパソコンで開いているファイルの文章に心当たりがあります。そうだ思い出しました。そして忘れていた記憶も消えてはいません。なんだか気持ちが悪いです。頭が痛くなった衝撃で体験したことが忘れてまた蘇る。そうなれば現実とは何かと疑ってしまいます。


「今のこれは現実だよな」


もう頭痛をしないでくれと願いながら私は居てもたってもいられず。繁華街へ向かいました。その目的はあの女性と会う為です。私は駅に到着するなり彼女を探し回りました。偶然、出会った場所まで来たのですが彼女の姿はありません。それもそうです。私は周辺を探しました。どこを見ても彼女の姿はありませんでした。


「ここらへんの人じゃないのかな?」


もう会えないのか。会って話がしたい。あの時の話をしたい。私はそれを強く思いながら捜索を続けました。ふと時計を見ると夜8時を回っていました。スマートフォンに家族から連絡が大量にありました。どこで何をしているのか。帰るのは何時になるか。晩御飯はいるのかと。


「疲れた」


私は小さな喫茶店に入ってドリンク付きの食べ物を注文しました。店内にはお客さんが1人しかいません。あの人かもしれないと思いました。しかし、その人は男性でした。深呼吸をして注文した料理が来るのをじっと待っていました。夕食はいらない。10時までには帰れると思う。そう家族に返事をしながら。


「お待たせしました」


私は運んでくれた従業員にありがとうとお礼を言いました。さて食べようとしたその時でした。彼女がその人かもしれないと感づいたのです。確信は持てませんが彼女かもしれません。私は食べ進めながら話しかけようかどうか迷いました。おそらく彼女も同じ気持ちだったと思います。<完>

果たして彼は彼女に話しかけることはできたのでしょうか。それではまた、どこかでお会いしましょう。

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