ねぇ、みんな聞いて!俺、昨日大変だったの!
「いやぁぁぁぁ、セーブデータが消えてるぅぅぅう」
おぉぅ、自分の寝言で目が覚めちまったよ。
いやぁ、昨日は酷い目にあったせいか悪夢を見たわ。セーブデータ消失する夢とか、危うくショック死するとこだったぜ。いや、この世界にテレビゲームはないんだけども。この世界に転移して3年以上たつのに未だに、前の世界への未練は消えないか。仕事辞めて5日目、これからNEET生活を満喫するんだって時にぽっくり逝ってしまったもんな。そりゃあるよ、未練。
はーい、ヤメヤメ、悲しい話は終わり。
それよりも今何時だよ。微妙にお腹もすいてるし、食い物でもないかなーと台所へと向かう。
あらヤダ、ご飯用意してあるやん。ありがとう心の友よ。一応、俺以外に家には誰もいないこと、これは俺のために用意されたものであることを確認してから食べ始めた。この家の持ち主は俺じゃない。友人の所有物だ。そこに俺と友人で同居している。
家主のご飯を間違えて食べてはいけない(戒め)。
ところで、その友人の姿が見えないのはギルドにでも行っているのだろう。昨日、見た目ズタボロで帰ってきた俺を見て随分と心配してくれたが、怪我自体は大した事ないことを確認するや否や、「……で、何があった」と言ってきた。
新人にドヤァしたくて余計な事したら酷い目にあったこと、詳しい報告は後日と言って、昨日は簡単な報告だけして、そのまま帰ってきたことも話している。今頃、ギルドに置いてきた黒オーガの死体でも検分してるのだろう。
さて、話は昨日へ戻るが時間を見計らって死体を回収・撤収した俺は、傷はともかく見た目結構なボロ雑巾状態だった為、門番達や顔見知り達なんかに心配して声をかけられたりした。偶には、怪我して帰ってくるのも悪くないかしら、なんてバカなこと考えている内にギルドに着いた俺はそのままギルドに入って行ったのだった。
中に入ると、新人から報告を受けたギルドが俺の救出部隊もしくは、特殊個体討伐部隊の編成でもしていたのか、結構バタバタしていた。なんかちょっと大事になってごめんなさいと心の中で謝りながらも新人たちを探す。
あぁ、見つけた。皆して、俺たちを逃がすためにあの人は……、みたいな顔してる。勝手に殺すなよぉ。生きてるよ、俺。
新人たちの暗い雰囲気を払拭しようと、努めて明るく
「ただいまぁー」
と声をかけてやる。
「うわーん、いぎでぃるぅー」
と言ってタックルをかますオオカミ娘を受け止め、目を真っ赤にしたエイデンとダミアン、さらにはえぇ、なんで生きてんのって感じで呆然としていたイザベラ含め、宥めるのに苦労した。
戦闘より新人を宥めるのに疲れてしまった俺は、フィオナさんへの報告を簡単に済ませ、詳細は翌日に……と言って機密室っぽいところに死体を置いた。あまり人に見せないようにお願いして、そのまま帰ったのである。死闘の後だからね、仕方ないね。
そんな訳で本日もギルドにやってきた。詳細は既に友人が話していると思うので、やることは一つ。
「昨日のオーガについて相談したいんだけども……」
「……わかっています。このまま副ギルドマスター室まで案内致します」
「はい……」
フィオナさんに連れられ、副ギルドマスター室に入った俺は、副ギルドマスターのレイブンさんと
対峙する。お茶の用意をするためフィオナさんが離席したタイミングでレイブンさんが話始める。
「今回の……」
「うわーん、レイブンさんあのオーガの死体何とかしてぇ。俺頑張ったからぁ、頑張ってヤベェのぶっころしたからぁ、何とかうまいことしてくださぃぃい。お願いしますぅぅぅう」
速攻で泣き言&土下座を発動した。俺が持ってきたオーガは全身から特殊個体をアピールしていた為あんなもんが人目に付こうものなら、やれ誰が討伐しただの、なんだの騒ぎになってしまう。そう、俺のやるべきことは一つ。隠蔽工作だ。この全身アピールオーガの討伐をなんかいい感じに処理するようにお願いするのが、本日のミッションである。
現時点で、実物を見ているのは新人を除けばまだ、この人とこの人が信頼している何人か程度だろう。それと友人もかな。ギルドマスターについては絶対に見ていない。あの人は絶対働かないマンだから、何もなければ普段はギルド内にすらいないもん。
「大丈夫ですから、ニート君の事情は知っていますし、こちらで上手く処理しておきますから」
実は俺は、異世界から転移したこと以外は既にこの人へ自分の秘密を打ち明けているのだ。
秘密を保ったまま上手に立回るなど絶対に無理だと判断した俺は、友人と相談の上この人には割と早い段階で秘密を打ち明けていた。友人曰く、実はこの人は元暗殺者であり下手に動いて万一、危険分子として排除されるようなことがあれば、俺なんて簡単に殺されるだろうとのこと。正面きっての戦闘ならともかく、暗殺を未然に防ぐとか素人には無理。そこで話し合いの末、有事に際には俺という戦力を差し出す代わりに、俺の秘密が漏れないように協力関係を結んでいるのだ。それ以後、この人とは何だかんだそれなにうまくやっているのである。
そのため、多少の泣き落としや、ワガママが通用する貴重な人でもある。
「ホントにホントですかぁ?」
「本当ですから、ほら泣くのを止めて座って下さい」
泣くのを止めた俺は、にっこにこでソファー腰かける。
「これで安心して夜眠れそうです」
「……昨日は眠れなかったのですか?」
「いえ、スヤスヤでした」
「そうですか……。それよりもあのオーガの発生原因ですが、……どうでしょうね」
「それについては、全然分からないですね。もし、どっかからここまでやってきたってなら、もっと早い段階で見つかっていたでしょうし。あの時偶然に自然発生したのかしら」
この世界は魔力に満ちている。世界全体を魔力が循環してるらしいのだが、中には循環の波に乗れず魔力溜まりになってしまことがある。その溜まった魔力は濁り不浄化していき周囲の生き物を魔物に変えたり魔物が生まれたりと、所謂モンスターの発生源になっているらしい。よく知らんけど。
ただ、魔力溜まりの規模によって発生するモンスターの強さが変わるため、今回のようなオーガが生まれるような規模のものは周辺にはないはずである。そんなもんがあるとこに都市なんて作らない。
万一、新しくそんなもんができたとして、あのオーガが発生する前に周囲の魔物たちに影響がでているはずである。なので、可能性としてはめっちゃ偶然、あの場所に自然しましたーってのが一番納得いくのである。
そんなことを考えていると、扉がノックされお茶を用意してきたフィオナさんが入室してくる。
一旦話を切り上げた俺と副ギルドマスターを見て彼女は
「あのオーガの素材ですが、どうされるか決まりましたか?」
と俺を見ながら聞いてきた。欲しい部位については昨日の時点で考えていた。
「角と魔石だけ欲しい。残りはお好きなように」
あいつの素材としてはそこが一番良いところだから、そこだけ貰って後は譲ると伝えたところ
「一番良いところを……。まあ、いいでしょう。では角と魔石以外こちらが頂きましょう」
意外にもすんなり要求が通っちゃった。なんで?と思っていると
「ちなみにですが、君のご友人は角と魔石以外にもあれこれと沢山希望されてましてね。おいしいところを全部持っていかれるところでしたよ。いやぁ、角と魔石以外頂けるなんて、ニート君は太っ腹ですねぇ」
副ギルドマスターはニッコリ笑顔を向けてきた。
我が友人は俺より先にすでに交渉をしていたようだ。討伐者の俺抜きで交渉してるとかなぁぜなぁぜ状態なのだが、どうしよう、今更やっぱりダメですなんて言えない状況だ。こうなれば仕方ない。
「素材に関しては角と魔石だけでいいです。その代わり、ギルドにあるワインの中でそれなりにお高いやつを1本貰っていいですか」
友人へのお詫びワインを選んで貰ってる間に、今後のことをについてレイブンさんに相談する
「とりあえず、当分大人しくしとけばいいんですかね。」
「そうですね、少しの間大人しくしておいてください」
「分かりました。人の噂も五十日みたいな感じなんで、二ヶ月位家に引きこもりますね」
「一週間もあれば十分です……。」
家に帰りお詫びワインを渡したところ友人に怒られなかった為、安心してその日は寝た。翌日、目立つ処に錬金術に関する書籍が置いてあった。錬金用に欲しい素材があったんだね。これ読んで勉強しろって圧を感じる。
わが友人は、怒ってはいないが、根には持っていたようである。これから一週間、如何に友人のご機嫌をとろうか頭を悩ますが、怒られなかったのでヨシ!
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