第2話 迷いの森の魔女
人を寄せ付けない陰鬱な森、迷いの森。
それは、魔女の結界による物である。
その森の入り口の前で、
5人の少年と少女達は、立ち止まっていた。
「メーリン様、本当に進むのですか?」
「はい。」
「私は反対です。この森には、黒魔女がいます。」
「その魔女に用があるのです。」
「ま、まさか、、、。」
「仲間になってもらいましょう。」
「く、黒魔女ですよ!」
「ふふっ、内偵は進めていました。」
「あ、アズかぁ〜。」
リンザは、反対しているのだが、
主人のメーリンは、聞く気がない様だった。
リンザは、いつも主人の突拍子な行動に、
頭を抱える。
そして、アズの実務能力が、全てを可能にしてしまう。
ただ、リンザの考えとは別に、
王宮内では、困った3人娘として、
一括りに、されている。
メーリンは、その場で結界を調べているのだが、
緻密で複雑で難解な物であり、
彼女の能力でも、一筋縄では行かない物でもあった。
(、、これは、時間がかかりそうね、、、。)
そのメーリンに、ミンが声をかけてきた。
「ねぇメーリン?この先に用があるんでしょ?」
「はい、正確には、森の奥に居る魔女にですけど、」
「わかったわ、私に任せて!ドリファン!!」
呼ばれた少年は辺りの木々の高さを確認して、
身を屈めた。
「高いな、うんと高く跳ばなきゃ!」
彼は、まあまあ本気で跳んだ。
その垂直跳びは、
軽く30メートルを超える高さまでに至った。
リンザは、見たのは2度目であるが、
前回の倍以上跳んだので、再び驚いた。
「、、うそ、で、しょ、、、。」
上空のドリファンは、方向を見つけた。
「ミンー!!!」
叫ぶ彼は、方向を指差した。
それは、森の奥の一軒の館の方向である。
瞬間、ミンが走り始めた。
「みんな!こっち!着いて来て!」
ミンは木に駆け登り、皆んなの誘導を始め、
着地したドリファンは、地面を走り、
皆んなの先頭を走り、皆、それに、続いた。
ミンは、まるでリスか何かの様に、
木の上を走り回り、複雑な結界を解呪して行き、
その後を走る4人は、迷う事なく、ついていけた。
次から次へと、結界を解いていくミンの速さに、
流石のメーリンも、驚きを隠せない様だった。
「凄いわね、あんなに早く解呪出来るなんて。」
ミンは、大きく結界を壊すのではなく、
自分達の通れる分の広さだけ、
結界を組み替え、
通路を作っていく方法を取っていた。
ミンは、結界の術者に、わからない様にしていたが、
今回ばかりは相手が上手で、
屋敷の前で、待たれていた。
待っていたのは少女で、
メーリンやリンザと、ほぼ同年代の様だった。
その姿は、どことなく清楚感漂い、
頭髪は、腰まで伸びる黒のストレート、
髪自体も艶よく輝いており、
顔立ちも良く、いわゆる美人である。
白いワンピースの効果で黒髪が、映える。
「突然のご訪問為、
たいした おもてなしも出来ませんが、
ようこそ、我が館へ、
御用件は、中で伺いますので、
どうぞ、こちらへ。」
5人は、驚きを隠せない様子で、
それを見た黒髪ロングの同年代の少女は、
再び口を開いた。
「申し遅れました、、
私は、この館の主人、魔法使いのシーラ、
と、申します、、、
恐れる必要などありません。
闘えば、私など簡単に殺せますから、、」
その魔法使いの目は、リンザに目をやっていた。
警戒するリンザに、釘を刺す若き魔法使いは、
皆を応接間へと案内した。
そこは、簡素ではあるが、綺麗に片付けられており、
清潔で、
長テーブルと椅子10脚が置かれて、
そのテーブルの上には、燭台が1つと、
お茶が用意されていた。
燭台の蝋燭の灯が辺りを照らす中、
その灯を利用して、
ドリファンとミンは、互いに笑わせ様と、
変顔対決を始めて、
リンザに止められた。
おかげで、リンザの緊張も少しは ほぐれ、
話しが始まった。
「さて、スホミュラ姫、
今日は、
どの様な御用向けで、ございましょうか?、、。」
「姫?!」
「ひめ?!」
「!」
ドリファンとミンはハモり、ユタは、絶句した。
「ただ者じゃないとは、思っていたけど、、、。」
ミンの率直な感想を述べ、また、
「おや?その様子では、まだ、互いの事を、
互いに知らない様子、、
そうですね、ミン・シャウリン、
シャウリン領、
領主ゼン・シャウリンの御息女、、。」
「あの、!」
今度は、リンザが驚いた。
「しかし、これだけの人物が、
一度にいらしゃるとは、私も驚きました。」
「?」
皆が顔を見合わせ、その言葉の意味を考えた。
魔法使いは、説明を始めた。
「まず、赤鎧の騎士様は、
この国の第一王子の従姉妹で、
かの大将軍ドン・ワンパの御息女、、。
その密偵の少年は、
東の龍の国の長候補の弟さん、、。
そして、1番希なのは、
そこの、剣士の少年です、、。
伝説や物語でも語ららなくなっている、
古の大魔導師ダマリア様が、
一万年ぶりに取った教え子、
人の世で最も稀な少年、、。
王女に高貴族、自治領主の御息女、東の密偵、
伝説の大魔導師の弟子、、
これほどの顔ぶれが、一堂に会するとは、、、」
なるほど、と、皆、そう思ったが、
メーリンは、違っていた。
「それに、あなたも加わりますねシーラ。
2匹の魔獣を封じた六英雄の1人、
大魔導師ガイバードの娘、
同じく、聖女リーリアの娘、
ですものね。」
一瞬、その場は静まり返った。
「いやいやメーリン、その人達って、
千年前の人よ!」
ミンは、驚き騒いで、
他の者達も、同じ様な意見であったが、
当事者は違った。
「スホミュラ姫、どうやって調べたのか、驚きです。
確かに、その通りです、、、。
私の両親は、そのガイバードとリーリアで、
間違いございません。」
「ご両親にお会いする事は可能ですか?
シーラさん。」
若い魔法使いは、目を閉じて答えた。
「、、、不可能です、、。
15年前、魔王の手により、
殺されてしまいました、、、。
私がいなければ、
死ぬ事もなかった事でしょうが、、。」
「、、、そうですか、、残念です、、。」
さすがに、メーリンも深く聞く訳にはいかない、
と、思い、その話しは、そこでやめた。
他の者達も、少し気まずい感じであったが、
その魔法使いは、場の空気感を変える為、
占いを始めた。
「、、皆さん、
せっかく、この館にいらしたのですから、
一つ、占って差し上げます。」
その意味するところは、メーリンには理解出来た、
つまり、
仲間にはならない、と言う事である。
ただ、帰したら失礼にあたるので、
占う事にしたと言う訳である。
「さて、姫、、、貴女は、一度栄光を手にした後、
黒き陰により、孤立され、、
やがて、流浪の身になるでしょう、、、。
ただ、貴女の命を狙う者達は、、
その手は、決して貴女に届く事はありません、
貴女は、非常に強力だからです。
貴女の創る軍は、とても強いからです。
そして、それは、、世界を救う事になるかも、、
しれません、、、。」
そう言い終えると、水晶玉に翳していた手を下ろし、
ひと息付き、手元のコップの水に口を付けた。
それから、再び占いを始めた。
「次に、ドリファン、、
貴方は、命を狙われています、、、、。
相手は、光の衣を纏う闇の者、、、
それは、貴方を恐れる為であり、
ただ己の恐怖心が理由です。
しかし、貴方が注意すべきは、別の者です。
貴方は世界を駆ける者となりますが、、
その暗黒戦士と対峙します、
その者が最も貴方を苦めます、、。
それは、嫉妬が理由でしょう、、、。」
ドリファンを占い終わると、
再びコップの水を飲んだ。
どうやら、彼女の占いは、魔力を使うものらしい、
そして、少しだが、疲労もするようだ。
「では、次は、ミン・シャウリン、
あなたは、近いうちに、悲しみに沈むでしょう、、、
ですが、新たな出会いも続き、
生涯の友とも出会う事になります、、
あなたは、幾度と敗北しても、倒れてはなりません、
あなたの使命は、弟を鍛える事だからです、
ですので、たとえ倒れても、
立ち上がらなければなりません、
何度でも、何度でも、、、
それが、世界を救う事になるからです。」
ミンは、少しキョトンとしていた。
「、、わたし、弟いないんだけど、、」
屋敷の主人は、薄く笑い、
「先の話しです。」
と、答えた。
答えた彼女は、いったん手を下し、
一息ついた。
そして、再び占いを始めた。
「次は、密偵のユタ、、
あなたは、近いうちに、
狭い部屋に閉じ込められ、
二択を迫られる事になります、、、
道は、その2つしか無く、、
その選択で、あなたの運命を決定されてしまいます、
一つは、困難と苦難と情の道、、
もう一つは、修羅と滅びの道、、
あなたは、このどちらの道も選べて、
それ以外の道は、ありません、、、
あなたは、賢いので、この事を理解します、、
あなたを閉じ込める部屋は、
あなたの頭の中です、、、、」
そう言い終わると、
占いを終わろうとした。
「あ,あの〜、、、わたしは、、?」
赤鎧の騎士は、恥ずかしそうに聞いた。
「、、ありません、、、」
若き館の主人は、ハッキリと答えた。
これには、メーリンも眉をひそめた。
「シーラさん、これはどう言う事でしょうか?」
魔女シーラは、少し肩をすくめ、
説明を始めた。
「騎士リンザに、ありません、と、言ったのは、、
もうすでに、彼女の行く道が決まっている、
いや、彼女自身が決めている、と、言う事です、
つまり、貴女は、
すでに道を決めており、
どの様な困難、苦難、難題を前にしても、
その意思は、決して変わらず、
何物よりも固いのです、、
それ故に、彼女に助言は必要なく、
ですので、ありません、
と、申し上げたのです。」
リンザは、顔を赤くして恥じた。
そして、メーリンは、
何とも、この若き魔女の言葉の足りなさ、
と、彼女を少し理解した。
彼女の環境のせいもあり、
人同士のコミュニケーションなど、
ほとんど取れなかったのだ、と、。
「ありがとうシーラさん、説明してくれて、
話しは変わるのですが、
私に力を貸して頂けないでしょうか?
もちろん報酬は、お出しします。
私の出来る範囲にはなりますが、。」
シーラは、深く考えていた。
メーリンは、シーラを仲間にする為、
自分に出来る最大限に、努力するつもり、
で、あったが、
予想に反して、すんなり話しは、まとまった。
「報酬次第で、お受けしましょう、、、。」
「、、と、言う事は、何か、望みの物が、
ある、、と、そう言う事ですね、、、。」
「、、はい、、物、と言う訳では無いのですが、、
、、権利を、1つ、、頂きたく存じ上げます。」
メーリンは、少し考えたが、了承する事にした。
「、、どの様な権利でしょうか?」
「、、閲覧、、王宮書庫の禁書に至るまでの、
閲覧の権利を頂きたく思います。」
メーリンは、その小さな頭の中で、瞬間的に、
多くの算段をつけ、即答した。
「わかりました、、、
私、
スホミュラ・グランダード・イースの名において、
イストニア城奪還後、王宮書庫、禁書に至るまで、
閲覧の権利を与えます。、、、
、、条件を付けましたが、
城を取り戻さなければ、
王宮書庫には入れませんからね、、、」
もしかしたら、シーラには、忍び込む方法が、
あるのかもしれないけれど、
魔王軍に、王宮書庫を注目されては、
色々と困るので、シーラには待ってもらおう、
と、メーリンは、考えたが、
シーラは、その事にも思考が、回っており、
反論も、質問も、してこなかった。
「、、では、私シーラは、微力ではございますが、
お仕えさしていただきます。」
こうして、メーリンは、
迷いの森の魔女を、仲間にした。
第2話 完




