この恋は絶対に叶わない
僕は今恋をしている。でも、僕の恋は多分叶わない。いや、絶対に叶うことはない。
ところで恋というのはしばしば人を成長させてくれる、前向きな物として語られる。好きな人に振り向いてもらおうと、自分を磨くことは、その人自身の成長につながるし、相手のことをもっと知ろうと、観察することで、人を見る目が備わると思う。それは確かにその通りだと思う。
でも、そういう恋ばかりじゃないということを、僕は自分自身の恋で知った。
この恋で僕は多分、何も得ることなどできない。
ここまで話して、なぜ僕が、自分の恋が叶わないと言っているのか、気になってきた頃だろう。
僕がただ卑屈になって自信を失っているだけ、そんな風に捉える人もいるかもしれない。
確かにそういう人も居ると思う。
自分の好きな人にすでに恋人や好きな人がいる、好きな人に一度振られてしまっている、好きな人と随分遠くに住んでいる、好きな人が有名人である、こんな事情から自分の恋が叶わないと、僕のように卑屈になっている人は少なくないはずだ。
でも、僕に言わせれば、そんな人にはまだ可能性があると思う。0ではない。人の気持ちというのは変わりやすいものだから、今片想いでも、努力していればいつかは両思いになれる可能性は0ではない。有名人...は、流石に可能性は相当低いと思うが、生きて同じ世界に住んでいる以上、どこかで会える可能性は全く0ではない。
ここまで読んできて、僕の好きな人が一体どんな人なのか気になってきた方もいることだろう。今、“生きて同じ世界に住んでいるなら”と書いてあったからには、同じ世界に住んでいないのだと予想した方も居るはずだ。その考察はなかなか鋭い。
同じ世界に住んでいないと聞いて、例えば「二次元」を想像した人は少なくなさそうだ。しかし、僕の好きな人はそうではない。僕に言わせると、二次元のキャラクターに恋をした人の方が、遥かに恵まれている。コンテンツを開けば、いつでも逢う事ができるし、そういうゲームをプレイすれば、恋をして結ばれるまでの過程が体験できる。
そんな人たちとは違い、僕は好きな人にもう多分会うことはできない。
もう会えないと言ったが、もちろん、会う為の努力は欠かさずしている。その人に会うために色々な方法を模索して毎日試してきた。ネットで調べて、できる限りの方法は試したし、最後に会った時のことはメモに詳細に書き出した。寝る時間も早くして、なるべく規則正しい生活を心がけてきた。
ここまで書いたら、大体の人は僕が誰に恋をしてしまったか分かるだろう。
そう、僕の恋をした相手は “夢の中に出てきた女性” だ。
馬鹿げていると思うかもしれない。何考えてるんだと言われても仕方ない。でも、好きになってしまったのだから仕方ない。
ある時何気なく見た夢の中で手を繋いでいた女の人、目が覚めてからその人の事が、ずっと頭から離れないのだ。一度だけでいいからもう一度その人に会いたい。
なんとかして同じ夢を見る方法はないかと、色々ネットで調べた。試せる方法は試した、明晰夢とやらもやった、でも、どんなに頑張ってもあの日見た女性が夢の中に現れたことはなかったんだ。
皆さんも体験があると思うが、夢の中の記憶って、大抵は曖昧だ。朝起きた頃には夢の中に出てきた人の顔なんてぼんやりしている。細かい記憶を頼りにどんなにその人を思い浮かべても、その時夢に出てきた人が同じ人であるという確証は持てない。
だから、多分僕はこれからも彼女に会うことはできないだろう。多分この恋を叶えることはできないだろう。その人は、目が覚めた途端に消えてしまった、いわば死んでしまったも同然なんだから。
でも、いつかまた、もう一度その人に会えると、わずかな希望を信じて、毎日寝床につく。
あの日見た夢の続きを見られると信じて。
筆者がこれまで好きになった人は全て生身の人間でした。このお話はフィクションです。