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 実家に帰って、綺麗に掃除された部屋に入れば、電話がかかってきた。


 引越しの日以来連絡を取っていなかったのに、なんで毎回こうもタイミングがいいのか……出るか迷ったけれど、ここで出なかったら繋がりが切れてしまう気がして通話ボタンを押した。


 目の前には、今日は出かけると聞いていた彩未の姿。

 会いたかった、と泣く彩未を抱きしめたかったし、どうしようもなく期待してしまうけれど、落ち着け、と言い聞かせる。

 彩未はスキンシップが多くて感情表現が素直なだけで、私に対する特別な感情なんてない。小さくてふわふわしていて、守ってあげたくなるような、そんな女の子。

 彩未のわがままをはいはい、って聞くのが好きだったし、そばにいられれば幸せだったけれど、親友として伝えられる好意が嬉しくて、辛かった。


 最近彼氏との写真が投稿されないな、と思っていたけれど、別れてたのか……可愛いし、ちょっとわがままだけれど、性格もいいからきっとすぐに次の相手が出来るだろうな。私が男なら、誰よりも大切にするのに。


「彩未ごめん。これからちょっと予定があるから、出かけるわ」

「え、うん……」


 これから彩未も共通の友人に会いに行くことになっている。私が県外に行くことをすごく心配してくれていたから。


「じゃあ、また……元気でねー」

「うん」


 窓を閉めて、遮光カーテンを閉めれば気が抜けて、その場に座り込んだ。上手く笑えてたよね? 



「晴佳、久しぶり!」

「久しぶり」


 ファミレスに行けば、真希はもう着いていて、メニューを渡してくる。


「髪切ったんだ? イケメンじゃーん」

「そう? ありがと」


 離れていた間にお互い色々あって、話は尽きない。明るい真希といると、元気が出るから助かる。


「彩未と会った?」

「あー、うん。会うつもり無かったんだけど、会っちゃった」

「どうだった?」

「可愛かった」

「いや、そういうこと聞いてるんじゃないし」


 そんなに呆れたように見なくても良くない? 久しぶりに見た彩未は可愛くて、こんなに可愛くて大丈夫かなって心配になるくらいだった。

 もしまたバイトを始めるなら、遅い時間に帰るのはやめて欲しい。もう迎えに行ってあげられないし……


「離れて、気持ちに変化は?」

「ないかな。むしろ会えない分余計に、って感じ」

「まあ、それも予想出来たことか。彩未が別れたの、知ってる?」

「うん。来る前に聞いた」


 今までも、彼氏と別れては喜んで、新しい彼氏が出来て絶望する、という事を繰り返してきた。別れて傷つく彩未を見るのは辛かったし、傷つけた相手がどうしようもなく憎かった。


「気持ち、伝えないの?」

「伝えない。彩未を困らせたくないし、1回振られてるしね」

「え!? 嘘!! そんなの知らない」

「言ってないからね」


 彩未から離れた方がいいのかも、と思い始めたキッカケだし。


「それって、聞いても大丈夫なやつ? 傷口を抉っちゃう?」

「あはは、もう平気。知りたい?」

「知りたい!」


 身を乗り出してくる真希に苦笑する。


「そんなに大した話じゃないけど、高二の時に、振られてものすごく落ち込んでた彩未を見ていられなくてさ。私にしておきなよ、って言ったんだ。私なら絶対傷つけないし、誰よりも大切にする、って」

「それで??」

「晴佳が男なら、それか私が男なら、晴佳しか居ないのになー! って言われた」

「おぉ……」

「本気には捉えて貰えなくて、そこで引いちゃったんだよね。女同士だっていいじゃん、って、言えなかった」


 ずっとそばにいられるなら親友のままでもいいのかな、って思ったのに、やっぱりそれだけじゃ嫌で。うじうじしてるうちに彩未には新しい彼氏が出来てしまった。

 踏み出せない自分にも、彩未が傷つくことがわかっているのに、早く別れてしまえばいいのに、と祝福できない自分にも嫌気がさした。


「このままだといつか彩未を傷つけるな、って思って、今に至る。さっき泣かれたから、結局傷つけたんだけどね」

「え、彩未泣いたの?」

「うん。いつもは抱きしめてあげられるけど、今日は窓越しだったから見てるだけしか出来なかったけど」

「いつも!?」

「え、うん」


 別れるとよく泣いて、慰めているうちにスッキリするのかスパッと切り替えていた。あの切り替えの速さは凄いと思う。


「私は彩未が泣いたところなんて見たことないけど」

「強がりだからねぇ~意地っ張りだし、頑固だし」

「それは晴佳もでしょ」

「まあね。でも彩未よりはマシ」


 彼氏の前で弱い所を見せられてるのかな、って心配になるけれど、見せられてる、って言われたところで苦しくなるだけだから聞けないけれど。



「ただい……」


 真希と別れて、玄関を開ければ見覚えのあるパンプス。もう一度出かけようとドアを閉めようとしたら彩未が顔を出した。


「晴佳、おかえり」

「こんな時間になんでいるの?」

「待たせてもらおうと思って連絡したら、ご飯用意してくれるっていうからご馳走になってた」


小さい頃から可愛がっている彩未が久しぶりに来たから、きっと張り切ったんだろうな。


「そう……」

「また黙って行っちゃうつもりだったでしょ? ちゃんと話したいな、って」


 逃がしてくれそうにないな、と諦めてリビングに行けば、両親がテレビを見ていて、逃げきれなかった私を面白そうに見ている。娘の味方じゃないの……?


「あー、部屋行く?」

「うん」


 ここで話すなんて絶対嫌で、仕方なく部屋に連れていけば、なんの躊躇いもなくベッドに腰掛けて見上げてくる。


「晴佳、なんで黙って居なくなったの?」

「電話で言った通りだよ」

「実家だと甘えちゃう、ってやつ? 本当にそれだけ?」

「それだけ」


 久しぶりに触れる距離にいる彩未に理性は結構ギリギリで、早く帰らせるにはどうしたらいいか、ってそればかりを考えていた。


「ちゃんとこっち見て言って」


 真っ直ぐ見つめてくる彩未が可愛くて、目を逸らした。


「ねえ、私が何かした? ちゃんと言ってくれないと分からない」


 彩未の言うことはよく分かる。でも、言えないこともあるんだよ……

 言ったところで困らせるだけだし、結果なんて分かってる。さて、どうやって納得してもらうかな……

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