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【完結】近くて遠い~離れて気づくもの~  作者:
本編

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新作を始めました。お楽しみ頂けたら嬉しいです。

 小さい頃は、本気で彩未(あやみ)と結婚できると思っていた。

 "あやちゃんとけっこんする!"と言う私を微笑ましく見守ってくれていた両親も、彩未の両親も、私がある程度の年齢になっても結婚できると信じていたら、時折悲しそうな表情を見せるようになった。


 現実を知ってから、同性同士は結婚が出来ない、と言うのを伝えるべきタイミングを見計らっていたのだと気づいた。


「本当に彩未ちゃんには伝えないで行くの?」

「うん。向こうに着いたらメッセージ送るつもり」

「そうか」


 高校を卒業して、県外の会社に就職するために今日家を出る。

 決心が鈍る気がして、彩未には伝えていない。物心ついた時から一緒に過ごして、彩未の事は誰よりも知ってるって自信を持って言える。もちろん、彩未の彼氏よりも。


「じゃ、行ってきます」

「気をつけて」

「着いたら連絡するんだぞ」

「うん」


 駅まで見送りに来てくれた両親と別れて新幹線のホームに向かう。3時間くらいかかるから着くのは夕方かな。


 新幹線の中で、スマホに保存された彩未の写真を眺めれば目の前が滲んで、慌ててスマホをしまった。



 ワンルーム寮の自分の部屋に着いてベッドに寝転べば、ちょうど彩未からメッセージが届いた。なんてタイミング……

 ボーッと眺めていれば、既読がついているのに返事がないからか電話がかかってくる。暫く放置していたけれど、何度もかかってくるし、このまま出なかったら家に行っちゃうかもしれない。私の口から伝えなきゃいけないと思うし、出たくないけど、出るか……


「もしもし」

『やっと出たー! 晴佳(はるか)、今出かけてるよね??」

「うん」

『電気ついてないからさ。何時に帰ってくる?』

「ごめん、帰らない」

『あ、どっかに泊まり? 明日は?』

「あー、しばらく帰る予定無いんだよね」

『……は? え? どういうこと??』


 彩未の混乱している様子が目に浮かぶ。


「今日引っ越した」

『なんで?? 会社、家から通えるのに』

「ごめん。彩未に伝えてた会社はそもそも受けてない」

『……受けてない? え??』


 県外に行くことは随分前から決めていたけれど、もし彩未に引き止められたら決心が鈍るから隠していた。引越し先を教えるつもりは無い。


「私の話はいいけど、今日はどうしたの? 彼氏とデートだったんでしょ?」

『まぁ……でも、今はそんなのどうでもいい』


 彩未とは家が隣だから彼氏と一緒のところを目撃するなんてしょっちゅうだったし、キスシーンなんて見ちゃった日には絶望感でいっぱいだった。


『どこに引っ越したの?』

「んー、県外」

『県外のどこ?』

「秘密」

『なんで……』


 なんで、には色々と含まれている気がした。少しは寂しい、って思ってくれるかな……


「私も独り立ちしなきゃなぁって。実家にいると甘えちゃうからさ。約束してるし、年に1度は帰るから。多分年始かな」


 私が彩未を好きだから、なんて本当の事は言えない。言っても困らせるだけだし。


『はる……「あ、ごめんちょっと待って? 誰か来た……彩未ごめん、入寮説明会があるから行くわ。朝ちゃんと起きるんだよ? 元気でね」うん……』


 彩未が何かを言いかけていたけれど、誰か来た、と嘘をついて電話を切った。声を聞いただけで会いたくて、自分で決めたことなのに、そばに居たかった、なんて意思の弱い自分にうんざりする。これ以上そばに居たら彩未の幸せを邪魔してしまいそうで怖かったから、これで良かったって信じてる。



 彩未に会わない日々が始まって、心にぽっかり穴が空いた。

 こんなに長い間会わないなんて初めてだったし、分かっていたけれど、相当依存していたんだな、と実感した。


 仕事でミスをした日や嫌なことがあった日には彩未に連絡をしてしまいそうになったけれど、連絡をしない、と決めていたからグッと我慢したし、彩未から連絡が来ることも無かった。黙って居なくなったこと、きっと怒ってるんだろうな……


 SNSに投稿される彩未の笑顔を見て、私が居なくても元気な様子に安心しつつ、どうしようもなく寂しかった。



「晴、青木さんの告白断ったんだって?」

「は? なんで知ってるの?」

「うちの部署のエースだよ? イケメンだし。青木さんでも落とせなかったって噂になってる」

「うわ、めんどくさ……」


 部署の忘年会があって、1年目だし不参加なんて出来るはずがなくて渋々参加していたら、隣に座っていた同期が噂になっていると教えてくれた。


「でもまだ諦めてないっぽいよ?」

「はぁ……勘弁してよ」

「試しに付き合ってみたら? イケメンだし」


 イケメン好きだな……

 断ったのに、私のどこがそんなにいいのやら……他にもっといい人がいるのに。


「晴佳ちゃん、ちょっといい?」

「はい? ……あ」


 呼ばれて振り返れば、この前告白をしてくれた営業部の先輩が立っていた。このタイミングで? 周りに沢山人がいるんですけど……


「なになに、 青木君、振られたんじゃないっけ?」

「リベンジ? リベンジしちゃう?」

「青木さん、ここどうぞ!」


 うわ、裏切り者……! ニヤニヤした同期が席を譲ってしまって、青木さんが隣に座ってくるし、既に酔っている先輩達の囃し立てる声に、外に出ましょう、というタイミングを完全に失ってしまった。


「お前ら、うるさい。あっち行け」

「あっち行け、ってここが席なんだけど!?」

「いやいや、こんな面白そうなイベント見逃せないでしょ」

「営業部のエースと顔面国宝の新人、眼福ー!」


 顔面国宝って何……初めて聞いたんですけど。青木さん、いい人なんだけどね。彩未を忘れるために付き合おうか、と考えたけれど、青木さんとキスができるかな、と考えた時に浮かんだのは彩未の顔で、無理だなって思ってお断りした。


「晴佳ちゃん、騒がしくてごめん。諦めが悪くて申し訳ないんだけど、この間の話、もう1回考えて貰えないかな?」

「……ごめんなさい」

「お試しとかも無理?」

「はい。ずっと初恋の人が忘れられないんですよね」


 私の言葉に、周りの方が盛り上がっている。楽しそうで羨ましい。私もそっち側が良かったなぁ……


「それでもいい、って言ったら?」

「すみません」

「そっか……どんな人?」

「一緒にいるだけで心が温かくなる、太陽みたいな人です」

「そんな風に笑うんだね。……本当に好きな事が伝わってくるよ。教えてくれてありがとう」


 先輩は諦めたように笑って、席を立った。かける言葉が見つからなくて、ただ黙っているしか出来なかったけれど、様子を見ていた酔っ払った先輩達に連れられて離れていった。


「晴、初恋っていつから?」


 隣でやり取りを楽しそうに見ていた同期が興味津々、というのを隠さずに聞いてくる。


「え? 幼稚園の頃とかかな? その頃からずっと、結婚する! って親に言ってたからな~」

「長っ!!」


 改めて思うと長い。これから先、彩未以上に誰かを好きになることなんてあるのかな……離れたことで余計思いが募って忘れられる気がしなかった。

 今の彼氏とは長いし、そのうち結婚式とか呼ばれるのかな……つら……


 親と年に1度は帰る、と約束をしているから年始に実家に帰るけれど、彩未に会う勇気はない。おばさんに連絡して、彩未が出かける日があるか聞いてみよう。

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