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花束は『スイートピー』

作者: のた

※この物語はフィクションです


「愛してる」

それは突然言われた言葉だった。俺も愛してると言おうとしたが恥ずかしくて言えなかった。そのたった一言が

でも、俺は後悔することになる。愛してると言わなかったことを。


プルルルルプルルルル

ん?電話だ。珍しいな

ガチャ

「はい。西宮です。」

「西宮優様でしょうか??立川総合病院の者ですが奥様が____!!」

俺は会社を早退し急いで病院に向かった。芽衣花はボールを取ろうと道路に飛び出した子供を庇い事故にあったらしい。芽衣花どうか無事でいてくれ…!!



ガラッ

「芽衣花!!!」

駆け込んだ病室には彼女の家族がいた。

「…ご無沙汰しております。」

義父母に挨拶をし芽衣花に話しかける。

「芽衣花 大丈夫か?」

だが、俺が話しかけると先程まで笑っていた芽衣花の表情が一変した。

「……お母さん。この方誰?お母さんの知り合い?」

その言葉に心臓が嫌な音を立てた。

「芽衣…花?何を……言っているの?この方は」

「私の知ってる人なの?でも、こんな人見たことないよ」

「芽衣花、優くんは」

「あ!すみません。違う芽衣花と間違えてしまったみたいです!本当にすみません。いやー、芽衣花が実はここに入院していて…名札を見て、病室を間違えてしまったみたいです。すみません。では僕はここで…」

咄嗟にでた言い訳はなんとも苦しいものだったがこれで乗り切ったと考えたかった。言い訳がスラスラ出てくるのは我ながら凄い。それよりも芽衣花の事だが…もしかして彼女は…

考えながら去ろうとした時にドアが空いた。

ガラッ

「お話中失礼致します。ご家族の方、少しお時間よろしいでしょうか?」

芽衣花の担当医と思われる人が入ってきた。入るタイミングが良すぎて廊下で待っていたのかもしれないと思うと申し訳なくなる。



「坂口芽衣花さんの問題についてなのですが…特に異常は見当たりませんでした。なので、普段の生活に支障はありません。ただ……先程の会話を少し小耳に挟んでしまったのですが……単刀直入に申し上げますと、坂口さんは西宮さんの事に関しての記憶を喪っているかもしれません。」

ああ、やっぱりか。予想はしていた。俺の姿を見てもわからなかったのだから。でも、医者に言われてしまうと現実味が増してしまう。

「……!!」

「そんな!だって優さんは…あんなに芽衣の事を…」

「落ち着きなさい…」

「そんな、落ち着いてなんて…!」

「お義母さん!!僕は大丈夫です。」

義母を落ち着かせるように笑って言った。今の俺にはこのぐらいの気遣いしか出てこなかった。頼むから静かにしてくれないか

「優さん……」

もしかしたらこれは悪い夢なんじゃないか?悪い夢なら早く覚めてくれ…そう何度も何度も願っていた__


「優くん少しいいかね?」

夢なら覚めてくれそう願っていると義父に話しかけられた。

「はい。大丈夫です。あの、どうされました、?」

目の前には不安そうな顔をしている義母が座っていた。

「優さん…芽衣に…優さんの事を思い出させるかどうかは…優さんに任せようと思うの」

「僕に…ですか?」

「ああ。母さんと二人で話し合ったのだが、こればかりは私達にはとても決められない。当事者である優くんに決めてもらいたい」

「………少し時間をください、。」

言葉を言い残し俺は席を立った。二人は今にも泣きそうな顔でそんな俺を見つめていた。

そんな顔をしないでください。泣きたいのは俺の方なんですから…


その夜俺は寝ることを忘れただひたすら記憶喪失について調べていた。そこには

〔自然回復で治る人もいるが酷い人だと精神ダメージが大きくて入院する可能性がある〕

と書かれている。

入院……彼女をか…?全てのことを忘れているのだとしたらゆっくりでいいから思い出させたのかもしれない。いや、もう一度一から思い出を作ったのかもしれない。が、今回は俺にまつわる記憶だけがなくなってしまっている。そんなの…答えは1つしかないようなものじゃないか

「ハハッ、調べなきゃ……良かったな」

調べた事により決断が揺るぎ後悔をした。俺はその日一睡も出来ずにずっと考えていた。

朝になり起き上がると枕が少し濡れていた。

プルルル プルル ガチャ

「はい。坂口です。」

「あ、もしもし。お義母さんですか?西宮 優です。実は、芽衣花さんについてのお話があります。お時間はいつ頃大丈夫でしょうか。」

俺はどうするかを決心し揺るがないうちに義母に会う約束を取り付けた。



「今日は来てくださりありがとうございます。」

「いえ…こちらこそありがとう」

義母の顔は今にも泣きそうだった。義母はとても優しく、いつも俺の事を心配し気遣ってくれていた。義母と芽衣花が作る肉じゃががとても大好きだった。そんな義母にこんな話をするのは心苦しいが俺は昨日固めた決心を言い放った。

「お義母さん。俺は_____」



数年後



「お母さーん 本当に大丈夫?変じゃない??」

「えぇ…とても、とっっても綺麗よ。芽衣のウエディングドレス姿を見れるなんて思っていなかったわ…」

「私も!夢にまで見たウエディングドレスを、まさか私が着れるなんて思ってもなかったから嬉しい!!」

コンコン

「誰だろ?はーい」

ガチャ

「………?どなた…ですか、?お母さんの知り合いの方?」

「優…さ、」

自分の名前を呼ぶ声に反応した。何年ぶりなのだろう。見ないうちに少し痩せたようにも見える。

「あっ…ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」

挨拶を交わしゆっくりと目線を下げると…思わず息を飲んでしまった。彼女のウエディングドレス姿はとても綺麗だ。輝いている。

「ッ…、め……初めまして。西宮と申します。この度はご結婚おめでとうございます。これ、結婚祝いの花束です。直接お渡ししたくて来てしまいました。準備中にすみません。」

「西、宮さん?これは…スイートピーですか??ありがとうございます!こんなこと言っては何なんですけど、西宮さんとは初めて会った気がしないです!」

初め会った気がしない…か。その言葉は嬉しかったがその屈託のない笑顔で俺と一緒に着るはずだった純白のドレスを着て言われてしまうと胸がチクリッとなる。

「あぁ…、ありがとう、ございます。こんな綺麗な花嫁さんに言われてしまうと惚れてしまいますよ」

「綺麗だなんて…ふふっ冗談がお上手なんですね」

冗談じゃない。これが今俺が言える精一杯の本心だ。これ以上ここに居ては彼女を抱きしめたくなる。

「では、さようなら」

俺はさよならを告げ逃げるように立ち去った、。どうか、ずっと幸せでいてくれる事を願っています。

「え……あ、待っ」

バタンッ

「急な来客で驚いたわ。芽衣 その花束貸してちょうだい。あなたは用意があるでしょうから私が持っておくね」

差し出した手を取らない芽衣を不思議に思った。

「…芽衣?」

「ッ…アッ…」

花から視線を移すと芽衣は泣いていた。

「芽衣!!?どうしたの?、」

「わからない、わからないんだけど涙が止まらないの、さよならを言った笑顔が目に焼き付いて離れないのっ…」

「芽、衣…あなたは、誰よりも幸せになるのよ」

涙が止まらないのはきっと記憶を喪う前に愛していた西宮さんに会ったから、さよならを告げられたからだわ…無意識に西宮さんの愛に気づいて、そして愛していたのね…花束はスイートピー。ごめんなさい西宮さん…ありがとう、。

娘を腕の中に入れ背中をさすりながらそう思ってた___ 。




『おめでと~ざわざわ』

今日は快晴で太陽が輝いていて雲ひとつない青空だ。そんな青空が眩しい。

結婚式がじきに終わる。彼女が昔俺に向けていた表情を今、知らない男に向けている。事故の前日にはっきりと「愛してる」と伝えていれば俺の事を忘れたりしなかったのだろうか。今この瞬間、彼女の隣に立って幸せにしているのは自分だったのだろうか。数年も経ってそんな後悔をぼんやりと考える。

きっと俺は人生で一番愛した人を喪ってしまった。

「ありがとう芽衣花 さようなら」

小さく呟き俺は会場を去った。だか目の前はぼんやりとしている。

あぁ、雨が降っているのか___


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