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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

社会の屑扱いされて、監獄にぶち込まれた魔力無しだけど、魔術師の屑と組んで、これから無双します。

作者: 端乃 一也
掲載日:2021/02/06

 

「……兄貴!」


 ――暑い。

 まだ春先だってのに、何だ? この暑さは。

 こういう日は、働かねぇんだよ普通は! それが何で(くわ)を振るっているんだ、俺たちは?数十人の屈強な大人達が、整然と横一列に並んで黙々と!

 顔を上げれば、視界の端。農地と監獄を囲む巨大な壁を背にして、看守は居眠りをこいている。あんなので、食い扶持が稼げるんだから、この国は腐ってるんだよな。



「クロウの兄貴!さっきから曲がってますぜ!鍬が!……ってこっちに振り下ろさないでくだせぇよ!危ねぇなぁもう」


「――ん? あぁすまんな、ガブ。お前はチビだからみえねぇんだよ」


 話しかけていたのは小鬼(ゴブリン)のガブ。この監獄での同部屋だ。

 しかし、こいつの甲高い声にも気づかないとは、いよいよもって俺の頭もヤバいかもしれない。


「まーた()()ですかい? 片手で鍬をふるっちゃってまぁ! どんなに鍛えてもあの突っ立てる、魔傀儡(ゴーレム)には勝てねぇですよ!」


 ガブの視線の先。看守の横に佇む怪物。


 ――魔傀儡。

 人数の少ない看守が居眠りできる理由がそれだった。

 体は燃えない錆びない魔法銀(ミスリル)、がらんどうの中身、普通の人間の二回りはある巨躯。まるで腕は大男の(ケツ)だ。それに、魔術師が一度力を込めれば、元の魔力が乱れぬ限り動くことをやめない。

 他の連中はすっかりあの巨体に(すく)んでしまっているが、本当に厄介なのは別にいる。なんたって、この監獄に国でも数少ない、才能ある魔術師が在中している証拠。こんな辺境の監獄にご苦労な事だ!


「あいつはなぁ、案外端っこは脆いんだぞ、ガブ。あの腕と足の付け根よ」


「はぁ! 確かに他よりは細せぇや。……んで、斬ったんですかい?」


「一度だけな!」


 剣しか取り柄のない俺の唯一の自慢。付け根の部分ではあるが……。

 これだけは、決め顔で言っても許されるだろう。


「そりゃすげぇや! なら今日まさに、その手の鍬で二度目に挑戦するって事ですかい! 応援してますよ!」


 無言でガブの頭を殴る。全然信じていないのだ、こいつは。

 ……まぁ小鬼は、金と宝石しか信用しない種族だから、口で言ったところでだ。


 ――剣さえあれば。

 一体壊したところで脱獄が叶うとは思わないが――



 どうにも、ダメだね。今日も諦めて鍬を振るう事にする。

 あーあぁ! 糞魔術師どもさえこの世にいなければ、こんな人生ではなかっただろうに!






 □






 夕刻。

 遠くに見える山の稜線が赤く染まる頃に作業はやっと終わる。

 苦役を終えて、与えられた簡素な食事を小汚い牢屋で喰っている時も、考える事は一つだ。


 ――魔術師、そう魔術師だ。


 この監獄にぶち込まれた連中に共通点は三つある。

 学がない事、魔術を憎んでいる事、全く魔力が無い事だ。

 魔力が無い者は下級市民と呼ばれ、将来は最初から決まっていた。少し頭と家がマシなら商人、あとは兵士か、農民。もちろん、どんなに成り上がろうが魔術師の下。

 当然、俺が選んだ職は……。


 ゴロツキ、チンピラ、不良、いわば不逞(ふてい)の輩。孤児院で物心つく時には、()()()()から声はすぐにかかったね。なんたって、その頃には町で、一番剣が使えたんだからな。

 そんな折だ、孤児院の子供(ガキ)に魔術師がちょっかいをかけてきたのは。

 あいつらが、()()されていたか、なんて考えたくもないね。声を上げない事にも苛つくが。


「――んで、その魔術師の腕を斬っちまったって話だろ?いかれてるぜお前さんはよ! まだ二十そこらだろ? 俺なら命が惜しいぜ!」


 獣人で栗色狼(ウェアウルフ)のダグは、誰の話にもキャンキャン気さくに反応する、良い奴だ。


「性分でね。すぐ頭にくるんだよな、弱い者虐めはな! それに、全ては俺の物だってツラがムカついたんだよ」


 全く世界は平等じゃない。

 そんな事は、はなから分かってるが、魔力ってのが一番どうしようもない。


「だがよ、俺は震えちまったよ! お前がここにぶち込まれてきたとき! あの片腕の火傷って言ったらまぁ! でけぇ貸しだよ!」


「あっちょっと! その汁の芋、あっしにくだせぇ芋がね、好きなんですよ!」


「おい!盗るなよ!ガブ!まったく(いや)しい奴だよお前は!」


 ……四つだったな。あと騒がしい。

 横から話に加わるのはダグと同じ栗色狼(ウェアウルフ)のドグ。娑婆では二人で山賊をやってたらしい。まぁ、ここの住人の殆どが、下級市民以下、生まれはドブのチンピラだ。まともに稼いで生きていける訳もない。


「あっそうよ! そうそう! ちょっと小耳に挟んだんだがよ、『処刑』が近いらしいぜ」


 噂好きのドグの事だ、これが喋りたかったんだろうな。さっきからずっと尻尾が(せわ)しなかったからな。

 しかし、処刑か。

 俺は、ここに来てから二月(ふたつき)しか経っていない。まだ、俺の番ではないと思いたいが……。


「おいおいおい!止めろよ!そんな辛気くせぇ話はよぉ! 飯が不味くなるぜ……。まぁ、俺らにできる事は黙って、目立たんようにするだけだな。黙ってれば、変に目は付けられんだろうよ」


 ――黙っていれば。

 そうだよ、それが厄介な事だった。黙ってれば喰うには喰える。魔術師からの理不尽に耐え、多くを望まなければ生きれはするのだ。娑婆の人間の殆どは折り合いをつけて生きている。

 だが、俺はそれが嫌で嫌で堪らない。

 俺には学が無いからうまく言葉にはできないが、未来が決まっちまってるのは最低だ。とにかく頭に来てしまったのだ。


「やっぱ、魔術師を全員やっちまうしかねぇなぁ」


 名案だと思う。

 連中がピタリと動きを止めた。


「だっはっはっ! クロウ!お前は馬鹿だぜ!それが出来ねぇからここに居るんだろうがよ!」


「一人でやるんだなぁ! 命は一つ!あんな火だしたり、雷落としたりする連中にてめぇから挑みたくねぇな!下級市民は下級市民よ!生まれも悪いし力もねぇ!」


「ちょっと!? 良いんですかい? みなさん食べないなら、残りはあっしが全部いただきますよ!」


 俺が魔術師を斬った時も半ば不意打ち。

 その後、しっかりと放たれた炎で腕を焼かれたのだ。はっきり言えば正面から戦って勝負になるわけがない。

 こっちも魔術師を味方にする……? 馬鹿馬鹿しい妄想だな。

 数百年続く利権を捨てて、魔力無しのド底辺(クズ)に味方をする大馬鹿野郎がいるとは思えない。

 溜息しかでねぇ。

 そもそも、この監獄から、逃げられるかも分からんのに。


「おい、ガブ! お前は明日の朝飯、抜きだからな!喰い過ぎだ!馬鹿!」


「痛てぇ! ちょいと止めてくださいよ! みなさん返事をしねぇから!」


 監獄の中にだって、平和な時間はある。だが、長くは続かないんだよな。それは、外も同じか……。








 □







 ――おかしい。

 ある日の朝食後、いつもなら、もう出役の時間だってのに牢の鍵は開かない。

 鉄格子付の小窓の外は晴天、休みになる理由がないんだが。

 まぁ、別に労働がしたいわけじゃないから、どうでもいいな。寝ちまおうかな。

 なんだ?ダグとドグが鼻先をヒクヒクと動かしている、しかしまぁ完全に犬だなこうやって見ると……。言うと怒るが。


「あぁ!おりゃダメだ、この臭い!もう勘弁してくれ!」


 叫ぶと、牢の隅で震えだすダグ。ドグも後に続いた。何の事やらだが?


「兄貴は初めてでしたねぇ。窓から中庭、見てみてくださいよ、そっとですよ!」


 ガブも何やら怯えているのか、複雑な表情だ。そっとってもここは二階だぞ?誰と目が合う訳でもないだろう。

 言われた通り、中庭に目をやる。庭なんて言ってもただの砂地、しかもだだっ広い。それを囲む監獄が見えるだけの筈だ。



「――なんだよありゃ?」



 思わず呟いちまった。

 奥に向かって、人間が走っている。

 足に炎纏った人間が。それを魔傀儡達が追っかけている。人肉の焼ける臭いを感じてたのかあいつら……。

 はたから見れば、何だが間抜けな光景だ。だがあれは……。


処刑(あそび)ですよ、魔術師の。 酷いもんでしょ? 少しでも気に入らん奴は、難癖つけて殺すんですよ。追われてるあいつも、そんな大層な事やってませんぜ。いや、そりゃここの監獄全員ですかね」


 遠すぎて声は聞こえない、見れば男は魔傀儡達を搔い潜り、奥の扉の前に達していた。

 そこに赤髪にローブの人間が立っている。魔術師?


「無駄だって分かっているんですがねぇ。みんな、あの扉の前まで走っていくんですよ。そら最後ですよ」


 男が赤髪の前に(ひざまず)いている。命乞いだろうか。

 次に瞬間には、足に纏わりついた炎が一瞬にして全身を包み込み、消し灰になって文字通り消えた。


「……兄貴。悪い事は言いませんよ。静かにしてたほうが、得ですって」



 ガブよ、すまんな!

 俺は今の光景を見ても決意が鈍る事はないようだ。いや、逆に燃えてくる。あいつを、あの扉の前でたたっ斬たらどんな表情をするだろう? 何か、武器があれば俺は、あいつに勝てるだろうか? そもそも正面から挑まずに逃げることは可能か? やはり、何か協力者が必要か?


 俺は、意思を曲げて最後に跪くなんて事、絶対したくないだよ。








 □









 寝苦しい夜だった。鉄格子付の小窓からの、月の光で室内は明るい。

 夏が近づき、纏わりつくような熱気に満ちた監獄内は、正に地獄だ。

 だが、不思議な事にガブの馬鹿でかい(いびき)の中でも、連中は寝入っているようだった。

 俺は、()()から全く眠れない。

 何気なく扉に目をやる。覗き窓のついた、ぶ厚い鉄の扉、あれさえなければ今すぐにでも飛び出していくのによ。


「……って開いとる!」


「五月蠅いぞ。馬鹿者」


「おぉわっ!」


 とんでもなく間の抜けた声を出してしまった!

 しかし、扉は開いている上に、横には頭をすっぽりとフードで覆った不審人物。

 これが夢じゃなければなんだって話だ!


「目を閉じるな! ……その馬鹿さ加減、お前がフレイン家の魔術師(バカ)を斬ったクロウか? 静かに答えろよ」


 夢ではないようだ。しかし声色から察するに女か? 背格好もでかくはない。

 いよいよもって俺も可笑しくなったらしい。まぁここは監獄、溜まっちまって女の幻覚くらい見る事もあるだろう。


「お!ま!え!がクロウかと聞いているのだがぁ?」


 胸倉を掴まれた。

 とんでもない馬鹿力! 片腕で大の大人を床から引き起こせる女などいるか?


「あぁ、もういい。この牢で、人間だという事は分かっている。さっさと付いて来い。……臭いのだ、この部屋は!」


 声は心底うんざりしているようだ。

 獣人、小鬼、人間の男が一つにぶち込まれていれば、そりゃ臭うわな。

 しっかし、ああもあっさりと背を向けて牢屋の外に出ていかれると、妙な気分になってしまう。ここは監獄だったよな?

 いや……。



 ――ありがてぇ!!



 思考が鈍ってたな、何を躊躇うこともない! こんな機会は二度とない! ダグ!ドグ!ガブ! すまんな! 俺は逃げる! 所詮俺らはみな悪党、お前らだってこうするだろ?

 ここから突然全力で飛び出せば、あいつも追いつくことはできんはず!

 そうと決まれば!


「なっ!?」


 扉の横から伸びてきた足に引っ掛けられた!?

 下は石畳。


「痛てぇ!この――」


 受け身がとれなきゃ大怪我だぞ!っと危なく叫ぶところだったが、すぐに止めた。


 見上げれば、さっきのあいつ、フードの下の双眼は黄金瞳。

 暗がりでも分かる、今までお目にかかった事が無いほど整った顔たちの女に息を吞む。俺より幼い位な年恰好で、なんて威圧感だよこいつは!


「……頭と腹、好きな方を選ばせてやる。お前は、どちらを殴れば大人しく歩けるのだ?ん?」


 邪悪な笑みを浮かべた少女。

 孤児院の女たちも(たくま)しいが、こりゃ別のもんだね、こいつは何人か殺してるんじゃないのか?


「腹ぁ……じゃないって! 構えるな! そうだな、お前みたいな美人なら、横にピッタリくっ付いて貰えりゃ誰だって大人しく歩くだろうな!」


 しばらく女を見てないからってのもあるが、まぁ素直に言い過ぎたかもな。惚れられてしまうかもしれない。



「――いや、()()()()()は要らないのだが? ……屋上だぞ、早くしろ」



 女は目深にフードをかぶり直し牢の扉を閉めると、振り向いてさっさと歩きだした。

 完全に見下したような冷たい目線。

 しかも、鼻摘んでたぞ、あいつ!



 ――可愛くない女!






 □






 ――目的の場所に着いたようだ。

 途中、隙を見て逃げようかとも思ったが、ぶっちゃければ興味が勝った。

 こんな場所まで忍び込むくらいだ。相当、肝が据わってる。


 俺たちが、今立っているのは、二階建ての石造りの監獄その屋上、一番高い場所。当然だが、周りには何も無い、小さな灯りが兵舎にともるのみだ。あぁ、看守どもを見下ろすのは良い気分だな!

 そして、夜風があるだけで、全く中と温度が違う。月明かりに、思わず叫びだしたくなる。壁が無いってのは最高だ。


「んでそろそろ、自己紹介を頼みたいんだがな。……あぁ! すまんな、俺はクロウだ。あってるよ」


 なるべく気安く話しかけたつもり。

 悪党同士の会話では、角を立たせてはロクな事にならないからな。


 屋上の中心に立っている女がフードを脱いだ。

 なびく金色の長髪に瞳は黄金。気の強そうな目だ、ここまでのやり取りで性格は何となく分かっているが。


「エリザ、察していると思うが魔術師だ」


 だろうな。

 だが、こいつには敵意という物は今のところ感じない。……そんなもんあったら、牢で殺されてるか。

 しかしまぁ、意味不明な馬鹿力といい、監獄(ここ)まで入ってくるには、何かの手引きが必要だったろうに。月明かりに照らされた姿は、なんとなく高貴で……いや、こいつにはそんな言葉使いたくないね、傲慢そうだ。



「早速で悪いのだが――」



 お互い見つめ合う。

 嫌な間だ。



「――お前、一度死んでみろ」 


「あ?」


 随分間抜けな声を出したもんだと、思った時には遅かった。

 エリザが、俺の胸の中に一足飛びに、這入りこんだ。

 動きに警戒はしていたつもりだが――速い。

 初めに感じたのは刺すような痛み、そして熱さ。

 というか。


「お……い!」


 本当に刺されている!胸には短剣が突き立って刃が埋まってるじゃないの!

 完全に致命傷、気が遠くなる。手も足も力が入らない、何故だが心地よさまで感じる。

 こいつ、毒でも塗り込んでやがんのか? 本当に可愛くねぇ女!


「こっ……のっ!」


 ――あぁ良い人生だった、とは思わない。

 ん? そもそも()()()()()ならこういう時、何を考えるんだ? 走馬燈を見ようにも、俺がこの二十年でやった事は、魔術師の腕一本落としたくらいだ。……なんだいそりゃ、馬鹿馬鹿しくて、腹が立つ!


「いってぇな!この!腐れ魔術師!……あら?」


 血は止まっている。痛みも無い。

 それどころか、腕の火傷痕まで治っている!


「私の魔術は少々特殊でな。その体に触れ、注ぎ込めば、あらゆる傷病を治し再生させるが、それには強い意思が必要なのだ。痛みを超えるほどの激情、そして私の魔力に抗う強烈な自我! 力には代償、これぞ本物の魔術!」


 心底嬉しそうだが。

 こいつは狂人のようだ。歌うような演説、何か踊ってるし。

 まぁ実演されたものは信じるしか無い。

 しかしなぁ……。


「そんなもんなんで、俺で試した?」


「……このご時世に、魔術師を斬り伏せるほどの、強い意思を持つ、()鹿()がお前しかいなかった。本当に無茶、無謀、蛮勇、阿呆のタダの狂人の可能性もあったが、闇雲に試すより可能性はあるであろう?」


 何か知らんが褒められていると思う。多分。


「そんなに褒めるなよ。ちなみにそれ、失敗するとどうなる?」


「いや、褒めてないのだが……。失敗の話は、そうだな。安心しろ! 精神が侵され、物言わぬ人形になる程度だ!」


 ふふんっと自慢げだ。

 何こいつ?


「――殴っていいか?」


「元気そうだな、お前。ふむ、とりあえずは成功だな! そして今後の予定なのだが……」


「待て」


 何で、物凄く満足そうな顔してるんだ?

 俺の事を、一度殺しているんだが。


「俺が!お前に従う前提で話を進めるなよ!」


「従うしかないのだがぁ? もう私の魔力をお前の空っぽの体にぶち込んだからな。魔傀儡と同じ原理だぞ、私が死ねば、お前も死ぬな! まぁ私は死なんがぁ? お前の意思がポッきり、折れて死ぬ方が早いだろうがなぁ!」


 勝ち誇った笑顔が憎たらしい!整った顔のせいで余計だ。


「腹立つなお前ぇ……」


「良い顔ではないか! 意思に満ちている! さぁ! 私と共にこの国の魔術師を征伐する旅に出るのだ! 目指せ!魔王討伐!世界平和!」


 腰に手を当て指さしたのは、王都の方角。

 俺も人の事を言えた義理じゃないが、やっぱりこいつは頭がぶっ飛んでいるようだ。

 というか何が、世界平和だよ、胸に短剣ぶっ刺す女がいう事か?


「本当の目的を言え!本当の!」


「腹いせだがぁ?」


 ――はぁ?こいつ今なんて言った?

 国を揺るがすほどの騒動を起こそうとする理由が……。

 ムスッとした表情で、唇を尖らせながら、それも子供が拗ねるように。

 ただの『腹いせ』だぁ?


「なんだその小鬼(ゴブリン)火炎魔術(ファイヤーボール)喰らった顔は? だから、腹いせだがぁ? 魔術師の世界も階級社会、それも家柄重視のな。お前たちもそうやって区別されているだろう? だから破壊する事にした。私の魔術が最強である事を証明し、家柄だけの凡愚どもを退場させようと思ってな!」


 黄金瞳は自信に満ちて輝いている。

 こいつは馬鹿だ! 完全に!


「クロウよ――」


「四の五の言わずに手を貸せよ。魔術師の屑と下級市民(名もなき者)の屑同士で、(ことわり)を破壊しようではないか?」


 本心だろう。

 囚人の中に稀にいる、捨てる物など何も無い、ただ奪い獲る事しか考えていない、あの獰猛な目つき。


 魔術師の中にも居るんだな、こういうのが!

 良いじゃねぇか、利用されてやるのも! どっちみちこっちは、どん詰まりにいるんだ。願っても無い!

 ついでにこの、糞みたいな世界に腹いせ出来るなんて最高だろう。


「悪い顔しているなお前。やる気になってくれたようだな?」


「お前もな、邪悪な笑顔が顔に張り付いてる。で? どうする? このまま抜ける(脱獄する)のか?」


「……いや、お前には華々しい初陣を飾ってもらうよ。強烈で鮮烈な登場をしてもらう。筋書(シナリオ)は決まっているのだ。 下級市民……それもド底辺が、連れ出されてきた処刑場で突然自由の身に! 何故か手には剣! もちろん事の推移を見守っていた、高慢不遜で自信に満ち溢れた魔術師が飛び出してくる! 『俺が、直接処刑してやる!ゴミ屑が!』 絶対に負ける訳がないとたかを括っていた魔術師は!あぁ哀れ斬殺! 残るは動かぬ魔傀儡!烏合の衆!そして脱獄!……どうだ、良い物語であろう?」


 こいつは、中身と外見が全く一致してないよな。

 悪だくみをすげぇ楽しそうに話すもの。


「面白れぇけど、俺の処刑ってそんなに早いのか?」


「だから来た、そもそも魔術師(権力者)を斬ったのだ。これでも遅いくらいだろう。 十日後だ。段取りはしておくから、お前は、覚悟だけ決めておくのだぞ」


 間一髪じゃないの!


「覚悟はいつでもいいんだが、相手の名前くらい教えろよ」


「頼もしい事だな。……相手はお前が斬ったフレイン家の者、クレイ。 クレイ・フレイン。お前が、ここの監獄に送られた理由でもある。一族の名が汚され、怒りに燃えているぞ。文字通りな」


「……ここの魔術師はそいつ一人なんだな?」


「そうだが? 監獄に一人いるだけでも、相当な事だぞ? ここはよっぽど、()()()()()が集められているようだな?」


 何故俺を見る?


 しかし楽しみだ。あの赤髪の屑、クレイと対等の勝負ができるんだからな――。


「って痛てぇ!」


 ヒョイと胸から引き抜かれたのは短剣。

 すっかり、忘れていた。


「……この程度で痛がられていては、先気が不安なのだがぁ?」


 ジトっとした目つき。すいませんね!これから気を付けますよ!

 とりあえず、痛みが無くなる訳では無いって事は分かった!

 






 □








 十日、それは一瞬で過ぎた。

 季節はこのたった数日で、すっかり夏だ。


 囚人たちの日常は全く変わる事が無い。いや、あえて変化をさせない事にしているのだろう。

 俺たち厄介者が不満を抱かぬように効率よく閉じ込めておく監獄。


 そして、それ(日常)を突然奪う理不尽に快楽を得ているに違いない。


 良く晴れた日、ちょうど今日の筈だ。

 朝飯を食べた後、いつもとは違いまだ出役(しゅつえき)の時間でもないのに、看守の足音が石畳の床に反響し近づいてくる。

 囚人たちにとって、恐怖の時間。みな、何処の牢の前で足を止めるか聞き耳を立てている。


 ダグもドグもガブも気が気でないようだ。


「連れ出しじゃねぇですか?ここじゃないといいんですがねぇ」


「処刑たって、そんな睨まれるような奴はよ……」


 来たな。やっと来た!


「おいおいクロウ!勘弁しろよ!何笑ってんだ気が触れちまったかい!こいつは!」


 足音が止まった。

 扉が開く。


「クロウ、出ろ」


 普通ならば、ここで絶望の表情を浮かべるのだろう。

 だが、俺は笑った。


 ――今日、死ぬ覚悟は出来ている、何度でも。


「出所みたいだな、お前ら世話になったな!」


 牢の全員が悲壮な表情だ。本当に気が触れたと思われたのだろう。

 看守までもが顔を見合わせている。


「次は、外で会おうぜ」


「……もういいだろう。手を出せ、クロウ」


 両の手に重たい鉄の錠。

 看守たちが歩き出す――。






 □






 眩しい。照り付ける日差し、雲一つない。

 処刑場は監獄中央のただの砂地。

 横をみれば、壁に沿って周りをぐるりと魔傀儡達が囲み、逃げ場はない。上では、牢の小さな窓からほかの囚人達が覗き込んでいる。流石に、手を振ったら殴られそうだから、やめておくかな。


 中心には、俺を縛り付けるための円柱状の突き立った鉄の杭。そして、それに寄り添うようにまた魔傀儡、魔術師たちが増長するのも分かるな、これだけあれば兵士なんかいらんだろ。


 しっかし、あてが外れた。処刑方法は毎回違うらしい。

 あの杭……なるほど、悪趣味だ。俺は(まと)か。

 炎の魔術で杭ごと燃やす。

 鉄が溶けるほどの高温であったなら、体に張り付いて絶命と言ったところか?


「ほら、とっとと歩け!」


「押すなよ。言われんでもさっさと済まそうぜ」


 こんなお誂え向きの舞台で、戦えるのは望むとこなんだが……。剣を振るうのは久々だ、鍬とは重心が全然違うんだよなぁ。だが肝心のあいつ(エリザ)は本当に現れるのだろか?あいつが鉄の錠を解き、剣をほおってくれなきゃ……。

 延々と、動けぬまま燃やされるのは流石に笑えない。



「……こいつは、楽しめそうにもないな。見ろよこの顔ボーっとして何処を見ているのだが」

「本当にコレがフレイン家の人間を斬ったのかねぇ」

「おい馬鹿!クレイ様に聞かれたら一族皆殺しだぞ!」

「まだ来ていないだろ、……さっ終わった終わった。離れようぜ魔術に巻き込まれたら、笑えねぇや。お前さんも楽に死ねるように、神に祈っておけよ。……聞こえちゃいねぇか」


 縄じゃないのかよ!後ろ手に柱に鉄の錠を繋ぎやがった!

 しかし勝手な事言いやがって。

 最も気持ちは分かるがね。何せ、看守どもは、魔術師の力を何度も間近で見てるわけだからな。





 □





 ――暑い。

 太陽は今、俺の真上にある。こういう攻めは予想外。

 処刑はすぐ始まると思っていたが。もったいぶりやがって、熱で皮膚が鉄の杭に張り付きそうだ。


 ん?……やっと来たようだ。近づいてくる人影は、熱気で揺らいでいる。両脇には、また魔傀儡か。

 そういえば、魔術師ってのはどうしてみんな黒のローブを着たがるのかねぇ。暑いだろうに。

 紅い長髪に不遜な表情の男、これがクレイで間違いないだろう。俺より少し年は上か?背も高い。組んだ両腕は如何にも自信ありげで不快。

 こいつ、絶対友人いないだろ。


 いかんな。結構遠くで足を止めやがった。少なくとも、一足飛びに飛び込んで、たたっ斬れる間合いではない。あわよくば、一太刀で決めたかったが……。

 どうにも、これ以上近づく気はないようだ。……狡猾で用心深い性格。

 結論、嫌な奴。


「――言い残す事は?」


 視線を合わそうともせず、クレイが言い放つ。俺に言ってんだよな?


「あの……なんだっけ? 俺に腕を斬り落とされた間抜けは元気か?」


 不味いな。

 こんな事なら、もう少し打ち合わせをしておくべきだった。あいつ(エリザ)は本当に現れるのか?


「安心しろ屑同士、もうすぐ会えるさ」


 何だよ、出た後の楽しみが減ったな。

 しかし、表情一つ変えんな。ワザと苛立つように大声で言ってみたが……。

 まぁ、この状況で俺を警戒する理由も無いんだろう。


「最後に、踊りが見たいな、とびっきり無様な踊りが」


 踊り?

 ボソッと呟いた瞬間、膝から下に燃え上がる炎。一瞬で、肉が焦げた嫌な臭いが鼻をつく。踊り出したくなる温度に加減してあるのか、すぐに死ねそうにないなこれ。


 今まで、いくら()()()()()をやってきたのだろう、こいつは。


「……不愉快だな、声一つ上げんとは。しかし、屑の肉は酷く臭うな! まぁ精々我慢する事だ!それがお前たち屑の、せめてもの矜持(プライド)なのだろう? 何の意味もない事だが――」


 徐々に体を上る炎。もう、俺の死を確信しているのだろう。顔色一つ変えない。同じ人間が一人、目の前で燃え尽きようとしているのにだ。

 安心した、やはり魔術師は屑だ。

 振り向き、離れていく。



 今、この瞬間しかない。いや今しかありえない。



「――おい、早くしろよ。もう十分、苛ついてるんだがぁ!」



『痛みを超えるほどの激情』、再生が始まる。


「それは悪かったっ!なぁっ!!」


 背後から、俺と柱を繋ぐ、鉄の錠が斬り壊された。予想は当たり。

 遅れて、魔傀儡が一体、崩れ落ちる。

 お前の隠れる場所はそこ(魔傀儡の中)、しかないわな。


「ほら、魔法銀の剣だ。後は好きにや――」


 ヒョイと、俺に投げてよこした瞬間、全身が燃え上がるエリザ。

 見れば、大分距離はあるが、魔術を放ったクレイの姿。


 ゆらゆらとローブだけを残して、隣で燃え続ける。

 妙に間抜けな光景だ。





「……なんだよ、魔術師も焼ける時は一緒だな。同じ臭いじゃねぇか」


 炎の中で、あの黄金瞳が輝いた気がする。……言われんでもやるっての。





 ――再生した足で駆け出す。狙いはクソ野郎(クレイ)のみ。

 とうに怒りは振り切れている。


「化け物がっ!」


 良い表情してんじゃねぇの!初めて焦ったなぁ!

 中庭の魔傀儡が一斉に動き出す。

 なるほど!時間稼ぎ!魔傀儡を盾にして術の発動。効率的なもんだ!


 魔傀儡は全て、俺に組み付こうとしている。

 ただ前に! 前方を塞ぐ、あの二体。斬り伏せれば、敵は唯一人。


 確信がある。


『魔力に抗う強烈な自我』


 今までは、出来ない理由を探していた。

 剣を両手で握り直す。

 斬れる――。


「残念だがぁ!!!」


 正面、クソ野郎の大声。大分余裕がないんだな!

 頭上からの熱風、見上げれば特大の火球。


「……出鱈目しやがるッ!」


 被害などお構いなし、掴みかかる魔傀儡ごと、全てを焼き尽くす。何処まで効率的なんだよ、こいつは!

 体が焼ける、耳もやられたのか、もう視界が――。


「当てたぁ!!どうだ!!屑!これが魔術!!これが焦熱!! そうだ!見ろ!囚人ども! どう足掻こうが!何をしようが!絶対に魔術師には勝てん!!貴様らは魔傀儡一つ倒せんのだ!!これが生まれ持って決まった力ぁ!!」









 ――痛みがあるってのは良い事だ。

 もしエリザの魔術が痛みの無い、ただの不死身なら、戦うのが馬鹿らしくなっていただろう。



 痛みが有るお陰だよ。

 俺は絶対に、こいつに負けてやらない。

 腹立つからな。


 だから、再生が始まる。

 焼け爛れた腕が、脚が力を取り戻す。

 あとは、立ち上がるだけだ。



「なっ何故っ……!屑がぁっ!!!」



 なんだよ、怯えてんなぁ!逃げるなよ今更。

 耳は聞こえる、目も見えてきた、術者の乱れのせいか? 魔傀儡は動かない、ただ邪魔だ。

 体は所々まだ燃えている。


 余計な力が入らない良い感覚。

 踏み出せば、一瞬で詰まった、二体の魔傀儡との間合い。

 激情によって、身体能力も上がっているらしい。説明しておけよ!こういう事はあの馬鹿!


 思い出したように、動き出した魔傀儡に、振りかぶり、押し付けるように力任せに一振り、剣で()()()風切り音だした事ねぇな!

 そのままの勢いで、強引に、横なぎに勢いを変える。腕の筋が、いくつか千切れるが気にしない、再生は続く。



 ――斬った。



 刃風(はふう)で火の粉が舞う。……良い演出だ。

 遅れて、縦横に両断された二体の崩れ落ちる破壊音。中身が空だから、場違いな澄んだ音がする。

 もう目の前に遮る物はない。


「はっ!!ひぃい!!!!来るな!! 何故()()()()は死なんのだ!! 魔傀儡はどうしたぁ!!俺を守れ!!」


 尻もちまでついて、怯えすぎだろこいつは。そういえば、後ろの魔傀儡達がこない。

 ……ん?たち?



「二流魔術師の技では、死んでやれんなぁ?――なぁクロウよ」



 考えてみれば当然だ。こいつが死んだら俺も死ぬ。

 自身の体に、魔術を施せない訳がない。

 こんな炎程度で、意思が砕ける筈がない。


「ちょっと遅いんじゃねぇのか?」


「お前がおかしいだけなのだがぁ? その馬鹿げた再生速度。やはり、掘り出し物だな」


 並んで立つエリザの体は、完全に色を取り戻している。

 そういえば、日の光の下で見たのは初めてだったな。

 こんな、色白で、華奢で、見た目は子供みたいなのに、心の邪悪さといったらまぁ!


「あぁ、そうだ。今更、魔傀儡達如き動かしてもどうともならないが、さっきの動きを止めた一瞬で、私が奪ったぞ? お前にはまだ、出来る事があるのか? 部下の看守どもでも呼んで泣きつくか? もっとも、もう逃げている頃だろうが」


 嫌らしい女だね。

 完膚なきまでにクレイの意思を、折り、砕くつもりらしい。


「待て!待ってくれ! 私を殺したら国が黙っていないぞ!? 他の魔術師だって!目的、目的は何なのだ!叶えてやる!だから――」


 今にも漏らしそうな顔しやがって可哀想に……。

 しかし目的かぁ……エリザが笑っている。



「ただの腹いせだがぁ?」

「まぁ、ようは腹いせだな」



「へぁ?」


 すっとぼけた声。そりゃ、訳が分からないだろうな。


「……それほどまでに、強く生きたいと思うなら。私にも考えがあるのだが――」


「ひぃっ!!!」


 エリザがクレイの頭を無造作に掴んだ。こんな屑によく触れるな、俺は無理だね。


「ふふっ!お前に強い意思があれば、死なないですむぞ?さぁ、クロウ。スパッとやれ!」


 命令されるのは癪だが、まずは記念すべき一人目だな!

 ここは、普通に袈裟懸けに――。


「おい!話が!近づくなぁっ!!!まだぁっ――」


 耳を劈くような無様な悲鳴。こいつに関しては、何も感じんな。当然の最後。

 完全に斬り抜いたのだが、クレイは叫び出す。


「痛い!痛い!いだっ!!……何で!?わっ私は、まだ生きて?体が繋がる!??生きて私は!わた……しは生きて!わたしは何を、する……つもりだ……?」


 おぉ凄い、治ってる!

 だが、地面にへたり込み、目の焦点は合わず、視線は虚空を彷徨っている。

 出来上がったのは、物言わぬ傀儡。



「ふん、やはり凡愚、魔力に支配されたな。『生きたい』だけか、最後に思う事は。よかったな、望み通り、ただ、生きていけ」



 俺は今まで、力ある者は、何か強い目的につき動かされているものだと思っていたが、どうにもこいつは違ったらしい。あの、再生の光に精神を壊されたようだ。本当に、救え無い野郎だ。こんな奴に、どれだけの囚人が、命を奪われたんだ?



「――意思なき者の、最後は無様だ」



 呟いたエリザは、少し寂しげに見える。こんな奴に、同情してるわけではないと思うが。



「さて……!」


 なんだ? 息を腹いっぱい吸い込んで?



「囚人ども!!我が名はエリザ!従者の名はクロウ!!今から魔傀儡が牢を壊す!!何処へなりとも行け!そして!!語って歩け!! 意思なき力を振るう者!我らその(ことごと)くを討ち滅ぼす!」


 靡く(なび)、黄金の髪が陽の光に反射して、悔しいが、神々しく見えてしまった。


「……恰好が良いこと言うねぇ、というか、勝手に従者にすんな!」


「これからは荷物持ちもやってもらうのだがぁ?……ここの奴らにも、その気になって貰わなければな! その内、暴動なり、なんなり起こしてもらう、無論自分の意思でだ。それに名も知れれば、私たちにも都合が良いだろう?魔術師のほうから、出向いて貰えれば手間が省ける」


 絶対荷物はもたんぞ。

 まぁどの道、俺たちの行為は、この国をぶち壊す結果になるだろう。というか、監獄一つ破壊したのだ、もう追われる身、無論奴らも。覚悟を決めて貰うほかないね。悪党は、身を隠すのはお手の物だから、心配はしてないけどな!


 気づけば、心地よい風が吹き抜けている。


「……おいクロウよ。旅立つ前に服をとって来いよ。私の魔術でも、それは再生はしないからな」


 締まらないから、突っ込んでほしくは無かった。


「エリザ、その燃えないローブと、衣服を俺にも後で寄越せよ」

「嫌だがぁ?」

「……」



 ――ともかく、終わった。









 □









 まだ夕暮れ前、徐々に空が赤く染まってきたが、それでも日が長くなったもんだ。

 中庭の扉の先。

 監獄、最後の壁の前に二人で立っている。


 無事な場所はここ位で、エリザが暴れさせた魔傀儡達は、牢を破壊した後、監獄と周囲の壁を崩して周っている。その後に、囚人たちが続き、次々と脱獄していく。お礼くらい言ってもいいのにな!

 まぁ(はた)からみたら、化け物二人、逃げるが勝ちって事かもな。


「奪える物も奪ったし、そろそろいくか?」

「待て、クロウ。何か来るが?」


 近づいてくる人影は……人影?ありゃガブか?


「ちょっとちょっと!待ってくださいよ!あっしも行きますって!」


 ガブの事だから、真っ先に盗るもん盗って、逃げ出したと思っていたが。


「小鬼?知り合いか?」


「同部屋だった、悪い奴じゃないな。どうしたよガブ?ダグとドグはどうした?」


 そういや、あの二人も少し気になる。


「そりゃ逃げましたよ!二人は!あぁお礼は言ってましたよ!まぁやる事があるんでしょ!なんたって生きて出れたんだ!しかし、あんな力あるなら言ってくださいって! へへっ!お二人からは、銭の匂いがするんでさぁ!宝石がね!ザクザクと見えるんですよ!」


 流石は小鬼(ゴブリン)

 俺たち二人のあれを見て、銭の話をしだすなんて!

 エリザも横で笑っている。こういう、普通の笑顔もできるのか。


「何処かの魔術師より、よっぽど意思があるなお前は!付いてくるがいい!」

「姉さん!ありがとうございますよ!それとね!小鬼はね、力が無い分、野望はでかいんでさぁ!」


 事、交渉に関して小鬼の右に出る種族は居ない。

 しかも、ガブは物知りだから、役に立ちそうだ。頼もしいね!


「……エリザが思うよりもずっと、強い意思を持つ野郎は多いのかもな。言葉に、しないだけで」


 みな、切っ掛けを掴みたいだけなのかもしれない。


「――それを、試す旅だ」


 エリザが呟いた言葉は、よく聞こえなかった。……事にしておく。

 俺は、自分の意思を貫くだけ、できなきゃ死ぬだけだ。


 最後の壁を破壊する。別にやる必要は無いんだが、景気づけだな。

 崩れ落ち、砂煙が消えると、開けた森だ。

 もう、阻むものは何もない。


 最初に声を上げるのはエリザだ、すっかりあの邪悪な笑顔に戻っている。


「征くぞ!共犯者達よ!この意志、果てるまで!」

「へへっ!稼がせてもらいますよぉ!」


 仲間、という言葉が恥ずかしかったんだろうな。俺も恥ずかしいけど。


「なんだぁ?クロウよ、ノリが悪いのだがぁ?」


「……しょうがねぇな!よろしくな!」


 これから先の事は、全く分からない。

 未来は、もう決まってはいない。

 ただ分かっている事は、この先、どんな痛みも、超えていくという事だけ――。





 □














 社会の屑扱いされて、監獄にぶち込まれた魔力無しだけど、魔術師の屑と組んで、これから無双します。


 副題、意思と痛みと、そして共犯者。


 ~未了~



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