02.テレワーカーの叫び
働き方改革が声高に叫ばれて数年。
プレミアムフライデーよりは、浸透しただろうけど、中々テレワークが普及しなかった。
我が社では採算の悪い支社を幾つか閉鎖し、支社所属の社員はテレワークと言う名で隔離された。
つまり、オフィスに出社しないで、自宅やコワーキングスペースなどで仕事をしろってこと。
以前、ノマドが流行った頃は、手頃なカフェでは、マックブックやタブレットを開くビジネスマンが、ノートを開いて勉強する学生よりも多かった。
僕も前職では、閃きが得られることからカフェをよく利用した。
だが、今は会社の機密に相当する業務もこなしているので、人目に触れる場所は自粛している。
テレワークをするにあたり、想定される問題点。
僕は当時、本社の『テレワーク推進準備室』に五十以上の疑問点・改善案を提言していた。
しかし、娘とのLINE並みの既読スルーの如く、全く回答がないまま、テレワークが始まった。
あれから二年。
気付けば、閉鎖された支社メンバーは転職したり、寿退社したり。
社長の鳴り物入りでスタートしたテレワークをしているのは、《《国内では》》、僕ただ一人だ。
このロイヤリティの高さ、もっと評価してくれて良いのではないか?
当初は、光熱費がかかるとか、通勤手当がなくなったとか、文句ばかりの妻だったが、
掃除洗濯を仕事の合間に出来る(させられる)点や、
中学校から、体の弱い娘の早退依頼がある時に、すぐに迎えに行ける点などが勝り、
不満は聞かれなくなった。
僕自身は、一日二時間を費やしていた通勤時間がなくなったお陰で、有意義に過ごしている。
国内の同僚七十名は、何故テレワークをしないんだろうと疑問にさえ想う。
我が社は海外――ベトナム――にも拠点を構えている。
元々はホーチミンに支社があったが、都市の魅力からダナンへ支社を移転した。
実はベトナムは日本と違い、地震がなく、洪水にだけ注意すれば、大変安全なロケーションだ。
そしてダナンはIT先進都市で治安も良く、住み易い。
BCP(事業継続計画)の観点からも、優秀なスタッフに日本企業のBPO(業務のアウトソーシング)をさせるビジネス視点でもメリットが大きい。
ダナンスタッフは五十名を超え、来年度には日本国内よりも多い人員になる見込みだ。
ホーチミンスタッフは僕同様、テレワークしている。
テレワーク従事者は、日本一名(僕)に対して、ホーチミン十名。
通常業務もそうだが、働き方改革の点でも、日本よりベトナムの方が先端を行くだろう。
案外、僕達の仕事を奪うのは、AIではなく、ベトナム人かも知れない。
そんなある日、新型ウイルスの国内感染者の増加により、テレワークが加速していった。
政府主導で、強く業界団体に働きかけ、テレワークやフレックスタイムを積極的に取り入れた。
テレワークにより、休校になった子供達の親は自宅で面倒を見ることが出来る。
フレックスタイムによって、満員通勤電車を回避することが出来る。
僕は二年間もテレワークをしてきたので、いつもの日常のままだったが、
早い段階でマスク不足があり、娘の『小さい顔用マスク』の在庫も60枚を切っていた。
供給までもつか心配だったが、休校になり、外出機会が減り、その問題は解決した。
その代わり、昼食問題が浮上した。
僕一人の時は、前日の残り物やカップ麺、レトルト、最悪食べないという生活だったが、娘の健康を考えるとそうもいかない。
極端な話、娘を連れてダナンへ行った方が、僕は気が楽だった。
仕事もはかどるし、外食文化で食事にも一切困らないからだ。
だが、中国からの入国禁止が決定し、韓国・日本からの入国禁止も時間の問題であることから、難しい。
テレワークで、いつも以上に会社のLINEWORKSが活発になる。
全社メンバー宛のトーク画面。
管理部長からの新規メッセージだ。
『大変です。ウイルス被害です』
マジか! 遂に我が社にも感染者が!
よく読むと、新型ウイルスの話ではなかった。
本社(info@)からの偽装メールを開き、コンピュータウイルスに感染した話だった。
にわかテレワーカーが増えたことで、それをターゲットにした悪質メール。
「リアルもネットもウイルスだらけかよ!」
想わず、僕は自宅二階の書斎で机を叩いた。




