第8章 教皇と国王
王の宮殿。謁見の間にある女が立っていた。
それは時代の教皇ミルティアス、その人である。
白く輝くマントを纏ったその姿は美しく、妖艶に見えるが年齢は不詳だ。彼女は白い冠に長い髪を納め、その視線は凛として鋭い。
しかしミルティアスは、彼女を待たせる主を退屈そうに欠伸をしながら待っていた。
「あらま、私ったらはしたない。ウフッ。」そう言って彼女は口元を手で押さえた。
王に侍る初老の配下達が難しい顔でミルティアスを睨みつける。
「待たせたな、ミルティ。」
すると漸く国王が謁見の間に現れた。全く悪びれる素振りはないが、ミルティへに好意的な眼差しを向けている。そのハンサムな顔に齢を重ねた皺が幾つか見えるが、その姿は未だ瑞々しい。王はミルティと同じくらいの年齢なのだろうか。だがそれを測ることは難しい様に思えた。
「全くだわ、カナン。」
「ふ、不遜な!」と配下の1人が怒りを露わにした。それを手を上げながら制すると、王が言った。
「形式とは不便なものだな。君も良く知っていることじゃないか。」
王の言葉を軽く流してミルティアスは本題に入る。
「この時期だと、親善大使派遣の件かしら。」
「ご名答。」
すると「封書じゃダメだったの?」と言う様にミルティアスは溜息をつく。
「まあまあ。いいじゃないか。君に久しぶりに会えて僕は嬉しいよ。」とハンサムな王が微笑むと、少しだけミルティアスの頬が赤らんだ。
だがこの美貌の王に微笑まれば、どんな女性でもうっとりしてしまうだろう。
「特にある国への留学生は、こちらで決めたくてね。」と王が続けた。
するとミルティアスは眉間に皺を寄せ、厳しく王を問いただした。
「選抜試験に公平性を欠けと?」
「政治だよ。君だって僕らの王国が大事だろう。結局のところ、王都と聖都は一つなのだから。」
王の巧みな話術に納得してしまいそうになるのを注意しながら、ミルティアスが食い下がる。
「ですが誰であろうと若い学生たちの夢を摘むには忍びませんわ。」
「ふふ、悪い様にはしない。選抜試験は予定通り行えばいい。」
するとミルティアスは不思議そうに尋ねた。
「では、どうやって特定の者を…」と言いかけたがミルティアスは止め、再び王に言った。
「わかったわ。」
そう言うとミルティアスは白いマントを翻し、謁見の間の出口へ向かった。周りの配下達からまた罵声が飛ぶ。
「貴様!王の許し無しにここを去ろうと言うのか!」
ミルティアスは再び王の方へ振り向くと余裕の表情で答えた。
「ご機嫌よう。」そして軽くウィンクを老人達に飛ばした。
王はやれやれと言う表情で口元を緩めながらミルティアスを見送った。
しかし、ミルティアスの心は穏やかではなかった。
「この教皇の前で行われる選抜試験に細工だなんて、やれるものならやってみなさい。」
こうして不機嫌なミルティアスは帰りの馬車に颯爽と乗り込んだ。
カナンとミルティは、脇役設定なので今後物語の主役にはなりません。でもでも、いつか番外編とか描いてみたら楽しいだろうなあと妄想しています。グフフ。あ、でもこれからもガンガン出てくる重要な登場人物デス!