第7章 ハヅキの能力
末端と言えどやはり王家の者。ハヅキの願書は見事に書類選考を通過した。だが願書を(半分)自分で作り、書類選考を通ったにも関わらず未だ七袖は褒めてくれなかった。
それから毎朝、ハヅキとソフィアは選抜試験へ向けての修行のため、マギア聖学院にある魔法演習場に来ていた。
「それにしても、ハズキ。こんなにおっちょこちょいなのに隠密と影の属性を伸ばしているのは何故なの?」
親友からの質問は相変わらず遠慮がない。ハヅキが答えに窮しているとソフィアが続けた。
「までも、あなたの小柄な体格や身のこなしは確かに向いているわね…」
「私、どうしても行かなくちゃいけない国があるの。」と唐突にハヅキが口走った。
だがどうしてか躊躇してしまい、上手く声が出てこない。またいつもの人見知りに戻ってしまったかの様に。それを察してかソフィアが静かで優しげな声で尋ねた。
「あなたの生まれたところかしら。」
ソフィアはツインテールでこんな性格だけれど馬鹿ではない、とハヅキは思う。良く周りの人を観察し、その行動や言動にも無駄がない。少なくともハヅキにはそう思えた。そして今回も、ソフィアの考えは的を得ていた。
「うん。」それでもハヅキは伝えたい事がどうしても言葉にできない。
「いいのよ、ハヅキ。あなたがいつか話したいと思った時に打ち明けてくれたら、私はきっと嬉しいと思う。」
少しだけ大人びた表情でソフィアはそう言った。
「ありがとう、ソフィー。」
「さあ!それよりも今日も特訓よ!先ずは体力作り。取り敢えずこの演習場をダッシュで100周するところが始めましょう!」とニッコリ顔のソフィアが言う。
「ヤダ。」と小声でハヅキは呟く。しかしソフィアはそれをしっかりと聞いていた。
「フフフ、じゃあ追いかけっこにしてもいいのよ!?」
と言ってソフィアはハヅキを追いかけ回し始めた。その表情は幼女を追いかける痴漢…いや爽やかな朝の妖精の様である、とハヅキは思う。
気づいた時には2人は100周を走り終え、汗だくになりながら演習場の緑を敷いた地面の上、青空へ顔を向けて倒れ込んだ。
「それにしても、ハヅキ。あなたの能力ってとっても特殊ね。」と息を切らしながらソフィアが言った。
「マギアにいる華麗な子息子女には似つかわしくないのかも。」とハヅキが答える。
「そうね。自分の影に100周させるなんて卑怯千万だわっ!」とソフィアが地面に転がるハヅキに飛びついた。「きゃあっ。」とハヅキが声を上げる。
「あ、バレてた?テヘっ。」とハヅキがペロッと舌を出してバタバタと地面を這いながら逃げる。
「くうう、100周終わってからね。ほんとにどこでそんな技覚えたのよ!」とソフィアが怒鳴る。でもその声には羨望の気持ちが篭っている様だ。
遠くから見ると演習場の上で転げ回る2人の少女の姿は、とても修行をしている様には見えない程可愛らしい。
「助けたい人がいるの。」
ふとハヅキが言った。ソフィアは空を見上げるハヅキを横目で見ながら答えた。
「もうっ、ほんとに悔しい。余計について行きたくなるじゃない。」